第8話 勇者ハーレイサイド~撤退、魔法使いの暗躍
レジナルドとリズが重傷を負い、ハーレイも毒を受け衰弱している状況。
杖をふるい、足元に地上転送用の魔法陣を魔力光で描きながら、ジェレミーはなおも考えをめぐらす。
(……追放された、なんとか言う人。彼が居ないせいなのでしょうか?
まさか。【絵描き】に一体何が出来るというのです)
魔法陣が完成し、ジェレミーは転送の魔法を発動させた。
ハーレイたち一行は光に包まれ……
次の瞬間、ハーレイたちはダンジョンの入り口の外に戻っていた。
月が天高く輝き、もう深夜と言える時間帯だ。
「も、戻ってこれた。ありがてえ……!」
「じゃあ、治療師のいる首都教会まで行かないとですね。人、呼びます?」
「頼む、俺ももう動けねえ」
ダンジョン近くにある建物には非常時に備えた騎士が数人、常時待機している。
彼らを呼び、手を借りてかろうじて首都教会までたどり着くハーレイ一行であった。
教会にて治療師に解毒の魔法をかけてもらい、ハーレイの体調は元に戻った。
リズとレジナルドはかなりの重傷ゆえ、治癒に数時間かかるという。
「く……しばらく足止めか。畜生……!なんで俺がこんな目に!足手まといのゴミダリンを切り捨てて、望みの魔法使いまでパーティに加入させた!なぜだ!なぜ今、俺はこんなところにいる!?」
教会の椅子に腰かけ、うなだれながら悔しがるハーレイ。
教会の人間に深夜だからお静かに、と注意されるがハーレイの怒りは一層高まったようで、
余計大きな声で騒ぎ立てるのだった。
そこへジェレミーが静かに歩み寄り、ハーレイの目の前に立った。
ハーレイが顔を上げると……目の前が光でいっぱいになり、ハーレイが何事かと警戒して一瞬腰を浮かそうとするもすぐ大人しく腰を下ろし、とろんとした目つきでジェレミーを見つめた。
「すいません。わたしちょっと適当な所用がありまして、ここを離れなければならないのです」
ジェレミーが言う。
普段のハーレイであれば「適当」などと言われたなら即腹を立て、相手を問い詰めるはずだったが、
「ああ、かまわねえ……めちゃくちゃ助かった。ジェレミー、あんたすげえぜ……あんたみたいなのが今まで名を知られてないなんて」
などと穏やかな返答をかえす。
「はは、それほどでもないですよ。それでは、また」
「ああ、また頼むぜ……」
終始落ち着いた様子でハーレイは頷く。
そんなハーレイに踵を返してジェレミーは教会を出た。
向かう先は、ハーレイ一行が泊まっていた宿……
▽
「ええと。ゴミ……ダリン?さんの部屋はどこでしょう?」
「なんだ、アンタ……こんな夜中に。そろそろ閉めるところだ。泊まるつもりがないなら出てってくれ」
宿屋の親父はあからさまに不審な目つきでジェレミーを見たが、ジェレミーが指先に光る玉を発生させて親父の目先に突きつけると、親父の目がとろんとなり酔ったように頭をふらふらさせだした。
「同じパーティのものです。勇者ハーレイ一行の」
「そうか……ダリンさんの部屋は205号室、だったが……もう引き払って今は、空き室だ……」
宿屋の親父はぼんやりとしながら素直に答えた。
「誰も居ない?引き払った後は誰か入りましたか?」
「誰も……朝、ベッドメイクとかしなきゃな……」
「わかりました。では、今ここでわたしと会ったことや聞かれたことはお忘れください」
「ああ……」
宿屋の親父はゆっくりと頷いた。
ジェレミーは指先の光を振って消す。階段を上り、205号室へ。
あっさりと鍵を開け、中に入り、部屋中を見渡してみる。部屋の中は真っ暗だが、ジェレミーの目には昼間と全く変わらない様子で手に取るように隅々まで見通せている。
ふとジェレミーの視線が部屋の一点で止まった。
隅のゴミ箱に何かが大量に詰め込まれている……
とりだすと、ダリンが過去に描いた勇者ハーレイ一行の絵だった。
ドラゴンだの魔王だのと勇壮に戦ってる様子が描かれている。
全てナイフか何かで絵の中心を×の字に切り裂かれ、くしゃくしゃにされていた。
ただのゴミか、とゴミ箱に放り込みかけたジェレミーだが、何かに気づいたようにまた絵に目をやった。
「ふむ……?わずかですが、何か魔力の残滓のようなものを感じますね……」
首をひねり、しばし考え込むジェレミー。
「あのゴミダリンとか言うの、もしかしたら只者ではないのかもしれません……」
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