第38話 <三つの星>の帰還
俺たちは地上へ、ギルドへ帰還した。
「うおおおお!!」
「つ、ついにやりやがった!」
「マジか……とんでもねえ奴らだな、あんたら!!」
俺たちの冒険者カードに刻まれた″竜座の10(了)″、つまり10階攻略完了の証を見た冒険者たちは皆驚き、興奮し、賞賛の声を上げ……入れ替わり立ち代わり、おめでとうの言葉をかけてくるものが現れ、さんざん俺たちを胴上げしたあと、国歌を歌うもの、冒険者たちに愛される古の唄を歌うものが続出し、そして勝手に宴が始まった。
「さっすが、じぶんが見込んだダリン率いるパーティだぜ!!おまえら!リスペクトせよ!」
「おおー!!」
「乾杯!!乾杯!!」
「『竜座のダンジョン』攻略おめでとう!!」
「おめでとう!!」
宴の中心はやっぱりマリタだった。
結局なんだかんだ言ってお祭り騒ぎがしたいだけじゃないのか、こいつは……
苦笑していると、ギルド長がやってきた。
今回提出したのは、9階フロアボスの魔晶核とその他もろもろ雑魚敵の魔晶核。
ジェレミーが封じられた竜のクリスタル(欠片)。
そして、最下層には何があったのか。そこで何が起こったのか……簡単な報告書。
お祭り騒ぎになってそれどころじゃなくなる事を見越して、あらかじめ書いておいたものだ。
ギルド長いわく「詳しい話が聞きたい」とのこと。
やれやれ、ここからは色々と面倒な事が続きそうだ……主に公的な手続きやらなにやらで……
なにしろ歴史上初の『竜座のダンジョン』攻略者。
根掘り葉掘り聞かれたり、公文書の作成とかなんかに色々と協力しなきゃならんのだろうなあ。
▽
疲れた顔で首都教会を出ると、アメルたちが出迎えてくれた。
「お疲れ様です!」
「おつかれダリンちゃん。大丈夫?揉む?」
「なにをじゃ」
首都教会には詳細な報告書の提出、そして『嘘看破』『真実看破』のスキルを持つ審問官にさんざん質問され回答を要求され。地下10階での出来事以前にハーレイのパーティに居た頃からの話をもさせられて、ほとほと疲れ果ててしまっていた。
しかし皆の出迎えを受けて、ちょっと元気は戻ってきたかな。
「ジェレミーの件は国家転覆を計った者に対する応急行為として、俺たちにおとがめは特になしってさ」
「良かったです!」
「ほっとしたわあ」
胸をなでおろすアメルとシンシア。一番心配していた件だろう。
一応命までは取ってないし、私心からの行為でもなく、さらに10階攻略完了したことによる評価なども重なって無罪放免となったというところか。
「あとジェレミークリスタルは研究しようなどと思わず、永遠に箱の中に封じておくことを勧めたよ。下手に触ると、その人も魔力を魂を吸われるってな」
「それが良いでしょうね……」
「【絵描き】が作った設定上、未来永劫ジェレミーは封じられたままじゃろうがな」
「……しかし皆、なぜ魔導師のローブを?」
アメルもシンシアも、魔導師のローブを身に着け、フードを深く下ろしている。
シルヴィアだけは普通の、というか俺がデザインした服のままだ。ローブっぽくはあるけど、フードはない。
「わたしたちは、今や国の英雄なのよ。街をいつもの格好で歩けば、たちまち人だかり。歩くのすら無理になっちゃう。
だから、よ。はい、ダリンちゃんの分」
と、シンシアが俺の分だというローブを渡してきた。
国の英雄……確かに、歴史上はじめて10階を制覇したわけではある。
達成感はすごかったし、成し遂げた!とは思うけど。そこまで祭り上げられるなんて、ちょっと想像しなかった。
また違う意味で、達成の実感が湧いてきたかも。
『外れ』扱いのジョブだけのパーティが、英雄、か……
なんか、叫びだしたくなってきた。が、ぐっと我慢する。明日も大変なのだ。
「国王との謁見が明日行われる。俺たちみんなで。そして祝賀会が王宮で開催される事になった」
「ええー!?お、王様と!?あたしたちが!?」
「それはお姉ちゃんも緊張だわあ……」
「我もか?」
「もちろんシルヴィアも。てことで今日は謁見のための衣装の準備だな」
▽
そして次の日。
この国の中心にそびえる王城の、王宮、謁見の間。
王との謁見、<三つの星>への勲章の授与……
粛々と式典が進んでいく。
<三つの星>は歴史上はじめて『竜座のダンジョン』を攻略完了したパーティとして、『英雄の間』に石像が残されることになった。
この後、王からの公式発表が行われ、王とはかつてないお祭り騒ぎに包まれることになるだろう。
しかし『竜の力』に関して、王はシルヴィアをどう扱うか。
それ次第では、もしかしたらこの国を敵にすることもありえる……
「そなたが、『竜の力』の持ち主……そもそもはドラゴン、だと?」
王がシルヴィアに向かって改めて問う。
「そうじゃ」
「……」
「なんじゃ。なんぞ文句でもあるのか。証拠を見せろと?」
暴れられても困るぞ。という目線を送るが、フンとそっぽを向くシルヴィア。
「いや証拠はよい、報告は聞いておるが……実際に見て、どう判断したものか迷うな、これは」
確かに見た目10歳程度の幼女がドラゴンだと言われても、困惑するしかないだろう。
「世界を制する力、どころかドラゴンの存在すらも、もはや周辺諸国などは信じてもおらぬ。
しかし実際に存在した……が、このような姿で現れるとはな。報告に嘘偽りがないとは分かっていても、にわかには信じがたい話だ。周辺諸国もそう考えるだろう」
王はひげを引っ張りながらシルヴィアを改めて眺めた。
「この国の王は、竜の力をどう使おうと思っておったのじゃ?」
そんな王にシルヴィアが問う。
「それは……力の形次第、と。使いようがあるかないか。人間の手に余るか否か。どっちにしろこの世を荒らすつもりは無い」
「それはなにより」
「が、幼な子の姿を取って現れるとは想像もつかず」
「んぐぅ……」
シルヴィアは耐えた。
こちらにとげのある視線を投げかけてきたが、顔をそらして素知らぬふりをした。
「わしが何がしかの野望を持っていたとしても、このような子供を戦争などに使うなどあり得ぬ。聞けばそなたも平和主義者と聞く。今後の身の振り方は自由にするがよい。誰が見てもドラゴンとは思うまいし竜の力の持ち主とも考えまい。公式発表では『竜の力は結局存在しなかった』としておく」
王の決定が下った。
シルヴィアの身を預かるだの言われなくて良かった。
彼女ももう俺たちの仲間だと思っている。
シルヴィアを利用するような国の味方になるつもりは毛頭ない。
かつて世界から追われる事になった竜と勇者のようなことになる可能性も考えていたが、最適解にたどり着けたようだ。
「良かったねシルヴィアちゃん!」
「子供の姿で得したな」
「お主。式典が終わったら覚えておれよ……」
「じ、実際に役に立ってると思うが!?」
「竜の姿であれば、人間世界とは関わらないと言ってさっさとどっか飛んでいけたわ!」
それもそうかも……
しかし、今となってはそれはちょっと寂しい別れになるな。
そんな思いを汲んでくれたのか、
「ふん。だが、この体を気に入ってないと言えばうそになる。しばらくはこのまま……お主たちと共に居るのも一興じゃろう」
やや顔を赤らめて、そんな事を言ってくれた。
その夜、王宮にて豪勢な祝賀会が開かれたのち。
あてがわれた豪華な一人部屋のベッドで寝転がる。食いすぎた……
いつもの宿屋とは違ってやわらかふかふかで広い。
……逆に落ち着かないな。
なんとなく眠れないでいると、コンコンとノックの音。
「はい?」
扉を開けると、そこには寝間着姿のアメルがいた。
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