第35話 ジェレミーの真意
「本当に、ここに留まるのですか」
長年、勇者の相棒だった魔法使いが問う。
ドラゴンが、ミスリル鉱山の全ミスリルを投入して作った『竜座のダンジョン』。
勇者は眠りについたドラゴンを守るために、このダンジョンに残るという。
魔法使いはなんでそこまで、と勇者に詰め寄るが勇者の決意は固かった。
「自分がきっかけで始まったことだ。最後まで責任を取りたい。もう俺も若くないしな」
「しかし……」
「地下10階には俺一人なら余裕で暮らしていける環境が整っているしな。まあ俺がドラゴンに頼んで作ってもらったんだが。
ドラゴンには絵筆も貰った。ここの風景でも描けってことらしい。何やらすごい力を込めたと言ってたが……
お前は俺に付き合う必要はない。地上に戻って、普通の生活を送ってくれ。俺の相棒だとは知られないようにな」
「もちろん、顔は変えますよ。もういいです、好きにしてください」
勇者は苦笑いをして、地上へ戻る魔法使いを見送った。
地上に戻った魔法使いは顔と名前を変え、ダンジョン周辺に出来た都で人並みの暮らしを続けていた。今でも竜座のダンジョンには討伐軍が送り続けられている。
「欲深な人間たち。あの清廉で気高い勇者とは程遠い人々……」
魔法使いは彼らを見るうちに、勇者と共に過ごして体験した事を、手記に残すことにした。
その手記が古文書扱いされるほど時が過ぎたのちに、一人の【ものまね師】がそれを解読して
竜の力を求めるきっかけになるとは、魔法使いもさすがに想像も出来なかった……
▽
「……その古文書、手記を苦労して解読して。最下層にたどり着けそうなパーティが居れば自分を加えてもらえるよう立ち回って。そしてようやく竜の魔力を手に入れたところまではいいですが」
いつの間にかジェレミーが近くにいた。
魔晶核の防御陣は常に展開してあるが、ここまで近くに寄られるとはちょっと緊張感を欠いていたな。幼女騒ぎのせいで……
「本体のお出ましとは、いや分身か?そういえばゾンビもゴーレムもいなくなってるな?」
「分身の魔力が尽きただけですよ。それよりも、なんです?その幼女は。竜の魂を感じるんですが」
「幼女言うな!我はドラゴンのシルヴィアぞ!!」
がるるると可愛く吠える。
「おやおや……?」
「【絵描き】に新しい体を描いて作れと所望したばかりにこんなことになっておるが!」
「……え?ゴミ、いやダリンさんはそういう趣味が」
「ない!完全に誤解!!」
せめて18歳程度で描くべきだったか……いやもう何もかも遅いけど。
「その言葉、信じて良いんですよねダリンさん!」
「そうよね。ダリンちゃんはお姉ちゃんくらい大きいのが、いいもんね?」
「それは違います!!」
変な方向性で争わないで……後でアメルとシンシアにはじっくり説明しよう……
「それよりも!お主、我の魔力を吸いおったな。一体、何をするつもりじゃ」
シルヴィアがジェレミーを睨みつける。緊張感が戻ってきた。
確かに、いまだにこいつの目的は何も分かっていない。
「言わなきゃダメですかねえ」
「竜の力の持ち主として問う。答えぬなら力づくでも、だが」
さすがに元ドラゴン、幼女の姿でもその言葉には威厳と迫力があった。
「はあ。まあこの力に敬意を表しますかね」
まさか竜の魔力を世の中のために使う、なんて言うタマじゃないだろうが……
「世の中を面白くしようと思いまして」
……なんだって?
「今の世の中、落ち着きすぎなんですよ。歴史を読めば、昔はいろんな国が興っては滅び、争っては生まれ変わり。それがなんです、今は。このダンジョンに『世界を制する力』があると言われてても他の国は介入もしない」
「平和的で良いじゃないか」
それに、昔はその力に皆が群がったというが、今ではこの王都の民くらいしか夢を見ていない……というのが現状でもある。
「それが退屈なんです。どうも自分、子供のころから大抵の事が出来てしまうクチでして。ものまね師のジョブを得てからはさらに。これ、なんというか人生が平坦なんですよ。退屈なんですよ……」
「それがなぜ竜の力を求めることになるのじゃ」
ジェレミーは笑みを浮かべた。
「わたしの求めるものは『混沌』とか『波乱』なんですねえ」
……つまり。自分が退屈だから。
世の中を戦乱の渦に叩きこもうというのか?
「強国が相争う時代のほうが絶対、面白いですよ。陰謀、権謀術数、圧制。各々の正義がぶつかり、
力あるものがのし上がり。英雄、豪傑、美姫、暴君が現れ。
皆が歴史の主役になれる。これこそ、カオスの時代。楽しそうじゃないですか!?」
読み物としては楽しいかもしれないが。
それが現実になれば、明らかに不幸になる人間の方が多くなる……安定している今をひっくり返してでも、やることか!?
「世の中を変えたいなら、まず自分を変えよう、って言うじゃないですか。どうもわたしはそれが出来なくて。で、世の中を変える『力』があるのであれば。それを得た方が早いと」
「竜の力は玩具ではないぞ」
シルヴィアも剣呑な目でジェレミーを見ている。
「そうそうあなた、これほどの力がありながらなぜ人間から追われるようなことに?
そいつら程度、どうにでも出来たでしょうに」
「誤解があったとはいえ、大昔に一度【勇者】と戦った時……お互い、結構力を消耗してな。
それに我は平和主義者じゃ。余計な争いは好まぬ」
やれやれと首を振るジェレミー。
「誰も殲滅せよとは言ってませんよ?精神を操り、洗脳する手だって……」
だめだこいつ、基本的に良心とかの持ち合わせがないみたいだ。
世の中を揺るがすような力を持たせて良いタイプじゃない。
「……こんなふうに」
とジェレミーがこちらに向かって指を向け……その先が光った。
何かの魔法かと身構える俺たちだったが、特に何もない……と思いきや、アメルとシンシアがガクッとその場に座り込んだ。展開していた魔晶核の防御陣も地面にすべて落ちてしまった。
「おい、どうした!?」
二人とも反応がない……
「【精神感応者】か。『意識操作』で気絶してるだけじゃ」
「また聞いたことのないジョブ……なんで俺とシルヴィアは大丈夫なんだ?」
「我にあのような手など効かぬ。お主は我の近くに居たせいで免れたようじゃな」
ジェレミーが感心したようにくくっと笑った。
「さすがドラゴン、簡単には落ちませんね。しかしこれでじゃまな壁はなくなった。
今度はあなたの魂、吸わせていただきます……!」
「はいそうですか、なんて言うわけないじゃろっ……!」
シルヴィアが手をかぎ爪状に構え、ジェレミーに向かって斜めに思い切り振り下ろした。
飛びすさるジェレミー……だったが、かまいたちが発生したらしく斜めに六分割されてしまった。
しかしそいつも切れた紙に戻る。
「おお!?」
シルヴィアが意外、といった声を上げた。
「この体、案外使いやすいのう……?腕の可動域も広いし、肉体だけ使うなら竜の時より自由度が高い」
確かに、四つん這いのドラゴンに比べたら色々器用に立ち回れそうな気はする。
「案外、良い体をくれたのじゃな、お主。やるではないか」
「お、おう。気に入っていただけたならなにより……」
機嫌も良くなってなにより。
「じゃあこちらも本気でいかねばなりませんね」
少し距離を取って宙に浮かんだジェレミーがその数、数百体。
火球、雷撃、召喚……各々の得意スキルを準備している。
「ジェレミーを止めなければ。竜の力を個人のわがままで使われるわけにはいかないだろ……!」
「そうじゃな。いくぞ、【絵描き】のダリン……!」
次回。決戦
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