第24話 ダリンVSハーレイ
ハーレイ、おまえ……どこまで落ちれば。
「離れなさい!」
シンシアが手をかざすと、ハーレイは『後ろ向きに』飛んで、ギルドの床に仰向けに転がった。
しかし素早く立ち上がり、剣を握りしめてシンシアとアメルのほうにかざす。
「こんのおおお!!ゴミダリンの周りにいると、不幸になる、皆!それを俺が、証明してやろうってんのに!邪魔するなあ!!」
と、冒険者の一人が気づいた。
「その剣……<彼方の海>のハーウッドが持ってた、『天意』じゃないか!?」
「なんだと?なんでハーレイなんかが持ってるんだ」
「最近、<彼方の海>の姿を見ねえなと思ってたら……まさか」
レジナルドとリズがやはりか、といった苦い顔をした。それで皆察した。
なんてこった……ハーレイ、越えてはならない一線を、越えたな……!!
いや、俺の大事な仲間に剣を向けただけでも、もう、許しがたい。
昔のハーレイに立ち戻ってくれる、なんて淡い期待は全て捨てなければならなかった。もっと早く……!!
「うるっせええ!!選ばれた者がそれ相応の剣を持ってるだけだ!!」
『天意』を振り回すハーレイ。その剣の噂は冒険者の間に知れ渡っているので、周りにいた冒険者たちはやや後ずさった。
実際は剣の本当の威力は発揮されない、なまくらである事は彼らも知りようがなかった。
そのハーレイを俺は素早く描き、
「このおおおお!!」
こちらに向かって来るやつの右手を剣ごと、大きな氷の塊で封じた。
「!?ぐあっ、冷てえ……!!な、なんだこりゃあ!?」
ハーレイが氷の重さに右腕をだらりと垂れ下がらせながら、うめき声をあげる。
「……ハーレイ。これが俺の【絵描き】としての能力なんだ。描いたものを現実にも反映させる」
「な、なに……!?」
「お前たちのパーティに居た頃、俺はお前たちの絵を描き続けていた……とても勇壮な、力強いパーティとして。それが現実にも反映して、ハーレイ。お前たちは実力以上に強くなっていたんだ」
「な、なんだとお!?」
レジナルドとリズは顔を見合わせ、なんとなく納得の顔をしている。ある程度予想していたのかもしれない。
「このことはパーティに居た頃には俺も知らなかった。だからお前が俺を戦闘で貢献してないと思うのは仕方がない。だがそれとは関係ないところでサポートは全力で行ってきたつもりだし、足手まといになったつもりもない。お前が俺を追放さえしなければ、何も知らないままに俺たちは、一緒に最下層に行けてたかもしれない……」
今となってはそんなことにならずに済んで良かったくらいに思ってるが。
「いまさら関係ねえ!確かに、お前はべつに足手まといじゃなかったさ!!俺はなあ。もともと……お前が疎ましかったんだよ!!」
なんだって?
「子供のころからっ!!いつもお前ばかり評価されて、周りにちやほやされて……俺が欲しいものを、奪っていきやがって!」
なんのことだ?
「俺がゴブリンの巣を見つけた時……煙でいぶして全滅させてやろうっつった時、お前は孤児院に知らせに走りやがった。
おかげで大手柄になるところがパーになった!」
「子供だけでゴブリンをどうにか出来るわけないだろ……それにあの時、巣からはゴブリンがはい出てきてお前はさらわれ、冒険者を派遣してもらう羽目になったじゃないか……」
「おかげで俺だけ非難され、お前は適切だったとかなんとか褒めたたえられ……お前があの時!俺に従わなかったばっかりに」
ハーレイは時々、早く冒険者になりたいあまりに、無謀な行いをすることがあった。
冒険者になるための努力があらぬ方向に向いたり、前向きさが楽観的すぎな考えになってしまったり。
そのたびに俺がフォローしたり、大人に助けを求めたり、時には孤児院の子供たちだけで失敗の穴埋めをしたり……
それが、お前にとっては、うっとおしいものと映ってしまったのか……
ここでハーレイはリズのほうをちらりと見、
「お前とは!一緒に居れば居るほど俺は惨めな気分を味わうばかりだった……!!」
なんだ?リズが何か関係あるのか?
「だから適性審査の儀で俺が【勇者】を得た時、すべての流れは俺中心に変わったと思った!!
お前をパーティに入れたのも、【絵描き】なんて冒険者として『外れ』がパーティに居ていつ死ぬかもわからない恐怖と惨めさを味合わせるためだけだった!」
それだけのために、俺をパーティに入れてたってのか。
子供のころの……ちょっとした嫉妬のようなものが。いつまでも消えず、いつまでもお前を支配して……ここまで歪んだ行動に導いたっていうのか……
「だがお前はしぶとく生き残り続けた……そして俺と同じ栄光を、名誉を、パーティに居るってだけで享受しやがるようになった……!だから追放した!!」
「ダリンさんは何も悪くないじゃないですか!」
「あなた……子供のころのわだかまりだけで行動しているの。大人になっても、いまだに子供じゃないの」
アメルとシンシアがハーレイを非難と憐れみの目で見つめる……ハーレイは睨み返したが、二人は全くひるむ様子はない。
「また、お前はお前を心から信頼するような仲間を得やがって……なぜだ。何が俺とゴミダリンでそんなに違う!!まずはお前らだ……ゴミダリンを信じた自分を呪いながら死ね!!」
ハーレイは凍った右手を床に叩きつけた。バリンと氷塊が砕ける。
剣を握ったまま、床に叩きつけると同時に爆発系の魔法を発動させたらしい。
右手が焼け焦げている……がハーレイも【勇者】。簡単な回復魔法で治したあと、再び剣を構えてアメルとシンシアに向かう。
俺は二人の前に立ち、
「二人に手を出すな……それだけは絶対に許さない」
「うるせえ!なら、まずお前の手足を切り落としてから、二人をお前の目の前でやってやる!!」
ハーレイは今度は剣は使わず、左手を俺に向けて魔法を発動させようとした。勇者専用の雷撃系魔法のようだ。感電効果で動けなくするつもりか……そして手足を、と?
しかし魔法が発動する前に、俺はハーレイの絵の左手を塗りつぶし……巨大な鉄球に変えた。
「うおおっ!!?」
あまりの重さに耐えきれず、ハーレイは鉄球と化した左手をドズンと床にめり込ませ、膝をつく。
「無駄だよ。ハーレイ、お前は俺には勝てない」
「ああっ!?ゴミダリンの分際で……戦闘で何の役にも立たなかったお前が……お前に勝てないだとお!?」
ハーレイの右腕に小さい雷が直撃している絵を描いた。
「あがっ……がっ!」
「雷撃だって俺には扱える。今は手加減したが、お前を即死させる規模にすることもできるんだぞ?」
さすがに命を取るわけにはいかないが。こんな奴のために牢獄送りとか、デメリットが大きすぎて話にならない。今度はもう少し大きな雷を当ててみる。
「ぐがががあ!!……っ……ざけやがって……お前はただの【絵描き】だろうがっ……!!『状態回復』!」
痺れの取れたハーレイは右手の剣を持ちなおし、投槍のかまえでこちらにぶん投げてきた。
しかしその剣先には既に大きいぶよぶよのゼリーが描き加えてある……剣はぼよんと俺に当たり、跳ね返った。
「畜生……!なんなんだ!!お前はああ!!」
さらに右手でまた魔法を発動させようとしたので、左手と同じように鉄球をつけてやった。
鉄球の重さで右手を床に落とすようにめり込ませるハーレイ。
両手を床につけ、まるで土下座のようなポーズになった。
「……気は済んだか?」
ハーレイに語り掛ける。
「……っ!!……!!!!」
言葉にならない悔しさの、呻きだけが聞こえた。
これで終わりだ……ハーレイ。
次回。決着、そして打ち上げ
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