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⑴『罪、駆ける、罪』
⑴『罪、駆ける、罪』
㈠
いつからだろう、人生が、生活が、悪循環の波にさらわれだしたのは。意識を巡らせ、遡及するほどに、分からない追憶の世界へと、放り投げだされてしまう。俺は、どこで、罪を犯したのだろう。俺は、神に欺いたのだろうか。分からない。
㈡
罪は、というよりも、罪が、駆けるのである。俺が、駆けるのと、同義だ。駆け抜けて行く先にも、およそ、光というものは、見当たらないのだ。どうしてなんだ、体が、特に脳が、イカれちまったんだろうか。何をするにも、結果は出ない。のうのうと、小説を書くだけの日々だ。
㈢
俺は、端的に言ってしまえば、芥川賞が欲しかったのだ。そう、今振り返るに、そう思う。無論、様々なことをしてきたし、罪の在り処も分からないが、一つ、欲しかったのは、芥川賞だった。その欲求こそが、罪だったならば、今でも、俺の、罪、駆ける、罪は、正しい根拠として、精神に、確実に、根ざしている。