第2話 パン職人との出会い、そして絵描きの覚醒
次の日の朝、宿を出たところでハーレイたちと出くわした。
「おい!ギルドへの手続きはすんだだろうな!?」
目も合わせたくなかったが、話しかけてきたので仕方なく答える。
「いや、今から行くところだけど……」
「早く終わらせろノロマ!書類上、お前が俺のパーティ<奇跡の炎>にまだ所属してる事になってるとか勘弁だぜ!」
無茶言うなよ。昨日その話を聞いた時はギルドはもう営業時間外だったじゃないか。
「お、そうだ。お前の代わりに入ることになった【魔法使い】を紹介するぜ」
そういや、見慣れないローブの男が近くに居ると思ったら。そいつが新メンバーだったか……
「どうも。落書きのゴミダリンさんですね?わたしは魔法使いのジェレミーと申します。
わたしが来たからにはご安心を。あなたの1万倍は働いてごらんに入れますよ」
慇懃無礼な態度と口調、名前も間違えてるし、印象最悪。
ハーレイが吹き込んだんだろうけど。
「あと、7階到達するまでに倒したモンスターの賞金がギルドから出てるんだが、お前の分、餞別代りに貰っておいてやるぜ!俺たちゃ今からまたダンジョンに潜りに行くからよ。朗報を待ってな、お前はもう関係ないけど!じゃあな!」
餞別ってのはパーティから送り出される側が貰うもんじゃないのか!?そもそも俺に賞金払う時も9割カットしてるくせに……こっちこそ、手切れ金としてくれてやる。
▽
冒険者ギルドに到着。
中に入ると、冒険者たちでごった返している。
王都のギルドだけあっていつもにぎやかだ。受付嬢たちも忙しそうにしている。
「えーっと……パーティを抜けるための申請、ってどこでやるんだ?」
ギルドでは今までいろんな手続きをやってきた。クエスト達成報告や報酬の受け取り。雑用は全部俺に回ってきたからな。
しかしパーティを抜ける、なんて申請は一度もやったことはない。
今までそんな必要はなかったから……
やや落ち込み気味でいると、自分のつぶやきが耳に入ったのか、出入り口近くの椅子に座っていた獣人の女の子が話しかけてきた。
「あの……離党申請は一番奥の受付ですよ」
「え?ああ、ありがとう」
お礼を言って受付に向かおうとしたら、袖をつかまれた。
「ん?」
「あ、あの……離党申請受付の人は気難しい人です。必要なものを提出するのに手間取ると怒り出すんです。あらかじめ、必要なものはすぐ出せるように手元に持っておくといいですよ」
親切な子だなあ。ちょっと物憂げな感じあるけど。
必要なもの……ええと冒険者カード。首から紐で下げてるけど、外して持っておこう。あとは手数料かな。財布をごそごそしていると、
「銅貨2枚です」
「何から何までありがとう。ほんと助かったよ。初めての手続きなんで」
「いえ……わたし、慣れてますから……」
うつむきがちに答える。
そうなのか、って冒険者パーティから抜けるなんて事を何度もしてるってことなのか。この子。
見た目、確かに冒険者っぽくはないな、パン屋の店員って感じ……そしてかなり可愛い。犬耳、いいな。おっと人をじろじろ見るのはよくない。自分も冒険者らしくないって意味では同じだし。
「じゃあ、手続きに行ってくる。ほんとにありがとう」
ぺこりと頭をさげる女の子。軽くしっぽが揺れた。
そして手続きは順調に進み……正式に<奇跡の炎>名簿から俺の名は消えたのだった。
「やれやれ」
なんとなくの開放感はあるが、先行きは不安だ。さっきは手切れ金としてくれてやるなんて強がってみたが、財布の中身はかなりお寒い。
この先、ソロの冒険者としてやっていけるだろうか。なにせ今までゴブリン一匹倒した事のない自分である。しかし冒険者を辞める、という選択肢は今は全く考えていない。
「試しに、挑んでみるか……?」
クエスト掲示板の場所まで移動。そこには多種多様なクエスト依頼の紙がピン止めされている。
ゴブリン退治は冒険者なりたての初心者向けクエストであり、一匹から始められるクエストの紙が
掲示板の一番下にずらっと並べられている。
その紙を一枚取って受付に持っていき、受注の手続き。
さて、いざゴブリン退治と行きますか……
ギルドを出ようとするとき、出入り口近くの椅子を見たがあの女の子はいなかった。
気になったので周りの冒険者に尋ねてみると、同じようにゴブリン退治クエストに一人で向かったらしい。
(……お互い頑張ろう)
そして俺はゴブリンが出没する、王都の外の平原へ向かった。
ゴブリンを探して平原をうろうろすること1時間ほどで、森の近くに一匹だけのゴブリンを発見できた。
「都合がいいな。たまに群れるからなあいつら」
さてどうやって戦ったものか……絵描きがゴブリンを倒すビジョンが全く浮かばん。
一応なけなしの資金でこん棒は買ってきたものの、自分程度の腕力で殴ってどれほどの威力になるか……
「……冷静に考えたら無謀と言うほかないな」
とりあえず近くの岩場に隠れて様子を見よう……と、同じように岩場に隠れている先客を発見。
って、さっきのパン屋っぽい女の子じゃないか。
「こんにちは、お目当ては同じゴブリン?」
「!あ、あなたは……さっきの」
クエストの目標がかちあってしまったか。ここはさっきのお礼を兼ねて、譲るべきかな。
「先に発見したのはきみだよね。俺はまた違うのを探すから、お先にどうぞ」
「あっ、あの……ええと……」
女の子は迷うようなそぶりだ。遠慮してるのかな……
「あ、あたし……クエストを受けたはいいけど、どうやって戦えばいいのか分からなくて」
……ん?自分と全く同じ悩みを抱えている?
「えーっと……きみのジョブは?聞いてよければ、だけど」
「……あたし、【パン職人】です。パン職人のアメル」
なんと見た目の印象通り、パン屋さんだったのか。正しくは職人か。
「あ、俺は【絵描き】。絵描きのダリンだ」
「絵描きさん……」
「実は俺もクエストを受けたはいいけど、どうやってゴブリンを倒せばいいのかさっぱりで」
「そう、だったんですか……!あたしと同じ悩みの人がいたなんて」
アメルの顔に明るさがさしてきた。
「まさかお互い、冒険者には向いてそうにないジョブだったなんてな。絵描きがゴブリンを倒すのって想像できないよね」
「……ごめんなさい、出来ません」
「だよね……俺もパン職人さんがゴブリンを倒すところは申し訳ないけど、想像できないかな」
「ですよね、ふふっ」
お互い目を合わせて笑いをこぼす。彼女のしっぽもはたはた揺れて楽しげだ。
うん、やっぱり可愛い。苦労してて落ち込み気味だったのかもしれないけど、アメルはもともとは明るい性格っぽい気がする。
パン職人がゴブリンを倒す方法……無理やり想像すると、手持ちのパンをゴブリンの口に押し込んで窒息死させるとか。
絵描きの場合は、鉛筆で目玉をえぐるとか。……えぐいのしか思いつかん。
「とりあえず自分に出来ることをしよう……」
俺は手持ちの羊皮紙にゴブリンをスケッチすることにした。
ドシュドシュッと鉛筆を走らせ、一呼吸でゴブリンの全体像を描き終えた。【絵描き】のスキル、『高速描画』だ。
「すごい!こんなに早く描けるなんて。しかも本物そっくり」
アメルが目を見開いた。
絵を描くところを人に見せるのってほぼ無いので素直な賞賛がくすぐったい。
なんとなく照れ臭くて絵のゴブリンの頭に花を描き加えてしまったり。落書きなんて子供のころ以来だ……
「かわいい。ゴブリンフラワーさんですね」
ゴブリンフラワーさんて。
これで現実のゴブリンにも花が生えてたら笑えるんだが……とか思いながら顔を上げると。
「ぶっ」
思わず吹き出してしまった。決して笑ったわけではない。衝撃を受けたのだ。
現実のゴブリンにも絵と同じように頭から花が生えている……!
アメルも現実のゴブリン花に気づき、
「あ、あの花、ダリンさんがやったんですか!?
絵描きさんには描いたことが現実になるスキルがあるんですね!」
お、おう。自分も知らなかった。
【絵描き】のジョブ自体、【勇者】よりレアだとされている。なので全くジョブスキル等の研究は進んではいない状況だ。
まさか、絵に描いたものが現実になるなんて……
もしかして。今まで描いてきた勇者パーティの絵の効果で、現実のパーティもポテンシャル以上の働きをしていた……とか?
「じゃあこれはどうだ……?」
ゴブリン絵の周りに氷を描き加え、氷漬けになった状態にしてみる。
「こ、今度はゴブリンフラワーさんが氷漬けになりました……!」
俺は確信した。
これが、【絵描き】の戦い方なんだ……!
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