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102,少女は助っ人を頼む

 顔を真っ赤にしたリティアは、慌ててハルドから離れて椅子に戻ると、彼の腕にあるものに違和感を覚える。

「お守りが綺麗になってませんか??」

「え、ああ。それはリティが、ここに精霊をたくさん集めたからだろうね。お守りの中に入ってくれる優しい精霊でも居たんだと思うよ。」

ありがとうとハルドが微笑めば、リティアの体温はどんどん上がっていき、顔を合わせられなくなったリティアは俯く。

「わ、私は精霊さん達に手伝ってくださいとお願いしただけですので…。そ、その。ハルさん、少しだけで良いのでお力を貸しては頂けませんか?」

「おい、ラド帰ってこい。リティの話を聞いて。」

もじもじしながらもお願いをすると、ハルドはヒメを溺愛するラドを呼び戻し、

「承知した。」

すんなりと近くの椅子まで戻ってくる。じっと2人に見つめられ、居心地が悪くなるリティアは肩に過度な力を入れつつ、一度深呼吸したから気を取り直して、

「昨夜、精霊人形アリシアさんに恐らくルナ様の記憶らしき幻覚を見せられましたが、ケルベロスさんに相談した結果、あるべき事実とは異なっていたようなのです。何故見せたのかという理由を知りたく、アリシアさんの本来の居場所を突き止めようと考えております。どうか、力を貸してください。」

「アリシアか…。どうぞ、貴女様の為であればこの命惜しくありません。」

リティアが深く頭を下げると、ラドから怖い言葉が返ってきて、ハルドがバシッとラドの頭を叩く。

「リティ、それで具体的に何をしてほしい?」

「ま、まずは、学校内の聖堂へ。彼女の棺探しをします。最近まで魂喰いセイレーンの蔓が絡まっていたようなので、セイレーンと遭遇する可能性があります。」

リティアが見渡すと、2人の手には武器が出現した。ハルドはいつもの飛龍牙で、ラドは深みのあるガーネット色の柄を持つ槍。この槍をどこかで見た気がするが思い出せず、今やることではないので諦めてケルベロスへと目を向けると、人が1人乗ることができる大きさまで身体を大きくしていた。

「では、リティはスティックを。」

「ありがとうございます。」

ハルドからスティックを渡されれば、職員用の扉を潜って早速聖堂へと向かった。聖堂のステンドガラスには光を通さずにまるでベタ塗りの絵画となっている。ランプの代わりにハルド達が光体を浮遊させてくれているおかげで日中と変わらない明るさで教室内を隅々まで見渡すことができる。絨毯が敷かれていない一面真っ白なこの空間で、リティアは部屋の中心に立って2人に何をしたいかを説明し始める。

「私は、アリシアさんに美術室へと誘導されました。そこで空のキャンバススタンドに囲まれて、教室の中心には1つの真っ白なキャンバス。そしてネジ代わりのように詰められた作り物の指が指した方向がこの聖堂なのです。」

「あのキャンバスは魔封じの布が使用されているよ。持ってこようか?」

ハルドからの有り難い提案をもらったが、

「いえ、あちらはアリシアさんが贈り物として渡してきたものなので今は不要かと思います。この聖堂に何があるのでしょうか。今のところ蔓はここには見つかりません…。」

今回は使わない気がするので断る。ハルドは壁を撫でて、ラドは天井を見上げて違和感を探し、ケルベロスは端に座って待つ。リティアは精霊の動きをじっくりと観察して、浮遊の動き方に歪さがないかをチェックする。扉、壁、床、シャンデリアへと目を動かすと、一定の距離を保ち浮遊する精霊達。精霊が全く浮遊していない空間が1つ。ステンドガラスの周囲だ。その白いガラスの前に白い精霊が1つだけポツンと浮いているのが目に飛び込んできた。

「白い精霊って、条件が揃わないと発生しないんでしたよね?」

「ああ、そうだよ。全属性だから発生自体珍しい。」

ハルドへ確認の意を込めて聞くと、やはり。リティアはステンドガラスを指差して、

「ステンドガラスの色に紛れるように1つだけあそこに。」

2人の視線を動かせば、目を凝らしたハルドからも、

「ごめん、分からないや。ラドは?」

「申し訳ございません。私達の視界に映らない程に弱小の精霊なのかと思います。」

ラドからも同意の声は得られなかった。しかし、

《娘、よい観察力だ。あれは自然発生の精霊ではない。ご丁寧にそこに配置されているようだ。近づいてみろ。そこに何がある?》

ケルベロスから助言を得られて、話を聞いたハルドがリティアの手を取り、ステンドガラスの前へとエスコートする。

「リティ、どこらへんにいる?」

「描かれた木の幹の中心にあるその白いガラスです。」

ハルドに分かるように、できるだけ近くまで指を伸ばすが、小柄な身体では全く届かない。ぴょんぴょんと跳ねると、

「リティア様、失礼致します。」

ハルドより少し背の高くて体格も良いラドが、リティアを軽々と肩に座らせる。リティアの身体にピキーンと力が入りながらも、確実に白いガラスを教えられるようになり、指でそれを押す。


カラン


離した指に吸い付いたガラスの一部が、床へと落ちてリティアの視線も落ちる。ハルドがヒョイッと拾い上げて、真剣に表面を観察しながら触ったり、指で叩いたりして、

「これは、ガラスじゃないね。石かな…」

「リティア様、破片があったところに隠れていたセイレーンの髪の毛のように細い蔓が下へと下がっていきました。」

ハルドと同じものを見ていたリティアに、ラドがステンドガラスの異変を教えてくれる。バッと顔を戻すと、白い精霊は消えていてガラスと壁の隙間を抜けていく蔓が見えた。

「見えました。ということは」

「確実に辿り着ければ、セイレーンの本体と対面することになるかもしれません。」

ラドの考えを聞きながら床に優しく降ろされて、白い蔓が他にないことを確認し、蔓の向かった向きを考えると、リティア達も下の階の同じ位置にある教室へと移動することにした。ハルドが3階の同じ位置にある教室の鍵を開ければ、そこは音楽室。リティアも使ったことがあり、楽器が教室の隅にケースに入れて保管されていて、普段は歌唱や、踊りの練習も行うため、広く動けるように机がない教室だ。ケルベロスが、その楽器ケースを1つ1つ慎重に匂いを嗅いで魔獣が潜んでいないかを確認する。リティアはまた教室の中心へ、ハルドとラドは壁や床に目を向ける。

《とりあえず、楽器に潜んではいなさそうだ。》

3つの顔を駆使したケルベロスがケースを全て嗅ぎ終わるまでにそう時間はかからなかった。リティアは先程のように違和感を探しながら、

「ありがとうございます。」

と頭を下げると、ピアノの脚に光るものが見えた。リティアは、近くの黒板を睨んでいたハルドに手招きをして、2人でピアノの脚を覗くとそこには白い蔓があった。この細い蔓を目で追うとピアノの内部から脚を伝い、壁へと続いているようだ。ピアノの屋根を持ち上げてもらって中を覗くと、弦に紛れた蔓が1本。そしてそこにもやはり白い精霊が浮遊している。蔓が擬態している弦に対応している鍵盤をハルドがゆっくりと押すと、蔓が慌てるように弦から離れていき、本物の弦だけになる。リティアが目で蔓の行き先を追えば、やはりピアノの脚から壁へ、壁から窓の隙間に出ていった。

「リティ、風を操るからスカートを押さえていて。」

「は、はい!」

ハルドが四方八方に風を動かすと同時くらいに、リティアも自分のスカートが捲り上がらないように裾を押さえる。踊るような風の動きにピアノの弦の隙間から、聖堂で見つけた石と全く同じ物が浮き上がってきて、白い精霊はその石に吸収されていった。

「またこの石ですか…」

《恐らくはルナを象徴するムーンストーンだろうな。》

ハルドが手に乗せた石をラドとケルベロスに見せると、ケルベロスの尻尾が揺れた。

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