小さな星の、本当に小さな話
星を見たことがありますか。
いきなり何を聞くんだろう。
星を見たことがない人なんて、いるのかな。
『星』って、なんでしょう。
暗い空に瞬く、光の点々のことでしょうか。
私たちの住む地球も『星』ですね。
明るい太陽も星の一つです。
『隕石』のことは知っていますか。あれも星です。
『石』より小さな星もあります。手に取れるくらい近くにあれば見えますが、遠くにあったら、どうでしょう。
『見る』って、なんでしょう。
星が光って、その光が目に届けば、星を見たことになるのでしょうか。
空が明るければ、星は見えません。けれども、星は光っています。
星が見えます。
見えない人にも、見えます。
見えなくても、見えます。
見えるのに、見えない。
見えないけど、見える。
お話をします。とても短いお話です。
本当に短いお話で、気が付いたら終わっているようなお話で、それがどういうお話かと言うと、とても小さな星の、本当に小さなお話なのです。
遠い遠い昔、信じられないくらいの大昔、信じられないほど遠い所に、星の子供がおりました。
星の子供には親がありません。その代わりなのか、兄弟姉妹が沢山いて、わいわい、がやがや、にぎやかに暮らしておりました。
いつからそうしていたのか、いつまでそうしていたのか、本当にそうしていたのか、それは分かりません。
大昔のことです。
遠くのことです。
それに、星の子供たちは、見ようと思っても見えないくらい、とても小さかったのです。
砂粒ほどの大きさもありません。
光ってもいません。
見たことのある人は、一人もいないのです。
そんな星の子供たちが暮らしていたのは、とても寒い所でした。
寒くて寒くて、本当に寒くて、こんなに寒い所で暮らしたことのある人は、一人もいないのです。
そんなに寒い所で、星の子供たちが何をしていたのかと言うと、みんなで一つになって、おしくらまんじゅうをしていたのです。
そうしていると、一人残らず温かくなって、いつまでも、いつまでも、そうしていられるようでした。
いえ、本当は、星の子供は、独りぼっちだったのかも知れません。
本当は、兄弟姉妹なんて一人もいなくて、寒い所で小さくなって、本当に小さくなって、静かに暮らしていたのかも知れません。
大昔の、遠くのことです。
見たことのある人は、一人もいないのです。
ところで、ある時、こんなことがありました。
あんなに沢山いた仲間たちが、一つになっていた兄弟姉妹たちが、まったく突然、散り散りばらばらになったのです。
ある者は、こちらへ。
またある者は、そちらへ。
また別の者は、あちらへ。
一人残らず飛んでいったのです。
いつのことか、分かりません。
何人いたのかも、分かりません。
どうしてそうなったのかも、分かりません。
おしくらまんじゅうに飽きたのかも知れません。
星の子供には親がないと言いましたが、本当はお父さんかお母さんがいて、会いに行こうとしたのかも知れません。
大昔の、遠くのことです。
見たことのある人はいません。
ただ、分かっているのは、この頃から星の子供たちが光るようになった、ということだけです。
星が見えます。
さて、散り散りばらばらになった星の子供たちですが、行く先々では様々なことがありました。
ある者は、とても大きな星になりました。
またある者は、小さな星になりました。
また別の者は、どこまでも、どこまでも、飛んでいきました。
時には他の星と再会して、おしくらまんじゅうみたいなことをする者もおりました。
お話をします。
とても小さな星の、本当に小さなお話です。
その星は、本当に小さくて、砂粒ほどの大きさもないのです。
光ってもいません。
見たことのある人は、いるのか、いないのか、分かりません。
それでも、その小さな星は星なのです。
大昔の、遠くの、星の子供たちよりも、ずっと大きいのです。
ずっと旅をしてきたのです。
大きくなり、小さくなり、どこからか飛んできたのです。
ここは太陽の近くです。向こうから飛んでくるのは、私たちの住む地球です。
大昔のことなのか、つい最近のことなのか、それは分かりません。けれども、小さな星は知っています。
昔と同じように、おしくらまんじゅうをするのです。
そうすると、少しだけ温かくなるのです。
小さな星が光ります。
少しだけ光って、空に火の筋を引いて、気が付いたら消えています。
小さな星はどこへ行ったのでしょう。
星が見えます。
これでお話は終わりです。
小さなお話は終わりです。