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魔王「勇者は今どの辺だ?」 側近「はっ、いま名前を決めているところです」 魔王「は?まだそこ?」

作者: 黒豆100%パン
掲載日:2021/10/27


「クックック勇者は今、どの辺だ?」



椅子に座り笑みを浮かべながら魔王は側近の美女にそう聞いた。大きなツノ、大きなマント、その威圧感のある雰囲気に鋭い牙。それは魔王に相応しい格好でその魔王は赤や紫のデザインされた椅子に座っていた。側近はその力で勇者の動向を監視できるので、今どんな状況なのか見てもらうことにした。



「ええと...名前を決めてるところです」



「え??いま何と?」



「名前を決めてるところです」



「え?嘘でしょ?」



名前を決めているという事は、まだ冒険すら始まっていない。おそらく2日は経っているだろう。普通ならば序盤のところに配置したデビルマンという敵と戦っている辺りのはずだ。だが、その「名前を決めている」という側近の一言に魔王は目を丸くした。



「え?まだ決めてんの?」



「はい」



どうやら名前を決められずに入力しては消して...というのを繰り返しているらしい。もう名前なんて最悪「ああああああ」とかでもいいいじゃん。勇者「ああああああ」ってちょっと変だけど魔王を倒して世界を救ったならそれで良いじゃん」



「この調子だったらこの勇者いつになったらこちらに来るのでしょううね」



「きっと名前で戸惑ってるだけだろう。始まればすぐにやってくるさ...」



「あ!!」



「今度はどうした?」



「今度は武器屋で武器を買っています!



「おお」



ついに勇者の冒険が始まった事に魔王は感嘆の声をあげてしまう。早く勇者と戦いたいという一心で勇者を心待ちにしている。だがその勇者はすぐに来られなそうだった。



「武器を長いこと吟味しています!!」



「は?序盤なんて何でも良いじゃん!何やってんの?こいつマジでさあ!!」




「あ!」



「どうした!」



「ダメです!!ずっと悩んでます!!」



「はあ、なんなの?こいつ。暇だから長いこと寝るわ。あいつきたら起こして」



「かしこまりました」



そう言い魔王は自分の部屋に向かっていった。







「ふわぁー、で、どうだ?」



「魔王様!...その...」



魔王は3ヶ月ほどの眠りから覚め、また椅子についた。そして側近に今の状況を尋ねる。だが側近は何だかあまり言いたそうにない。少し間を開けて、側近は申し訳なさそうに現在の状況を報告した。



「まだ序盤で...お金稼ぎをしています」



「は?今なんて??」



「序盤で、お金稼ぎを」



「なんで?」



少しキレ気味で魔王はそう言う。おそらく序盤の村で手に入るオーガシールドを手に入れようとしているのだろう。オーガシールドは他のものより少し高めに設定されており価格は3000ゴールドだ。もちろん序盤では到底買えるものではないが、序盤でモンスターを倒しまくればいけないことはないぐらいの価格設定だ。その分防御は高くこれを手に入れられれば相当楽になるだろう。



「ねえ、オーガシールドてそんないる?」



「いえ、なくてもそこまで苦戦しないはずです」



「あの辺何居たっけ?」



「オーク、スライムぐらいですね。少し進むとバットバットです」



「ああ、あのコウモリね。そういえば放ったなそんなヤツ。で、何であいつはオーガシールドを手に入れようとしてるの?」




「さあ??」



その様子をただ見ていた。そしてついにその時がやってくる。勇者は手にオーガシールドを持ちルンルン気分で先に進んだ。その先に進んだ事に、やっとこっちに向かってくれると安堵した。だがその安堵はすぐに消える事になる。森に入り道が左右に分岐しているのだ。どちらから行っても問題はないのだが、右に行くと左に比べてやや強い敵がいる。勇者は別れ道の前で立ち止まり首を捻った。その瞬間、魔王は嫌な予感がした。



「おい、まさかじゃないだろうな?」



「信じたくはないですが、そのまさかでしょうね」




魔王の嫌な予想は当たっていた。別れ道の前に立ったまま勇者は全くと言って良いほど動かないのだ。ずっとうーん、うーん、と唸っているばかり。しばらく様子を見ていてもずっと唸っているばかりでなかなか進もうとしない。



「もうなんなのこいつマジで!」



「そうだ、私めに妙案があります!」



「何だ?」



側近はとある事を提案する。それに「それだ!!」と嬉しそうに賛成し、魔王は呪文を唱え始めた。これは召喚の呪文で色々な魔物を召喚できる。そして現れたのは大きな斧を持った目の赤い牛だった。



「お前を勇者の元に送る。だが奴をあの森の先に行かせるだけにしろよ?いいな?」



「御意」



魔王はその魔物を勇者のいるところに転送した。側近はまた勇者の様子を伺う。未だに右か左か迷っている勇者に後ろから先程の牛が迫る。勇者は驚いて戦うが、倒せないことを察して右の道に進む。牛も命令通りに誘導するだけで少し追ってからすぐに追跡をやめた。



「流石だな。倒せない魔物を襲わせて無理やり右か左の道に誘導するなんて」



「お褒めに預かり至極光栄でございます」



「よーし、これで進むだろう...」



「ん!?」



「どうした?」



「進まずに敵をたくさん倒しまくっています!どんどん経験値を得ています!」



「まさか...あの牛を倒す気か??」



魔王の予想は当たっていた。たくさんその辺の魔物を倒し、きた道を戻って牛と戦い、勝てなそうなら逃走しまたモンスターを狩る...そんな事をしながら牛を何とか倒そうと勇者は画策していた。



「早く来いよ...」



「何やってるんですかね?」



「倒さなくても大丈夫なのに...」



魔王は牛を送り込んだ転送の魔法を使い今度はその牛を魔王城に呼び戻した。このままでは一向にこちらに来ないからだ。側近によれば突然牛の魔物が消えて勇者は困惑しているのだと言う。倒し損ねたのは惜しかったのだろう、少し悔しそうにして、勇者はちゃんと進んでいた。




「いかがなさいましょう。またあいつと戦いますか?」



「いや、君いるとずーっと君を倒すために足踏みしてるから、その辺で遊んできていいよ」



「御意」



牛の魔物はどこかに遊びに行ってしまった。側近が勇者の様子を伺うとやっと進むべき道を進んでいた。だが魔王たちにもう安堵の余裕もなく次にいつまた寄り道を始めるのかとただその動向を窺っているばかりだった。

勇者は森を抜けて次なる目的地へと向かう...と思いきや今度は来た道を引き返し始めた。魔王達は何をやっているのかと思っていると別れ道の所にまで戻り、今度は左の道へと進んだ。




「はあ、たまにいるんだよね。別れ道だと両方隅々まで行く奴。早くきて欲しいのに...」



「ですね」



勇者はなんとかもう片方を攻略し森を抜ける。勇者の動向を見るだけでも疲れてくる。



「なんかもう...来たら起きればいいや」



「そうですね。私はまたこちらで監視していますので」



「頼んだぞ」



面倒になった魔王はまた眠りについた。今度は、勇者が来るまで...







「魔王!!!勝負だ!!」



あれから20年ほどが経った。そしてやっとの思い出目の前の勇者を拝むことができた。



「来い!!」



「行くぞ!!うおおおおお!!!」



魔王はやっとこの時を待っていた。勇者との決戦。もう合計でどのぐらい待ったかは覚えていない。ただ、今はこの瞬間を楽しむとしよう。勇者との決戦を...



「うぎゃああああああ」



「は?」



勇者は悲鳴をあげて一撃で倒れた。そのあっけなさに魔王は拍子抜けした。今の攻撃は一番弱い奴だ。そんなんもので倒せてしまうのはおかしい。側近にあの寝た後のことを聞いてみるが、時間をかけながらコツコツと進んで行ったのは確からしい。だったらなぜこんな弱いんだ???あの寄り道がいけなかったのか???あれだけやってこの弱さは逆に難しいだろう。魔王ははあ...とため息をついた。



「要らないところ全部省いた方がいいな」




✴︎




「よし!今から魔王を倒すー」



勇者はそう意気込んでその地に立った。だがその驚きの光景に目を疑った。なぜなら、そこには道一本程度の地形、その先に強そうな剣、強そうな盾、さらにその先に魔王。それ以外は全て海になっている。

村やダンジョンはおろか地形すらいらないところを省いた結果、剣と盾を拾って即魔王戦と言うのが魔王の試行錯誤の結果だった。その剣、盾、魔王しかいない細い道程度の幅しかないその世界で、魔王はこう言った。



「さあ来い!勇者よ!!!」

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[一言] 寄り道はRPGの醍醐味なんすよ それはそれとして弱すぎる
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