第36話 決戦
ざあっ、とジェレミーの群れがこちらにやってくる。
数百体のジェレミーがそれぞれ準備したスキルによる飽和攻撃を仕掛けるつもりだ。
速度アップのパンを食ってても、この数を一人ひとり描いて対処するには時間が足りないか……!
「耳をふさいでおれ」
シルヴィアが、すうっと息を吸い込んだ。
と思うと、
「わああああああああああああああああああああ!!」
とんでもない声量の雄たけびを上げた。
耳をふさいでてもビリビリくる。これも一種の竜のブレスなんだろうか……?
正面にいたジェレミーたちは突然の音の暴力に麻痺状態に陥った。
シルヴィアはそれへ手を向けると、近くに居たジェレミーたちの体から緑に光る粒子が飛び出していく。それを吸収するシルヴィア。
「ほれ、竜の魔力じゃ。勇者の絵筆を復活させた」
「おお」
勇者の絵筆に光が戻る。
これなら、行ける!
「……リテイクの件じゃないよね?」
「そんな暇あるか!!」
シルヴィアに怒られた。
まずは、動きを止められているうちにジェレミーたちをどうにかする!
さっきシルヴィアの体を描いて作った時のように。
重要なのはイメージだ。
出現させたいものはもちろん、場所や位置をもはっきりとしたイメージを頭で描き、羊皮紙に描いて……
ジェレミーたちの群れの中心に、太陽を出現させた!
やつらは本体以外は紙だ。突然現れた巨大な炎の塊に、近くに居た者は瞬時に消えさり、遠くにいた者も体の端に火が付いたと思うと、あっと言う間に全身に燃え広がり灰と化した。
「やりおるのう!!」
シルヴィアがあとに残った魔力を回収していく。
太陽は30秒ほどで消えた。一応は時間制限があるっぽい。
羊皮紙に描いた太陽も消えたが、消える直前まで太陽のステータス的な数値が並んでいた。それも太陽と共に消えたが。しかし自分が描いた絵にも鑑定効果のようなものが付いてくるようだ。
そこに【効果時間:30秒】とあった。誰が決定したんだろうなそんな事。絵筆を作ったシルヴィアだろうか。こういう設定を自分で変更とか出来ないものか?
「なんですか?びっくりしました!」
「なに、さっきの音?」
アメルとシンシアがシルヴィアの雄たけびで目が覚めたようだ。
「ジェレミーたちと最後の決戦中だ。背後を任せる!」
「は、はい!」
「わかったわ」
俺とシルヴィア、アメルとシンシアがお互いの背中を守る形に陣を敷く。
そして本格的な戦いが開始された。
シルヴィアから竜の魔力を分け与えてもらい、最大魔力量を超えて回復したシンシアが魔晶核の防御陣を再展開。その隙間から、中~遠距離で仕掛けてくる【魔法使い】などを盾で狙い撃つアメル。
シルヴィアは近距離でちょこまかと動きながら、接近してくる【狂戦士】【忍者】【武闘家】に対処している。
「うりゃーん!」
叫びながら、殴る。蹴る。突く。
狂戦士は顎の骨を、忍者は首の骨を。武闘家はあばら骨を砕かれ、吹っ飛んでいった。
「はっはっは!人間の体、これはこれで!楽しいのう!!」
背後から迫った【暗殺者】の顔面を裏拳でへこませ、笑うシルヴィア。
「あんな近距離無双な幼女は想像してなかったわ……とんでもない力ね」
「竜の魂が宿ってるせいでしょうか?」
何にしても、接近戦がそこまで得意ではないパーティを補ってくれるのはありがたい。
シルヴィアはとにかく防御陣の外を素早く動き回り、ジェレミー(近接系)を屠りまくる。
【拳闘家】との戦いでは正拳突きの打ち合いで相手の拳を割り、【侍】の刀を手刀で折り、【盾使い】の盾を蹴りの一撃で砕いた。
倒されたジェレミー(紙)から放出される竜の魔力はその都度シルヴィアが回収していく。
しかしジェレミーはどこで武器防具を調達しているんだ。
どこかに【刀鍛冶】か【錬金術師】か何か、もしくは武具投影魔術を使える奴でもいるんだろうか。
「ふいー!ちょっと入れろ!」
と、ここでシルヴィアはいったん防御陣の中へ。疲れたのかな?
「はらへったのう。冒険者の糧食?とやらはないか?」
疲労じゃなく空腹だった。あれだけ立ち回れば腹も減るか、ってそもそも長年何も食べてないだろうしな。
「ちょっと待って」
戦力の低下を補うため、俺は周囲に小さめの太陽を10数個描いて配置した。
ジェレミーは完全に分散して襲って来るので、大きい太陽一個でまとめて攻撃は効率が悪くなっている。
「糧食。はよ」
しかし冒険者の糧食、って人間の食べ物をドラゴンは食べるのか……
「昔、勇者に貰って食べたことはあるのじゃ。あれは実に不味かったがエネルギーの補給にはなろう」
「それなら、うちのは最高のものを出せる。アメル、頼む」
「はい!」
アメルはベーコンレタスサンド、卵とベーコンのサンド、七面鳥サンドを出した。
幸運とスタミナと素早さアップか。近接系向けで、なおかつ不慮の事故を想定したかな。
「……う、うっま!!」
パンを一口かじったシルヴィアが、感嘆の声を上げた。
「なんじゃこれは!?今どきの冒険者はこんな美味いものを食べながらダンジョンに潜っておるのか!?」
目をきらきらさせながら、パンをめいっぱい頬張る。
「贅沢すぎんか!?しかも何か、妙にみなぎるものを感じる……」
「うちのパーティだけだな。一流のパン職人が居るんで」
アメルが赤くなった頬を両手で隠しながら、しっぽをぶんぶん振った。
「い、いや、美味しいのはハサウェイのパンですから!」
「アメルのスキルあってのものでもあるだろ。まあ、この戦いが終わったら、感謝のしるしとして
ハサウェイ通いをしばらく続けるべきかもな」
「お主、変なフラグを立てるでないぞ……」
フラグ……?
「ともあれ腹は満たされた。またひと暴れしてくるのじゃ」
言うが早いか、魔晶核の防御陣(高速回転中)をすり抜けて出ていくシルヴィア。素早さが極まっている……
その後しばらくシルヴィアの近距離無双と<三つの星>の防御陣内からの遠距離戦が続いた。
どうにも膠着状態だ。ジェレミーは恐らく数にまかせての消耗を強いる作戦なんだろう。
こちらが相手の攻撃に問題なく対処出来てるだけに、徐々に単調になり緊張感が薄れる可能性もある。その隙をつかれないとも限らない……
「パンよこせー!」
またシルヴィアが戻ってきたので聞いてみる。
「ジェレミーの本体、判別できない?」
「……お主、だんだん我に対する口調が普通になってきとるの。竜の姿の時はまだ敬意があった気がするが?」
「いやシルヴィアの見た目的に……」
ぎろりと睨まれた。
幼女の姿にどうしても引っ張られるから仕方ないのだ。俺のせいだけど。
それよりも本体の件について。
「まあよいわ。本体、見た目じゃさっぱりじゃからの。なんとも言えぬ」
「……ジェレミー本体は竜の魔力を所持してるわけでしょ。その魔力が一番濃い人が本体、だったりしないかしら?」
シンシアが提案した。
「なるほど。その手があったか。お主もなかなかやるのう」
蒸し焼きビーフサンドをむしゃりと獰猛に引きちぎりながら食べたシルヴィアがにやりと笑う。
そして目をつぶり、集中しだした。
その間をフォローすべく、絵を描くことによる多彩な現象を周囲に展開。
吹雪が吹き荒れる中に数個の太陽が輝き、巨大な岩が落ちてきたかと思えば連続して落雷が起こる。
地下10階ののどかだった風景に、異様な天候が現れては消えていった。
そのたびにジェレミーが燃え、引き裂かれ、潰され……元の紙に戻っていく。
「すごい……ダリンさん、すごすぎます!」
「もはや天候魔術師ね。稲妻が走るのを見るの楽しいわあ」
「雷ちょっと苦手なんじゃがな……よし、分かったぞ」
シルヴィアが目を開け、くるりと頭をめぐらし、一点を見据えた。
「本体は……そこじゃあー!!」
ものすごい速度で防御陣をすり抜け飛び出したシルヴィアは、竜のクリスタルの瓦礫に突進。
その陰の、何もない空間を掴んだ。
「うぐっ」
シルヴィアに喉を掴まれ、ジェレミーの本体がついに姿を現した……!
次回。決着
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