第3話 ゴブリン討伐そしてゴーレム討伐
氷漬けのゴブリンに近づいてみる。
完全にカッチカチだ。触ると冷たい、本物の氷だ……!
アメルが嬉しそうにしっぽを振りながら俺の隣にやってきた。
「やりましたね!ダリンさん。クエスト達成ですね」
「あ、まだ達成完了じゃないよ」
モンスター退治クエストを達成完了するには、モンスターの死体から取れる魔晶核をギルドに提出する必要がある。
ゴブリンなら緑、スライムなら青といったモンスターそれぞれに特有の色がついた魔晶核の提出が、討伐の証拠となる。
ここで問題が一つ。
「氷漬けのゴブリンから、どうやって魔晶核を取り出そうか……」
普通モンスターを倒した場合、しばらくすればその死体は分解されて、光る魔力の粒子となって消える。そして残るのが魔晶核。モンスターはその核の周りに邪悪な魔力が集まって生まれ出るのだ。
ここで魔晶核を放置しているとまたモンスター化するため、ギルドに提出して専門家の手にゆだねなければならない。
しかし氷漬けのゴブリンは消える様子がない。死んでるとは思うけど、固めちゃったら死体は分解されないみたいだ。
氷の中のゴブリンをにらむ……あ、こいつ遠目では分からなかったけど、頬に×の傷があるな。
ちょちょっと羊皮紙の方にその特徴を描き加えてやる。細かい所まで描写したくなるのは絵描きのサガだ。
「……あれ?なんだこれ」
頬の×傷を描き加えたとたん、絵のゴブリンの周辺に文字と数字が浮かんできたのだ。
【種族】ゴブリン 【名前】godaduoiuida
【体力】 0/15
【魔力】 0/3
【力】 7
【素早さ】 5
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羊皮紙をのぞき込んできたアメルがまた驚きの声を上げる。
「えっ!?これって鑑定魔法ですか?絵描きさんて鑑定も使えるんですか!?」
いや、これも知らなかったことなんだけどさ。
確かにこれは鑑定魔法で分かる『ステータス』ってやつだ。ゴブリンの名前はなんて読むのか分からないけど、その他の数値は分かる。体力が0ってことは死んでるんだ。力や素早さのほかにも色々情報が描いてある……
絵のゴブリンに×の傷を描き加えたら、ステータス情報が浮かんできたということは。
その個体の特徴まで描写すれば、鑑定効果が得られるんだ……!
しかも鑑定魔法なんて、地下6階まで到達した勇者のハーレイですら、いまだ使えるようになってない超高度な魔法だぞ……!
これも絵描きのスキルのうちなのか。
なんだかいろんな可能性があるように思えてきたぞ。
色々試しがいがありそうだ。
「あとは魔晶核の確保の方法だが……」
「うーん……どうしましょうか。あ、今のは洒落じゃないですからね!?」
言われるまで分からなかったよ……
その時ごろんと氷漬けのゴブリンが転がった。
氷が割れてくれないかと思ったが、案外頑丈なようで亀裂すら入らない。
「あ、描き入れてみたらどうでしょう?」
「え?ああ、亀裂を?それだ。やってみよう」
と羊皮紙に描き加えようとした時、遠くからズシン……ズシン……と何か重いものが歩いているような音が聞こえてきた。
森から、何か大きなものが近づいてくる……?
次の瞬間、バリバリと木々を押しのけ、石で出来た人間の形の巨体が現れた。
「あれ……ゴーレムさんってモンスターじゃないですか……!?」
「マジか、こんなところに出るとか聞いてないぞ」
さん付けされてかわいい感じなってるが、明らかに初心者向けのモンスターではない。
1~2人で倒すのであれば少なくとも竜座のダンジョン、地下5階到達クラスの戦士か魔法使いでないと……!
ズシンズシンと足音と振動を響かせながらこちらに向かって来るゴーレム。
氷漬けのゴブリンも踏みつぶしてしまった。
「ああっゴブリンアイスさんが!ダリンさんのクエスト達成がなかったことに!」
「なんてこった。つかアイスさんって何」
今日だけでゴブリンの新種族が二つも誕生したぞ……
などと言ってる場合ではない、逃げないと、
「……いや。そうじゃない」
再び鉛筆を高速で走らせ、ゴーレムの全体像を描き上げる。
そして、ゴーレムの足首に、大きな鉄球のついた鎖の足枷を描き足す……!
ズズンと地響きの音と共に、ゴーレムが足を取られ前のめりに倒れた。
実際のゴーレムの足首にも、足枷が出現したのだ。
「すごい……ゴーレムさんが囚人さんみたいに!」
しかしなおも腕を使ってこちらにずりずりと這いずってくるゴーレム。
腕にも同じような鉄球の手枷をつけてやったら、さすがに動けなくなった。
「やりましたね……!この隙に逃げましょう!」
「いや、こいつはこのまま倒してしまおう」
「でも、どうやって?また氷漬けにします?」
「そうすると魔晶核が取り出しにくくなるからね……それに、ゴーレムの場合は簡単だよ」
ゴーレムは額に『生命』を表す古代魔法文字が描かれている。それによって命を吹き込まれ動いているわけだ。
しかしその古代文字の頭に、逆の意味になる一文字を描き加えると……『死』。
羊皮紙のゴーレムの額にその文字を描き加えると、現実のゴーレムの額にもその文字が現れ……ゴーレムの体に亀裂が入り、ガラガラと石の破片になって崩れ去ってしまった。
その瓦礫の中からゴーレムの魔晶核を掘り出して……確保!
「よし……ゴブリン討伐がゴーレム討伐になったけど、クエスト完了!」
なんとなく魔晶核を天に掲げたポーズで宣言。
「おめでとうございます!でも、ゴーレム討伐の依頼ってありましたっけ?」
「なかったけど、その場合でもモンスターそれぞれに掛けられた賞金くらいは貰えるだろ」
「なるほどです」
魔晶核をギルドに提出することで賞金を受け取れる。
上級者向けのゴーレムだ、かなりの額がもらえるはず。
「山分けでいいよね?」
「えっ!?賞金をですか!?わ、わたし何もしてません!もらえません!」
アメルは両手を突き出し、ものすごい勢いで首をぶんぶん振った。
「いやいや、色々ヒントくれたし。ギルドでも世話になったし」
「で、でも……!」
犬耳がぺたんとなってうなだれている。
うーんここまで遠慮されるとは。
「あ、じゃあちょっと協力してほしいことがあるんだ。そのお代ってことで。どう?」
「協力?なんですか?」
「ちょっと試したいことがね。アメルの絵を描かせてほしい」
「絵、ですか……?わ、わたしの……!?」
ゴブリンの個体差まで描きこんだ絵には、鑑定効果が発動しパラメータが表示された。
人間(今回は獣人だが)の場合はどうなるのか。
そして、もしかしたらアメルのジョブの隠された特性をで見つけられるかもしれない。
絵描きだって未知の特性があったんだ。パン屋だって、あるはず。
「嫌かな?」
「い、嫌っていうか……わかりました……じゃ、じゃあ……よろしく、お願いします……」
なんかアメル、さっきからめちゃくちゃ顔を真っ赤にしてるな。
声も震えてるし、そんなに緊張することだったか。
「あ、いや無理にとは……」
「だ、大丈夫です!いきます!」
いきますって何その気合?とか思ってたらアメルは服のボタンをはずし、脱ぎだした。
「ええっ!?」
慌てて視線をそらす。
「な、なんで脱ぐの!?」
「え、だって……絵描きさんが女の子を描くときは、服を全部脱いだ状態で描くんじゃ……」
「誤解過ぎる!!は、はやく着て!服!!」
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