第31話 ジェレミーのジョブ
前回のラストのセリフを少し改変しました
子供のころから人のまねが得意だった。
見たものは大体すぐ真似出来た。
「すぐ人の真似ばっかしやがって!」
「俺が努力して会得したものを、すぐお前は似たようなレベルで……!」
「お前が居ると場の空気壊れるんだよ……」
(いいじゃないですか、同じような技術を努力なしで手に入れられるなんて、最も効率的でしょう)
周りからは疎まれたが、自分はこの特性は気に入っていた。
適性の儀でそれが【ものまね師】の才能の片りんによるものだったと判明した。
儀によって判明したスキルは『スキルコピー』。これにより自分は何でも出来る人間なのだと分かった。
しかし、なんでも出来るということは一番得意なものというのがなく、何をどう生かせば良いのか分からない。
特にやりたいという事もない……かといってレアジョブ研究施設なんてところでモルモットにされるのもごめんだ。
そんな時、たまたま王都で見かけた『古代文字の翻訳家募集』のお触れ。
歴史を読むのは好きだったので、試しに応募してみた。
(翻訳なんてやったこともないですが、なに、応募者の中で一番優秀な奴からいただいてしまえばいいんです)
応募者が集まった部屋に、面接官のフリをして近づき、一人一人に軽い翻訳作業をさせてみる。
ちょうど適性の儀によって【翻訳家】を得た者がいたので、そのスキルを頂いた。
自分はその優秀なやつのスキルに加えて【国語教師】、【吟遊詩人】や【写本師】のスキルだって使えるのだ。
今まで出会った人間に感謝、とはこういうことを言うのだろうか?
自分は仕事の様子を見たり、その人にちょっと触っただけだが。
結果としては一番ではなく二番手だったが、採用された。
経験の差を他のスキルでなかなか補えないが、十分な成績だ。
そして王宮での翻訳活動の中で、『竜座のダンジョン』にその身を封じたドラゴンの話を知った……
▽
「なんなんでしょうねと言われてもな」
こいつ……シンシアの『浮遊』に加え、アメルの『パン生成』まで使いこなしてやがる!
ということは、ジェレミーは俺のも……?
その心を読んだように、
「はい、ダリンさんの【絵描き】のスキルも自分は使えますよ。なのでじっとしていてくださいね。
ちょっとでも動いたら、手でも頭でも、鉄球に変えちゃいますよ」
と手元の羊皮紙を広げ、鉛筆を構えた。
まさかこっちが『描かれる』立場になろうとは。
「ダリンさん、どういうことなんですか、これ……」
「……そういえば聞いたことがある。相手のスキルを見るだけで、同じように使いこなせるジョブ……【ものまね師】。これまたレアジョブのようだが」
「正解ですねえ!」
ジェレミーが適当な拍手をする。
「しばらく皆さんを近くで観察させてもらいましたんで、十分にスキルを見る機会がございました。感謝いたしますよ」
近くだと!?
……そういえば、なんでジェレミーとハーレイが俺たちと同じダンジョンに居るんだ。
このダンジョンはパーティ単位ごとに違うダンジョンが割り当てられるルールだ。
「まさか、ダンジョンに入る時から近くに居たってのか」
しかし近くに居たからこそ、同じパーティと認識されて同じダンジョンでこうやって出会えるわけだ。そしてずっと、俺たちのパーティをこっそりつけてきたってわけか……!
ハーレイが脱獄したという話は今朝の時点ではギルドには届いてなかった。
それさえ知ってれば警戒したものを。
「ハーレイさんのスキルはコスパが超悪いのがいけませんね。常に姿を消してると魔力ポーション代がバカにならないので、ダンジョンに入ってからは距離を置いてつけなければいけないのが面倒でしたよ」
「……なんでハーレイに肩入れする。あいつのために時間稼ぎして、何になる」
「10割自分のためになりますよ。あの人は何も知りませんがね……くく」
ハーレイを何かに利用してやがるのか。そして10割がたろくな事じゃあるまい……
さてどうしたものか。ジェレミーが『高速描画』、『神の描写』、『人物画査定』をも使えるとなると、動きようがない……
「瞬時に頭を鉄球にされても、氷漬けにされても命取りだ」
「ダリンちゃんのスキルが、まさかこっちに悪く働くことになるなんて……」
基本的に俺は絵で人を楽しませたい。モンスター相手ならともかく、絵で人間は不幸にしたくないんだ。ハーレイ相手には仕方なかったが、畜生。アメルやシンシアに、そんな力を向けられるなんて……
今のところはジェレミーを下から見上げながら、何かチャンスが来るのを待つしかない。
ジェレミーはニヤニヤしながら宙に浮かび、時々適当なパンを取り出しては食べている。
その様子に、アメルがふと気づいた。
「あのパン。あたし、食べた事ありません……」
「スキルは真似できても、『今まで食べた事のあるパン』の経験はジェレミーとでは違ってくるのね」
……ん?
何か引っかかった。
スキルは同じでも、経験は違う……
俺は二人にこっそりとつぶやいた。
「あいつ、塩と砂糖の区別をつけて描けるだろうか」
「!……ダリンちゃん、それはつまり」
そう、あいつは確かに【絵描き】のスキルは使えるだろう。
しかし、自分と同程度に『絵が描ける』とは限らないのではないか?
絵なんてのは個人個人の個性がかなり違ってくるものだし、技術にもそれが反映される。
自分は子供のころから絵を描いてきた積み重ねがあるが、ジェレミーには……
経験ごと、絵柄ごと真似されている可能性もあるといえばある。
ちょっとした賭けになるが……
「俺が仕掛けてみる。俺が動いたら標的になるだろうから、俺に何かあったらフォロー頼む」
「は、はい!」
「用心してね……」
俺はすばやく物入れから予備の羊皮紙と鉛筆を取り出し、ジェレミーを描き始めた。
「ああ!?おとなしくしていてくださいと……」
ジェレミーも手元の羊皮紙に何か描き始めたが、先に描き終わったのは俺の方だった。
奴を氷漬けにしてやると、ゴドンと草原に氷塊が落ちて来て転がる。
氷漬けのジェレミーの手元を確認すると、人形みたいな俺の絵が途中まで描かれていた。
やはり、経験の差が出た……!速度も、デッサンも微妙に『なってない』。
「ダリンさん、こっちです!!」
アメルがパンの盾を投擲した先に、なんとまたジェレミーが居た。
振り返って氷漬けのジェレミーを見ると、いつの間にか人の形をした紙切れになっていた。
「分身かなにかか……?」
爆発系魔法でアメルの盾を吹っ飛ばし、ハーレイの方へ向かって空を飛んでいくジェレミー。
ご丁寧に服装が違っている。あいつを特定するには、もう一度描きなおさなければ……!
その前に、氷の中の紙切れをさっとスケッチする。鑑定の結果は、
【形代の紙】
[【陰陽師】が使う術による分身。術者自身とほぼ同じ能力]
「……おんみょうじ?こっちは全く聞いたことのないジョブだな!あいつの中にはいくつジョブが入ってるんだ」
「ジェレミーがハーレイと合流しちゃうわ」
「行きましょう!」
俺たちは奴らがいる、竜のクリスタルの元へ走り出した。
次回。【勇者】の最後
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