第37話 決着
「そうか、ハーレイが使っていた透明になるスキル。あれを使っていたのか」
「ぐふっ……!」
シルヴィアに地面に背中から叩きつけられ、肺の空気を全て吐き出したジェレミー。
しばらくげほげほとせき込む。
そして膝をついた状態で起き上がり、
「影以外、気配も匂いも音も消すスキルだったはずですが……良く分かりましたね……
消費魔力がバカ高いこのスキルも、竜の魔力なら通常運用できて便利だと思ったんですが」
どこまでも余裕ぶった姿勢を崩さないやつだな。
だがもう終わりだ。
俺は既にジェレミーの姿を描き終えた。
シルヴィアも、ジェレミーを掴んだ時に竜の魔力を全て回収したようだ。
もう奴には打つ手はあるまい。
あとは、どのような処遇を与えるか。
「王都の裁判機構で裁けますかね?」
「さあ、今の人間の社会がどうなっているのか我は知らぬ。あとはまかせたのじゃ」
「わたし何かやりましたかねえ?」
「ハーレイを罠にはめて死に追いやっただろう。あと竜の魔力を使って世界を混乱に落とそうと画策した」
「それくらいなら……懲罰金と10数年の服役でまた出てこれそうですね。ええ、まだまだ、何かやれそうです」
こいつ……なんてめんどくさいやつなんだ。
今すぐ氷漬けにでもしたい気持ちになったが、そもそも冒険者には悪事を働いたものを勝手に処罰、命を取るような権利などない。
「結局のところ、上に戻って警護騎士に引き渡すしかないわね」
「そうですね……」
シンシアもアメルも複雑な表情だ。
しかし、それしかないか。
「とりあえず手とかを拘束しとくか。立て」
「仕方ないですね……ところでシルヴィアさん。竜の魔力、それで全部と思ってます?」
立ちあがりながら、ジェレミーがつぶやいた。
「なんじゃと?」
振り向いたシルヴィアとジェレミーの目が合った……その瞬間。
ジェレミーがガクッとその場にくずおれ、シルヴィアが頭を抱え、うめき声をあげだした!
「うあっ……こやつ……!」
「ど、どうしたの!?」
「大丈夫ですか?シルヴィアちゃん!!」
まだ、ジェレミーは奥の手を……!?
くずおれたジェレミーの手が開き、そこから小さな宝珠のようなものがぽろりと落ちた。
もしかして、竜の魔力を別の入れ物にストックしておいたのか!
「こやつ、【精神感応者】のスキルで、……我を、我の魂と同化するつもりじゃ!!」
なんだって!?……魂と同化?
しかしシルヴィアは精神操作を受け付けなかったじゃないか?
「あうあっ……人間なんぞに、同化されて、たまるか……いや、……わたしの最後の、文字通り全身全霊をかけ、竜の魔力で増幅スキル一点集中突破、なら……竜の魂といえど……あああうっ……」
シルヴィアの言葉に、ジェレミーのものらしき言葉が混じってくる。
「が、頑張ってくださいシルヴィアちゃん!!」
「どうしよう?ダリンちゃん!?どうすれば?」
とは言っても、今のシルヴィアを描いてどうかなるのか……?
攻撃するわけにもいかない、かといってジェレミーの魂だけを特定してどうにかする描き方なんて……
周囲を見回す。何か、何か手は……
「クリスタルの、欠片」
ふと目に入った、シルヴィアが入っていたクリスタル。
「触れたものの魔力と魂を吸収する、シルヴィアのスキルが付与されたクリスタル……」
俺はアメルにレーズンパンを出してもらって食べ、スキル威力を増幅。
そして強く強く、イメージする。これから描き加えるものの詳細を。
構造を。性能を。事細かに……
自分ならできる。絵で伝えられる。込められる……!
全身全霊を込めて、勇者の絵筆を走らせた。
描き上げたものは、そのクリスタルの破片と。……
「シンシア、こいつをジェレミーに!」
シンシアが頷き『浮遊』のスキルを使って、破片をジェレミーの魂が入りかけているらしいシルヴィアの目の前に持って行く。
「お前の魂の居場所は、ここだ、ジェレミー!」
「ああ?ああ……ああああああああ!!」
するとシルヴィアの体から何か白く光るもやのようなものが飛び出し、クリスタルの破片に吸い込まれ……消えた。
「……おお?……我……は、我のままじゃ……お主、何をした?」
シルヴィアが頭を振る。どうやら正気に戻ったようだ。
「何をしたんですか?ダリンさん」
「竜のクリスタル。その破片だよ。その破片の絵を描いて、そしてその破片の中に囚われたジェレミーを描いたんだ。そういう性能がある、そういう性能を追加するとイメージして」
その破片の絵の、描画による『鑑定結果』には、俺の願う性能が反映された文章が書かれていた。
【竜のクリスタル(欠片)】
[ジェレミーの魔力と魂を吸収する、シルヴィアのスキルが付与されたクリスタル。
ジェレミーの魂を未来永劫、封じて外に出すことは無い]
そして実際のクリスタルの欠片を見ると、小さくなったジェレミーが中に入っており、
「……!……!!」
何事かを叫んでいる。
「ダリンちゃん、すごいわ……」
「さっきの太陽や雷、吹雪などの自然現象も自分の思う通りに出現し、動いたりしてくれた。
なら、こういう静物にも自分の思う通りの働きや性能が込められると思ったんだ。そして、勇者の絵筆もその思いに答えてくれた」
「すごいです、本当に……ダリンさん」
パンのおかげでもあるかな。
「いや、よくやったのじゃ……本当に……助かったぞ、【絵描き】のダリン」
シルヴィアがうつむきながら軽く頭を当ててくる。
実際かなりやばかったようだ。
よしよしと撫でてやる。
「なあっ!子ども扱いするな……って言う、のに。く……」
しかし暴れだしはしなかった。案外心地よさそうにしている。
アメルとシンシアも横から入って来て撫でだした。
なでなで……なでなで……
「もうええわいっ!」
さすがにシルヴィアも赤くなって暴れた。
……しかしこれで、終わった。すべて。
あとは、地上へ帰って。
ギルドに報告する。
<三つの星>は、『竜座のダンジョン』を攻略完了したのだ……
▽
クリスタルの欠片の中。
ジェレミーは悟った。
この一切の音のない、緑色の空間は、永遠に同じ時間が続くことを。
死にもしないが……生きているとも言い難い。
そしてなんといっても、ここでは何も起きないのだ。
「出せ……ここから、出してくれえ……っ!」
答える者はいない。
声もどこかへ吸い込まれるように消えていく。
混沌を望むジェレミーは、永遠に続く平穏の中に囚われることになったのだった。
次回。<三つの星>の帰還
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