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第32話 【勇者】の最期

 ――1000と数百年もの昔。とある山に住み着いているドラゴンが居た。

 ときどき人界に降りてはいけにえを要求するため、冒険者が何人も討伐に向かったが一人として生還した者はいない。

 

 その時代の勇者が立ち、討伐に向かったが……

 調査した結果、ドラゴンは悪行をなしているわけではないことが判明。

 単にドラゴンがため込んだ財宝目当てに、人間がドラゴン討伐の名目を立たせるために悪評をばらまいていたのだ。

 

 ドラゴンと勇者は和解し、悪巧みを行った人間たちを捕らえた。

 

 しかし捕まった人間のうち一人が逆恨みし、『竜の力を得たものは世界を制する』と喧伝しはじめた。そのことは取り調べを行った、『真実看破』のスキルを持つ審問官によって保障された。

 

 『真実看破』は『嘘看破』と違い、言葉を発した本人の意思や知識に関わらず、純粋に『事実』か『虚偽』かを判断する。

 たまたまであったが喧伝したものは真実を言い当てていたのだ。


 ふたたびドラゴン討伐の機運が上がった。

 

 勇者は意気投合したドラゴンと行動を共にすることを決意。世界中の軍から追われる生活を送ることとなった。

 逃亡の果てにたどり着いた世界最大のミスリル鉱山で、ドラゴンはその魔力のすべてを使い『竜座のダンジョン』を構築。

 最深層で、失った魔力を回復させるためにクリスタルの魔力吸収殻にこもった……

 


 ▽


 

 竜のクリスタルを目の前にして、ハーレイはただウロウロしているだけだった。


「あなた、まだ何もしてないじゃないですか?」

「だってよお、ここに古代文字の石碑があんだよ。読めなくてよ……」


 無能め。


 ジェレミーは心の中でひとりごちて、クリスタルの前に置かれた石碑の文字を読み解く。


「ダンジョンに入る前にあなたに教えた内容と同じじゃないですか。『我が力求める者、クリスタルに触れよ』。わたしが長年かけて解読してきた、古文書の文章の通りです」

「な、なんだ。触ればいいだけだったのか」


 ここでハーレイはジェレミーの方を向き、


「本当に俺が貰っていいんだな?竜の力……」

「おじけづきましたか?」

「い、いや……そうじゃねえけどよ!お前は何もいらねえってのか?そんな人間、いるか?」

「言ったでしょう。わたしは謎そのものの探求が趣味なのです」


 嘘ですが。


 しかし表向きは笑顔で、


「なので安心して、好きなだけ竜の力を手に入れてくださいよ。それであの【絵描き】にも確実に勝てるようになるでしょう」

「お、おう!ゴミダリンめ。見てやがれ!!」

「さあ、お急ぎください。『竜の力』を得た【勇者】の力、ぜひとも見たいものです」

「竜の力を得た勇者……!それってもう無敵じゃねえか!!ゴミダリンのパーティなんぞ文字通りゴミだぜ」


 ふるえる拳をぐっと握りしめ、歪んだ笑みを浮かべるハーレイ。


「ほら、あの三人が近づいてきましたよ」

「おう……!覚悟しろ、ゴミダリン……女二人をてめえの目の前でさんざん辱めたあと、ゆっくりとなぶり殺しにしてやる……!」


 ハーレイは意を決し、クリスタルに手を伸ばし……触れた。


 そのとたん。


「う……ぐああああああああああああああああ!!」


 ハーレイはすさまじい悲鳴を上げた。


「な、なんだこれえええはああああ!?俺の、ま、まりょくが、すわれるうう!!手が、はなれねえ……!」


 計画通り。

 ジェレミーが歪んだ笑顔を浮かべた。



 ▽



「な、なにが始まったんだ?」


 竜のクリスタルの元にたどり着いたが、クリスタルに触っているハーレイが苦しみもがいている。

 その様子をじっくり観察しているジェレミー。

 助けようとするそぶりもない。


「なるほど。そういう仕組みでしたか。大丈夫、使えそうです」


 独り言をぶつぶつつぶやいている。


「何をしてるんだ!?」

「ん?ああ、ハーレイさんが吸われてるところを『見て』いるんです」

「は……?」

「おっと、今度は魔力を吸い尽くしたら命まで吸い始めましたね。命を魔力に変換できるんですか……興味深い」


 見ると、ハーレイの姿が徐々に変貌しはじめている。

 しわが刻まれ、髪の毛は白くなり……老いている!?


「あ、ああああ、ああ、だまし、やがったなジェレミーいいいい……」

「はい。おかげで、色々助かりましたよ。ありがとうございました」

「お、おのれ、えええ、じぇれみー……ごみ、だりん……おれは……おまえを……」


 すべてを吸い尽くされたハーレイは、体全体が白く変色してしまった。

 そして頭から崩れ……地面の上にひと固まり、灰のようなものが残されただけだった……


 ……これがハーレイの最期とは。

 結局やつの魂は歪みが戻ることも無く、他の歪んだやつの手のひらで踊らされ、終わってしまった……


 もはや悲しみはないが、ただただ哀れだった。


 ジェレミーを囲むように立つ俺たち。


「やれやれ最後まで気の毒な人でしたね。でもその最後に一つだけ、わたしのために役に立ってくれました」

「……」

「どうしました?元パーティの一人として、かたき討ちしてやるぜって気持ちなんですか?」

「そんなつもりは一切ない。多少複雑な気持ちはあるが、そういうのと関係なくお前は倒した方が良さそうだと感じている」


 アメルもシンシアもジェレミーを睨みつけ、


「ええ、たとえ悪人でも、その命を利用して何かをなそうとするなんて、許していいとは思えません!」

「わたしもそう思うわ。どんな目的かは知らないけども、取って良い手段と悪い手段があるわ」


 ジェレミーはやれやれといった風に肩をすくめる。


「ありゃあ、わたしも人望がない。まあ、あなた方がわたしを止めようとするなら、対抗させていただきます」


 ジェレミーが道具入れから三つの人型の紙を取り出そうとした――その前に、本体のジェレミーをすばやく描き終え雷で打つ、

 


 【種族】人間 【名前】ジェレミー・アルシアス(形代)

 【体力】  80/80

 【魔力】  350/350


  ・

  ・

  ・



 ――鑑定結果の表示ではこいつも本体ではない、人型の紙だ!……いつの間に!?

 だが一応雷を落として三つの人型の紙ごと燃やしつくした。


 周囲を見回すと、ここから離れた位置で宙に浮きながら、クリスタルに手を伸ばすジェレミーを見つけた。


「竜の力、いただきます」


 すると竜のクリスタルから魔力が緑色の光の奔流となって、ジェレミーの手に吸い取られていく……

 ハーレイが魔力を吸われた様子を観察し、その吸う力をも真似したというのか……!

次回。<三つの星>VSジェレミー群

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