最終話 旅立ち
「あ、アメル?」
こんな夜中の来訪者、それは意外にもアメルだった。
「は、入っても、良いですか?」
「いいけど……」
きょろきょろしながら入ってくる。
「どうしたの?」
「そ、その……ヨバイを、しに来ました……」
はあっ!?
い、いやちょっと待て。なんて言った?意識飛んだぞ。
「あ、あの。マリタさんから言われたんです。今日が既成事実を作るチャンスだ、ヨバイしてこい。
夜に部屋行ってこい、最低でもソイネしろと。良く分からない単語ばかりでしたが……
ダリンさんと関係を進める機会とかなんとか」
マリタ、あのやろう……
なんてことを教えてくれたんだ。いや良く分かってないらしいけど、アメルにはまだ早いだろう。
しかしヨバイだのソイネだの、妙なイントネーションで言われると地名とか国名みたいだな。
いやそんな事はどうでもよくて……
アメルはしばらく両手をもみしぼったり、視線をあちこちにやってみたり、目をつぶって考える様子だったり。部屋に入って来てから、会話のないまま結構時間が経ってしまったが、ようやくアメルは意を決したように話しだした。
「そ、その。ずっと前から思ってたんです。10階到達したら。ダンジョンを攻略完了したら……言おうって」
詰まりながら、目も泳ぎながら。
少しずつ言葉を紡ぎだしていくアメル。
「まさかこんなに早く達成するなんて思って、なかったですけど……だからちょっと急な感じで、ごめんなさい。あたしも心の準備が、ちょっと、ですけど……」
ヨバイだのなんだのと、以前からの態度もあって察しはついたけど……俺はアメルの言葉を待った。
「最初は頼れるお兄さん、そしてあたしの才能を見つけてくれた、恩人。だったんですけど、いつの間にか……」
アメルはもう真っ赤だ。
しかし次の言葉は、しっかりと俺の目を見て言った。
「あたしの気持ちは、ダリンさん。その……すき、です。お慕い、もうしあげて、ます」
使い慣れない言葉でちょっとしどろもどろだったけど。
告白、されたんだよな。俺。
ちょっと前にリズにもさりげなく言われたけど、嬉しさは全然違うな。
「だ、ダリンさんは、あたしの事、どう……思ってるんでしょう、か……」
じっと上目遣いで見てくる。
確かに俺もアメルが好きだが、アメルの好きと俺のは同じなんだろうか。
なにせ、そういう事に関しては全くの……素人だ。
「そう……だな」
しかしアメルの真剣な思いには真剣に向き合わなければ、いけないだろう……
俺は考えながら、言葉をつづけた。
「俺は……いままでひたすら冒険者になる事だけを夢見て、そして実際に冒険者になって……ハーレイのパーティで必死に生き残る事を考え、パーティのために尽くして。追放されてからも、ひたすらダンジョン攻略に明け暮れて……」
アメルはじっと俺の言葉を聞いている。
「そういうことを……ほとんど考えたことがなかった。竜座のダンジョン攻略がなった今。俺は外の世界を見て回ろうと思っている。いろんな景色、国を、地上の世界を見て、絵に描いて。そういう旅をしようと思っていた」
「旅、ですか……」
「……で、その。旅に、隣にアメルが居てくれるなら……それはとても楽しい旅になるんじゃないかって。いや……アメルのいない旅は、考えられないな」
アメルのスキルがどうとかでなく。
俺はアメルと一緒が、いいらしい。
そういうような心を、素直に伝えたつもりだ。
「ダリンさん!」
「来て、くれるか」
「もちろんです!ああ、ダリンさん!」
胸に飛び込んできた。そのタイミングで、
「あーあー。先を越されちゃったなあ」
突然窓から声が聞こえたので二人して飛び上がってしまった。
シンシアだった。
ここは地上2階、面している中庭には衛兵も巡回してるはず……ってシンシアには関係ないか。
吹き抜けの窓をよいしょと乗り越えてきて、
「夜這いにきました」
堂々と宣言した。おいおい……
「シンシアさんもヨバイしにきたんですか!じゃあ一緒にソイネも?」
明らかに分かってるシンシアと分かってないアメルだった。
「いいわね、あとでしましょ」
するんかい。
「永遠の妹ポジだと思ってたのになあ。結局わたしは永遠の姉ポジ、か。うーん。まあ、それでもいいかあ」
とシンシアはひとしきり独り言をぶつぶつとつぶやいて、
「でも、これだけは譲れない」
と、ぐっと近づいてくる。
「ダリンちゃんの旅に、わたしもついてって、良い……よね?」
とこれまた上目遣いで不安そうに見てきた。
そんな顔でそんな態度で言われちゃったら、なあ。
「こ、断る理由は、ないかな……アメルは?」
「ダリンさんが良いなら、良いですけどお。……でも、シンシアさんなら文句なんて、ないですね!」
ほんのちょっとだけ不満そうだったけど、ここで仲間を邪険にするような性質なんて当然アメルは持ち合わせていない。
結局は<三つの星>はいつも一緒だってことだ。
ちょっと周囲を確かめる。
……さすがにここでシルヴィアの乱入はなかったか。
まあ、旅にはどうせ加わってくるだろう。二人も快諾するに違いない……
そうして、ソイネは実行された。
同じベッドで、三人で川の字にになって……いやほとんど重なった状態で。
両側から二人に抱きしめられた状態で寝るのはいろんな意味で大変だった……
▽
そして夜が明けた。
息苦しくて早くに目覚めると、自分の胸の上で猫みたいに小さく手足を折りたたんで寝ているシルヴィアが居た。
「……そういう乱入の仕方は想像してなかった」
「ん。んん……。なんじゃ。起きたか。朝起こしに来てみれば、皆で楽しく寝てたので混ざってみた」
ドラゴンの朝は早い……そして二度寝も普通にするようだ。
「いまさら我を仲間外れにするでない。良く寝れたか?」
「……おかげさまで……」
両横で寝ている二人の寝顔を見ながら、俺は笑って答えた。
そうして俺たちは旅に出た。
王都を出て、これからは明るい陽の元で。
次の町への街道を歩きながら、わいわいと尽きない会話を続ける。
「あたし、いつか普通にパンを作って普通にお客さんに食べてもらう、パン屋さんになりたいです。
ハサウェイのパンじゃなくて……自分で作った、自分のパンを。食べてもらいたい。世界を巡って、そのための勉強もしたいです」
「じゃあ、その時は俺がパン屋の建物を絵で描いて建てる、ってのはどうかな」
「わあ、本当ですか!お願いします!」
「お姉ちゃん、そのパンを空を飛んで配達する宅配人になろうかしら」
「魔女の宅配人か」
「良いですね!」
「我は?」
『マスコットキャラで』
「なんでじゃ!声を揃えて……ええい、皆でほのぼのした視線を寄越すのやめるのじゃー!!」
これから行く先々で、【絵描き】【パン職人】【魔女】が冒険者パーティを組んでダンジョンを攻略したなんて、言っても信じてもらえないだろう。
なんだってそんな無茶を。
人には適職ってものが……
向き不向きってものを考えて……
適性の儀が……
でもかまわない。
俺たちはこれからも、自分がやりたいように生きて行こう。
誰にも、俺たちの人生を決めさせない。
終わり
最後までお読みいただきありがとうございます!
アニメ『魔●の宅急便』の中に出てくる、
「魔女の血、絵描きの血、パン職人の血。神様か誰かがくれた力なんだよね」
というセリフ。
「その三つがファンタジーのジョブでパーティを組んだなら?」という
思いつきを無理やり膨らませて、流行りのざまあ風味をつけて出来あがったこの作品。
自転車操業状態で一日一話執筆更新を続けて、なんとか完結させることが出来ました。
このスタイルはあまり良くないですね……推敲する時間がない……
次はだいたい完成させてから投稿しようと思う次第でありました。
そもそもの力量不足でだいぶ至らない点が多かったと思いますが、ブクマしてくれた方々、評価を入れてくれた方々。感想をくれた方々。誤字報告をしてくれた方々。
大変感謝しております。ほんとにありがとうございました!!




