第33話 <三つの星>VSジェレミー群
――『竜座のダンジョン』にドラゴンがこもってから。
ダンジョン周辺には各国が派遣したドラゴン討伐隊が陣地をしき、何度も軍勢を送り込んでいった。
しかしダンジョンでは最大6人のパーティに自動的に区切られ、それぞれのパーティは『ダンジョンの並行世界』とでもいうべき、同じダンジョンであって違うダンジョンに飛ばされてしまうため、物量による攻略が通用しなかった。
ドラゴンによる軍勢対策の魔法だった。
配置されたモンスターやフロアボスに阻まれ、討伐隊はダンジョンを攻略できないまま、日々が過ぎていく。ダンジョン周辺にはそのうち人が生活する町が出来、それが徐々に大きくなっていき……今の王都の基礎が出来上がった。
そのくらい年月が経っても、ダンジョン攻略は遅々として進まない。
そのうちに各国の軍はお互いに争うことが増えていったのもあり、ダンジョンから次第に手を引いていき……
そもそもの『竜の力』というのが根拠あるものなのかすら疑われ始め、月日と共に竜の力うんぬんはおぼろげに忘れ去られていった。
『竜座のダンジョン』の名前と、誰が残したかも不明な『この迷宮を制した者には世界を制する力が与えられるだろう』というダンジョン入口の古代文字のみ、ドラゴンの要素は残った。
そして今では、王都に集う冒険者たちが夢を追う場となったのだった。
▽
「竜の力、いただきます」
竜のクリスタルから魔力を吸い出し始めたジェレミー。
アメルの盾投擲とシンシアの魔晶核弾がやつの体を打つ、が何か見えないシールドに阻まれ効果がない。ジェレミーの元に駆け寄って詳細描写を……と走り出した目の前に人間の形をした紙切れが3枚、地面から起き上がったと思うと、それぞれがジェレミーの姿を取った。
「しばらく」「時間稼ぎに」「付き合ってもらいますよ」
ニヤニヤしながらジェレミー(紙)たちが言いながら、一人は火球を放ち、一人は風の刃を、一人は長剣を振りかぶって襲い掛かってきた。【魔法使い】【僧侶】【戦士】か……!
それらの攻撃すべてを幅広いシールド状に展開した魔晶核の防御陣で防ぐ。
やつらは『浮遊』のスキルで防御陣を飛び越えてこようとした。
シンシアは、俺たちの頭上の空間を含めた周囲360度に魔晶核を高速で回転させ、飛んできたやつらを弾き飛ばす。
その隙に俺はアメルから速度アップのパンをもらって食べ、さらに高速化した描画によりジェレミー(紙)たちをまとめて描き上げて炎上させてやった。
そして進もうとした瞬間、後ろでカツンカツンという音と、ひゅんという風を切る音がした。
振り向くと遠くに弓をつがえているジェレミーが数体いるのが見えた。
今度は【弓使い】!
さっきのは、矢が防御陣に当たったのと魔晶核の隙間を抜けてきた矢の音か!
「誰も矢に当たってないな?」
「大丈夫です!」
「わたしの髪の毛をかすめたみたい。危なかった~」
とりあえず無事なようでほっとする。
「しかしあいつらはちょっと遠すぎるな。盾も弾も見えないシールドで弾かれるだろうし」
今度は皆でアメルの幸運パンを食べる。
なんでも真似出来るジェレミーとはいえ、それぞれのジョブの経験は浅い。
あのジェレミー(弓)たちには、魔晶核の隙間を抜いたうえで幸運に守られた俺たちに当てられるほどの腕前はない。
ふたたびジェレミー(本体)に向かって走り出す。
しかしまた、その前に現れたのはゾンビの群れだった。その数は300を超えてそうだ。
俺たちを囲むようにゆっくり唸りながら近づいてくる。
「今度は【死霊魔術師】か!しかし地下10階にそんなに死体が眠ってるってのか?」
「彼らは土を介して死人を呼ぶらしいわ……」
「つまり土さえあればどこでも呼び出せる、ってことですか!」
しかし大量とはいえ、耐久力は大したことのないゾンビ。
高速回転する魔晶核防御陣の前にことごとく吹っ飛ばされていく。
「よし、このまま」
少しずつジェレミー(本体)に近づいていく……
いや、ちょっと待て。土さえあればどこでも、って俺たちの足元も土なのでは……!?
「足元に気をつけろ」
「きゃあ!?」
アメルが悲鳴を上げた。
足元の地面からゾンビが現れ、アメルの足首をつかんだのだ。
現れたゾンビの頭部を蹴っ飛ばす。
首がもげたゾンビは動く力を失ったが、また一体二体と俺たちの足元からゾンビの手が生えてくる。
進んだことでジェレミー(死霊魔)の射程みたいなものに入ってしまったらしい。
足元からゾンビが姿を現すたび、頭を潰して対処しなければならなくなった。
「くそ、ジェレミー(死霊魔)はどこに……?」
といって探して見つかる程度の所には居てくれないだろう。
ゾンビは外から内からやってくる上、さらに【精霊使い】のジェレミーが呼んだらしいゴーレムまで数体現れた。力任せの攻撃を防御陣に当ててくる。
ゴーレムは例の『文字を描き加える』ことで対処は出来るが、何度『死』を与えても再構成されて次々やってくる有様だ。
「ちょっとまずいな」
じり貧の状態になっている。シンシアの魔力もいつか尽きるだろう。
しかしジェレミーは分身の数だけ魔力を持っているようなものだ。
その分身もいったいどのくらいストックがあるのか、見当もつかない。
打開策を考える……その、とき。
(そこの……)
俺の頭の中に言葉が直接、響いてきた……
(……そこの【絵描き】。我に協力するのじゃ。我は非常に困っておるのじゃ……)
「え?」
周囲を見回す。なんか、女性の声が聞こえたような?
(我じゃ。ぬしらの前の、クリスタルの中の……竜じゃ)
「ド、ドラゴンさん?」
「え?」
「どうしたのダリンちゃん」
おかしな人と思われる前に、クリスタルの中のドラゴンから直通のメッセージが届けられていること、しばらく防御に徹してほしいことを手早く二人に伝えると、ドラゴンからの声に集中、頭に言葉を浮かべてみる。
(えーと、聞こえますかね……ドラゴンの人)
(なんじゃドラゴンの人とは。そうじゃの、人間流に名前を名乗るか。我は、シルヴィア・フェレイラという)
(ドラゴンの、シルヴィア……)
そしてシルヴィアは、このダンジョンの最下層に居る理由を簡単に語った。
(……なるほど。自身の失われた魔力を回復させるために、永い眠りについていたと……このクリスタルは?)
(強者だが欲深な冒険者がここまでたどり着いた時、その強壮な魂と魔力を頂くためのものじゃ。
結局一人しか引っかかる人間はおらんかったが。しかもなんか弱い)
シルヴィアの魔力吸収スキルが、眠っていても自動的に発動する設計のようだ。
しかし今はそれを利用されている……
(そうじゃ。あの魔導師だかなんだか分からぬ男に、せっかく数百年かけて貯めた我の魔力が吸い取られておるのじゃ)
(それで目覚めたと。俺たちもそれを止めたいんです)
(なら協力せよ。このままじゃと我は体を維持できなくなる)
見ると、クリスタルの中のドラゴンの姿がいつの間にか小さくなっている。
巨大な姿から、まるで幼体のような状態に……
ドラゴンは魔力でその体のほとんどを維持しているらしい。
(もうこの体は持たぬだろう)
(一体どうすれば?)
(そこでお主の出番じゃ。我の新しい体を『作って』ほしい)
はあっ!?
次回。ドラゴンの新しい体
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