第34話 ドラゴンの新しい体
シルヴィアに新しい体を作れと……?それは『描いて』ってことか!?
(俺にそんなことは出来ませんよ……?
確かに【絵描き】のスキルである程度、物や現象を作り出すことは出来ます。
しかし、基本的に『何かに付随した形』でしか作れません)
完全に『無から有』を作り出すのは無理なのだ。
(何を言うのじゃ。お主、『勇者の絵筆』を持っておるではないか)
え?……6階で拾った、あれか。でもただの絵筆じゃ……
いやそういえば、『竜の魔力が失われている』とか鑑定結果にあったな!?
(それは我が昔、勇者に竜の魔力を込めて作って贈った品じゃ。それがあれば我の新しい体を『描いて作る』事が出来る。
今から、我の最後の魔力をその絵筆に込める。そうしてお主が描いた体に、我の魂と力を乗り移らせるのじゃ)
(そんなことが……!?)
(いくぞ。一刻の猶予もない。はよう我の体を……!)
すると俺の道具入れに入っていた『勇者の絵筆』が光を放ち始めた。
『竜の魔力』が込められたようだ……!
「よ、よし……!アメル、シンシア。今から俺は勇者の絵筆を使って、ドラゴンのシルヴィアの新しい体を作る。それまで、持たせてくれ」
「わ、わかりました!」
「新しい体!?そんなことが出来るのね……すごいわ」
(勇者の絵筆は竜の魔力が込められれば、思った通りの色をいくらでも出せるのじゃ。
人間工学を追求したデザインで手にしっくり馴染むじゃろう。お主の自由な創造性を発揮するときじゃ……望みのタッチでさあ描くのじゃ!フルカラーで!皆が見ただけでひれ伏す絶世の美女を!最高の新しい体を!!)
絵筆の性能アピールに加えてなにげにリクエストを重ねてくるな。
絶世の美女か……とりあえず俺は目の前のドラゴンの幼体を見ながら、イメージする。
そして、筆を走らせ始めた……
▽
「……ふう」
ジェレミーが宙に浮かびながら、手を握ったり開いたりしている。
魔力の流れはその動きを止め、クリスタルには徐々にヒビが入り始めていた。
「とりあえず、竜の魔力はいただきました……」
確かに純度が高い、人間のそれとは比べ物にならないくらいの魔力……!
万能感が込み上げてくる。
これなら確かに、世界を制するとか大げさな事でも出来そうな気がします……
「次はクリスタルから出てくる、竜の本体。そこから魂を頂きましょうか」
クリスタルのヒビがついに全体を覆い、ガラガラと崩れていく……
しかしその中心にあったはずの竜の本体は……なかった。
あるのは、ぼんやりと白く光る球体。
「これは……一体どういうことです?」
そのとき、【絵描き】一行が居た方向から強い光が放たれた。
▽
「これが……シルヴィアの新しい体!」
羊皮紙に描き上げ、これで完成と考えた瞬間。
目の前の空間に光の粒子が集結し、それが体のシルエットを浮かび上がらせていく……
(よし!いくぞ!)
シルヴィアの声が響き、クリスタルの残骸にあった白い球体がその光のシルエットへ飛び込んでいった。さらに光は強く輝き……収束する。
その場に、シルヴィアの新しい体が具現化した!
「……お?……んん~??これは……なんじゃ?」
「あらあら。この子が、あのドラゴン?」
「かわいいです!」
そこに立っていたのは、年齢にして10歳ほどの、銀髪美少女。
耳の後ろあたりから竜の角が生えている。
うむ、俺のデザイン通り!
シルヴィア(竜)の幼体を擬人化してみたわけだ。
服飾には強くないので、とりあえず魔導師のローブ的なのを着せておいた。
シルヴィア(人間)が自分の体を見下ろしたり、くるくる回ったり、ぴょんぴょん飛び跳ねている。実体が、ある……!
ついに『無から有』を作り出してしまった……
竜の魔力と勇者の絵筆あってこそだけど、しかし、これは感動だ。
この感覚。まだ自分には可能性があると思える……!
シルヴィアにも喜んでいただけただろうか。
「おい。これはどういうことじゃ……」
ん?何か声が震えている……?それほど感動なされt
「誰が人間体にしろと言ったかーーーーーー!!!」
あれえーーー!?
「だ、だって絶世の美女にしろと」
「人間にしろとは一言も言っておらんじゃろがーー!!」
「でも美女って普通、にんげ……」
ああそうか。ドラゴンの姿のままでも、彼ら彼女らにとっては美女は美女なんだ。
なるほど。
これは不幸な行き違いがあったと……
「リテイクじゃ!!!」
「描きなおしですかー!?」
しかし手元の勇者の絵筆を見ると、既に光は失われていた。
それを差し出してみると、
「ぐぬぬ……」
シルヴィアは唸りだした。
「で、でも」
とアメルが助け舟を出そうとしている。
「シルヴィアちゃん、とっても可愛いです!!」
「そうね。角とかキュート。ドラゴンの娘なんて素敵」
シンシアも追随して頭をなでようとした。
「子ども扱いするなーーー!!我は人間換算で200年!生きておる!!のじゃ!!
眠ってる期間も入れたら1000年以上じゃ!」
しかしシルヴィアは怒り心頭だ。
足をじたばたさせながら、両腕を振りあげる。
腹を立ててるのは確かだけど、見た目的に妙な可愛さを感じてしまう。
「そしてなんじゃこの姿は!幼女ではないか!人間の美女といったらもっとこう、『ないすばでい』とかそういうのではないのか?」
「それは確かに……ダリンちゃん、もしかして……こういうのが趣味、だったの……?」
「……大きさ至上主義者じゃなかったのは嬉しいですが、こういうのが好き、でしたらそれはそれでちょっと」
シンシアに、アメルにすら変な目で見られ始めた。余計な誤解を招いた気がする!
「い、いや単に目の前にドラゴンの幼体があったから!それにふさわしい人間の体を想像したらこうなっただけで……
趣味では断じてない!ほんとに!」
次回。ジェレミーの真意
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