第17話 キャプテン・アメル
俺たち<三つの星>は実際、さくさくとダンジョンを進んでいった。
俺自身が以前に来たことがあるのもあり、道で迷うこともなかったし、遭遇するモンスターもフロアボスも問題ではなかった。
2階、オークロード。雷の直撃を受けている絵を描いて、感電死。
3階、ヒュドラ。氷漬けにした後、防御陣に使っている石をぶつけまくって氷ごと粉砕。
オークロードは豚頭人オークの君主、巨体ゆえのタフさとパワーを持っているが、さすがに雷に撃たれてはどうしようもない。
ヒュドラは巨大な蛇の集合体で、多数の頭部による飽和攻撃を受けきる事はほぼ不可能であるが、遠距離から氷漬けにされてはどうしようもない。
そして扉を抜け、俺たちは4階への階段が見えるところまで来たのだった。
「ここで一晩キャンプを張ろう、もう外の世界では夜の時間帯だろうしな」
フロアボスが守る扉を抜けた先、次の層への階段がある部屋はモンスターが入ってこないセーフティゾーンだ。基本的に冒険者パーティはここでキャンプを張り、一時の休憩だったり一晩を明かしたりする。
「お疲れ様!」
「ふふ、ほとんどダリンちゃんの独壇場だったわねえ」
「そんなことはないさ。アメルの嗅覚聴覚による索敵、シンシアの防御陣。
それがなかったら警戒のために亀の歩みでダンジョンを進まなきゃならないからな」
「あらあら」
「お役に立ってるようでうれしいです!」
アメルもしっぽをふりふり笑顔満面だ。
「まだまだ役に立ってもらうよ、アメル、パンをよろしく。夕飯と行こう」
「はい!」
アメルは空中からぽんぽんとパンを取り出し、床に敷いた布製のシートに並べていく。
ダンジョン攻略はとりあえず三日と仮定し、その間に食べるパンはバフ効果を考えたメニューを
あらかじめ決めてあった。
そして俺は木製の杯を三つ取り出して並べ、羊皮紙にその様子を描く。
さらに、それが水で満たされているように描き加えた。
すると実際の杯にも水が満たされた。
それを二人に配る。
「ありがとうございます!喉がからからで」
「助かるわあ。ほんとダリンちゃんのスキルは便利よねえ」
アメルのスキルは食糧問題を解決したが、俺のスキルは飲料水の問題を解決する。
ただ水を描いたり水の入った杯を描いても、それが出現することはないが、今ここにある物になら追加することが出来るのが俺のスキルの性能だ。
適度に水を追加しながら、俺たちはいろんなパンで腹を満たした。
そして眠りにつく。セーフティゾーンなので敵襲を警戒して交代の不寝番を立てる必要もない。
他の冒険者パーティも来ることはない。このダンジョンは不思議なことに他のパーティに会うということがない。
ダンジョンの地下1階に入る時、隣り合っていた人間を一パーティとしてダンジョンが認識しているようだ。
その後に間をおいて他のパーティが入った場合、同じダンジョンのようで違うダンジョンに飛ばされているかのように、前に入ったパーティと遭遇することがない……
▽
次の朝。
再び防御陣を展開し、警戒しつつダンジョンを奥へ奥へと進んでいく。
4階のフロアボス、ジャイアントキメラ。
複数の動物の頭や尻尾が合体したモンスターの、大型種。
獅子の口からは炎を吐き、山羊の角からは雷が放たれる。
その本体は炎と雷を吸収するので、例によって氷漬けののちに石弾の嵐。
5階のフロアボス、アンデッドキング。
周囲の地面から際限なくゾンビを召喚する。アンデッドキング自身の攻撃もこちらをゾンビ化する効果があり、接近するのは非常に危険なフロアボスだ。
冗談で頭の上に天使のわっかを描いたら、昇天した。
「手練れのパーティでも苦戦は必至のフロアボスをあっさり……ほんと【絵描き】のスキルって破格だわぁ」
「まあ、以前戦ったから弱点などは把握してるしな」
「でも、天使のわっかで昇天するなんて笑っちゃいました!」
「あれはほんと冗談だったんだがな……まさかの展開だった」
6階への階段を降りながら、三人で笑い合う。
そして次の階層へと降り立った。
「……6階だ。今回の探索の第一目標でもある」
「ダリンさん、昼はベーコンレタスサンドばかりだったんですが本当にそれでいいんですか?」
ベーコンレタスサンドは幸運度を100上げるパンだ。3つ食べたので今は幸運度300以上になってるはず。
「以前、<彼方の海>が6階で勇者専用の強力な剣を拾った話を聞いたよな」
「はい。街の人が話してましたね」
「このダンジョンの地下6階は、他の階層よりそういう希少な武器を拾える確率がなぜか高いんだ」
「なぁるほどね。それで幸運度を上げたってわけね」
シンシアが片手を頬に当てながら、感心の笑みを浮かべた。
「なので、今日は一日6階をうろついて、アメルとシンシアが使えるような強い武器を拾おうと思うんだ」
「あたしたちの?」
「防具でもいいけどね。7階からはさらなる強敵が予想されるし、個々人の戦力を上げて損はないはず」
「確かにねぇ。わたしたちもダリンちゃんの役にもっと立てるようになるなら、本望だしね」
「武器かあ。あたしに使えるかなあ」
アメルはやや不安そうだ。
「アメルは防具が出た方が安心かもね」
「い、いえ!出来るようにがんばります!」
そしてしばらく6階をうろつく……遭遇する回遊モンスターは動く鎧タイプに統一されている。
希少な武器を落とすのはそいつらだ。もしかしたら過去に偉大な戦士や騎士だったものが、何らかの理由によりこのダンジョンに囚われ、肉体は失うも動く鎧となって徘徊しているのかもしれない。
そうして何度か遭遇した鎧たちと戦っていると、そのうちの一体が何か丸いものを残した。
「……皿?」
さっそく絵に描いて鑑定してみる。
【トランショワール】
[パン職人専用の盾。
古くなって硬くなったパンがミスリル銀並みの強度を持つようになったもの。
投げて攻撃が可能。追尾機能あり。持ち主の手元に自動的にやさしく戻る機能あり]
「パン職人専用の盾。そういうのもあるのか」
「まさに、アメルちゃんのためにある防具ね。攻撃にも使えるみたいだし」
「わかりました。頑張って使いこなして見せます!」
おあつらえ向きに、通路の向こうからガシャガシャと音を立てて動く鎧の群れが現れた。
「よ、よーし。まずは投げてみます……えいっ!!」
トランショワールは動く鎧どものいる通路の天井に向かって飛んでいき……
「外れた?」
と思ったら、
ドガガガガ!!
天井に床に壁に跳ね返りまくり、軌道上の鎧を砕きまくった。
そして一群を全滅させたのち、アメルの元に跳ね返ってきたように戻ってくる。
「わあ!?」
慌てて手を持ち上げて身を守ろうとするアメルだったが、その手にふんわりとトランショワールは収まった。
「こりゃすごい、良いものを拾った。いけるぞ、アメル」
そう言って頭を撫でると、アメルは目を細めて幸せそうに笑って言うのだった。
「はい!ダリンさんの役にさらに立てそうで、嬉しいです!がんばります!」
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