第30話 地下10階の攻防
時は少しさかのぼり……
「じゃあ、行ってきます」
「あいよ。いちいち挨拶に来るたぁ律義だねえ」
ダリンのパーティ<三つの星>が、最下層を目指して出発する前にギルドのマリタに挨拶しにきたのだ。
「最下層に到達出来たら、前より豪勢な打ち上げしねーとな」
「その時はプレゼントした服を着て来てくれよ」
「がっ……着、着ねーっての!」
(ち、いらんいじられネタを提供しちまったぜ)
ダリン一行を見送って、頬杖をついて苦笑するマリタだった。
▽
ギルドを出て、ダンジョンに向かうダリン一行。
その一行をギルドからつけている、影のような二人がいた。
二人とも魔法使いがよくつけるローブをまとい、一行からつかず離れずの距離を保ちながら静かに歩いている。
魔法使い二人のパーティは冒険者としては珍しい組み合わせではあるものの、見とがめたり誰何する者は特になく行きかう人に交じって歩みを進めている。
やがてダリン一行はダンジョン入口についた。
その様子を遠くから眺めているローブの二人。
ダリンたちが会話を交わし、檄を飛ばしあったあと、ダンジョン入口に入ろうとする……
その瞬間、二人は動いた。
猛烈な速度で走りだし、ダリンたちに迫ろうとする……走る勢いで、二人がつけていたローブがばさりと宙を舞った。
しかし、ローブに覆い隠されていたはずの二人の姿はなかった。
ただ影が残り、それがダリン一行に近づいて……そして一行と速度を合わせて並んで歩いているかのように影だけが進んでいった。
そしてダリン一行と二つの影は、ダンジョン内に消えた。
二人が走り始めた時になんとなくその様子を眺めていた街の男が、二人の人間が消えた!と騒ぎ立てたが相手にするものはなかった……
▽
「ここが、地下10階……?」
目の前に広がる普通の、地上としか思えない風景に、しばらく言葉を失う俺たち。
太陽がある。湖がある。草原には花が咲き、蝶が飛び、森には鹿のような生き物すらいた。
川が流れ、魚も泳いでいる。
この空間がどこまで続いているかすら分からない。
普通にここで人間は生活を送っていけそうな、そんな場所が地下10階だった。
「……幻?夢、なんですかこれ?いたたた、つねるなら自分のにしてくださいシンシアさん!」
「ごめんごめん。なでなで」
「うーん、普通の地面にしか思えない……」
とんとんと地面を蹴ってみるが今までのダンジョンの床ではなく土だ。
「そしてあの向こうにあるのは、クリスタル漬けの、……ドラゴン?」
「デーモンが居るんなら、ドラゴンも居てもおかしくはない、わねえ」
「あれが、このダンジョンの謎……なんですか……」
「そうです。到達、誠におめでとうございまーす。案内、ごくろうさまでーす」
急に近くで俺たち以外の人間の声がして、慌てて周囲を見回す。
いつからいたのか、そこに【魔法使い】が立っていた。
「ジェレミー……!!?」
「はい、こんにちは。そして、ダリンさんはさようなら」
どすっ。
突然自分の脇腹に何かが刺さった感覚があった。実際はちくっとした感じで、どすっというのは何か体重のあるものがぶつかってきた感覚だ。
「あ?なんだこりゃ刃が通らねえ!!」
「お前まで……?脱獄したのか!?」
そこに姿を現したのは短刀を構えたハーレイだった。
不意打ち対策で耐久力アップのパンを食べていたおかげで、短刀は先端が食い込んだ程度で済んでいた。
それがなかったら内臓をやられていたかもしれない。
「離れなさい!!」
シンシアがハーレイを飛ばす。
ジェレミーのところまでごろごろと転がったハーレイが立ち上がり、「くくっ」と妙な笑いを漏らした。
その二人の様子が、ゆがむ……?
「ぐっ……?」
「ダリンさん!?」
急に目の前がぼやけ、地面が回転したかのように感じられ膝と手をついた。
「ははっ!深く埋め込みたかったがちょっと傷つけるだけで十分なんだよ、苦しんで死ね!ゴミダリン!!」
「ど、毒か!アメル」
「はい!」
アメルがさっと解毒効果のあるピリ辛チキンサンドを出してくれた。
それを受け取ってなんとか食べると、毒の症状は消え、すぐに立ち上がる事が出来た。
「ああ!?なんで……なんでだよ!畜生!」
ハーレイが短刀を地面にたたきつけて悔しがる。
「あらら。毒殺も失敗ですか……仕方がないですねえ、ハーレイさんはさっさとドラゴンの元に行ってください」
「いいのか、すまねえな!」
踵を返し、ドラゴンの丘へ走りだすハーレイ。
このままでは、このダンジョンの謎にハーレイが先に到達してしまう……!?
「させるか」
「同じく」
羊皮紙にハーレイの姿を描こうとした俺の目の前に、ジェレミーが『空を飛んで』急速に近づき、俺の手から鉛筆と羊皮紙を奪い去ってしまった。
それも、手を使わず……鉛筆と羊皮紙が勝手に飛んだように見えた。
そしてジェレミーは宙に浮かんで距離を取る。
「な……!?」
「そ、そのスキルは……!?」
「シンシアさんと、同じ!?」
驚愕に目を見開く俺たちを見下ろしながら、空中から『パンを取り出し』むしゃりと一口、得意げに食べながらジェレミーは言った。
「ええ、同じですねえ。【魔女】でもあるし【パン職人】でもあったり……一体、わたしはなんなんでしょうねえ?」
次回。ジェレミーのジョブ
-----------------------------------------------------------
お読みいただきありがとうございます!
「面白かった」「続きが気になる」「興味ある」と思ってくださった方、
下のほうにある☆☆☆☆☆に評価をお願いいたします。
☆一つからでも構いませんのでどうぞ採点してやってください。
ブックマークもいただけたなら、さらなるやる気に繋がります!
何卒よろしくお願いいたします。




