第20話 徘徊する眷属
7階セーフティゾーンにてしばらくの小休止、そして8階に降り立った俺たち。
これで一応当初の目標は達成したことにはなる。が、皆もまだまだ余裕がありそうだ。
話し合って、あと少し先を見てみることにした。
「ここは妙に天井が高くて通路の幅も広いな……」
しばらく通路を歩き……人間が目の前に現れた時は心底驚いた。
このダンジョンでは不思議な力が働いており、他のパーティと遭遇することがない。
こちらもそのつもりで歩いていたので、自分達以外の人間が現れるとか全くの想定外だった。
「む、向こうに歩いて行ってますね……声をかけるべきでしょうか?」
「うーん……このダンジョンのルール上、本当に人間かどうか怪しい」
「5階はゾンビが徘徊してたよね。あれもそうなのかしら」
目の前の人間は背中を見せながら、ゆっくりと歩いている。男のようだ。
ローブを着た魔法使いのようないでたち。
ゾンビみたいなフラフラした様子はないが……
「……なにか、人間とは違う匂いが混ざってます」
アメルの嗅覚には違和感があるようだ。やはり、普通の人間とは思わない方がよさそうだな……!
「人物画で鑑定出来ない?ダリンちゃん」
「顔が見えてないとなあ」
仕方ない、警戒しながら近づいてみよう。
……だいぶ近づいたが、足音を立てないようにしているせいか気づく様子がない。
「石、ぶつけちゃおっか?」
「振り向くかな。シンシアさん、軽ーくね?」
シンシアのスキルで石を飛ばし、背中に軽く当てる。
すると相手は振り向いた……普通の人間の顔をしている。
が、その目は……白目も黒目もなく、すべてが深紅だった。
「きゃあ!?」
アメルが小さく悲鳴を上げた。
それに反応したかのように赤目の人間がこちらへ突進してきた。さっきのゆっくりした動きとは裏腹にすごい速度だ。
シンシアの岩弾を多少ぶつけても怯みもしない。
しかし俺が高速で描き上げ、手かせ足かせをつけてやった。
地面にずべしゃーと前のめりスライディングする赤目の人間。そのまま動けない様子。
鑑定結果は……
【種族】人間(闇の眷属) 【名前】ブレム・マッコーン
【体力】 300/300
【魔力】 0/0
【力】 40
【素早さ】 70
・
・
・
[吸血鬼の支配下にある人間。意識はなく、吸血鬼の命令にのみ従って動く。
肉体の力が多少上がっている。一度眷属になった人間が元に戻ることはない。
眷属に噛まれたものも眷属となる]
「吸血鬼の眷属。元は人間か。そしてもう人間に戻ることはない、か……」
「ここには吸血鬼がいるってこと?フロアボスかしら」
シンシアが顎の下に指をあてて考え込む。
その時、アメルが耳をぴくぴくさせた。
「……!ぜ、前後から大量の足音が聞こえてきます!挟まれてます!走ってきてます!」
その眷属が大勢やってくるようだ。ここは一直線の通路。
このままでは、ひと噛みされたら同じ眷属にされてしまうやつらに殺到される。
シンシアの岩で壁を作るか?それだと脱出できないな。
……ここは天井の高さを利用するか。
「シンシア、頼む」
と上をちょいちょいと指さす。
「なるほどね。はーい」
シンシアは頷いて、スキルを発動。三人を天井付近まで浮かせた。
ドドドドド……!
通路に眷属のやつら50人くらいが集まってきたが、俺たちは手の届かない上空だ。
見回すと、眷属は男女入り混じっていておおむね皆若い。
ダンジョンに挑んだ冒険者たちのようだ。
ということは彼らは8階までたどり着いたが地上に帰還できなかった、8階フロアボスにやられた者たちか……
地上に戻るまでがダンジョン探索だ。生還してこそ、階層到達による栄誉も得られる。
いたずらに欲をかいて深く潜りすぎると、こうなってしまう……
自分たちも今、欲をかいていないか。皆のポテンシャルは信じているが、改めて引き締めていこう。
「ひえー、飛んだり跳ねたり手を伸ばしてきたり……ちょっと怖いです……」
眷属たちが喚きながらじたばたするが何も出来ない。多少肉体が強化されてもここまでは届かないようだ。落ち着いて上空から全員をスケッチ、そして手かせ足かせをつけて動けなくしてやった。
やつらから少し離れたところに降り立つ。
体をよじってなんとかこっちに近づこうとしているが、さすがに歩く速度よりはるかに遅けりゃ脅威でもなんでもない。
「……彼らはあのまま、ですか?」
「彼らをあんな姿にした主を倒せば、おそらくは……土に還ると思う」
「助けられないんでしょうか」
「鑑定の結果を見る限りは……残念だが」
アメルは悲しそうな目で眷属たちを見る。ゾンビも似たようなものではあるが、眷属はまだ全然人間の形を保っているもんな。
気持ちは分かる。
8階フロアボスの元へやってきた。
通路からは何も見えなかったので広間まで近づかざるを得ない。
……いない?
広間はがらんとして、何かが待ち受けているようには見えない。
警戒しながら広間にゆっくり入ってみる。
フロアボスが居ないはずはない、もしかして透明の何かか?もしそうならまた絵に描けないな……
などと思っているとアメルが鼻をひくひくさせ、
「上です……!」
とささやいた。
この広間は天井が通路よりさらに高く、そのうえ天井付近はダンジョン特有の光るブロックが光を失っており視界がほとんど効かない。
目を凝らして暗闇の天井を見つめる……そこに何か、黒く細長いものが逆さにぶら下がっていた。
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