第15話 勇者ハーレイサイド~暗殺
竜座のダンジョンからかろうじて生還したハーレイ一行。
次の日の昼頃にようやく全員回復し、日が暮れたいまギルドの隅のテーブルで酒をあおりながらくだを巻いていた。
「あのぼったくり教会め……!解毒と回復でしこたま持っていきやがって!」
「しかし今回は危機的にヤバかったぞ」
「戻れたのが奇跡よ」
レジナルドもリズもあの時の状況を思い出し身を震わせる。
「いやマジであのジェレミーっての、役に立つぜ。地下6階から一瞬で地上まで戻る魔法まで使えると来た。使えるなら最初から言ってくれとは思ったがな」
「で、そのジェレミーは?姿が見えんな」
「それがなんか……田舎の親の一周忌?がどうとか言って居なくなりやがった」
「それは仕方ないわね」
ドンと酒の入った杯をテーブルに叩きつけるハーレイ。
「仕方なくねえよ!良い戦力だったのによ!しばらく足止めじゃねえか。ジェレミーが居れば最下層にだって行けると確信したぜ」
「しかし撤退する羽目になったじゃないか。中層のモンスターもなんか手強かったし」
「あんときゃ運が悪かっただけだ。次は、いけるぜ。早いとこジェレミーが戻ってくれば」
ハーレイは次も組むつもりのようだが、リズはなんとなく「自分たちは見捨てられたのでは……」とおぼろげに感じていた。
「昼にゴミダリンに会ったが……いつの間にか仲間を増やしてやがった。もしかしたらダンジョンに挑むつもりかもしれねえ」
「なんと、あいつに仲間とは」
「でもそうそう、私らに追いつけるとは思えないわ」
「ったりまえだ。ジェレミーが戻り次第、また潜るぜ」
と、そこへもう一組の勇者パーティ<彼方の海>がついに地下7階まで到達した、との知らせが入ってきた。
「なん、だと!?」
あからさまに慌てるハーレイ。
今まで、自分たち<奇跡の炎>が最も竜座のダンジョンの秘密に近いパーティとして名をはせていたのだ。その座から、転げ落ちたことになる……
いずれギルドや王都ではその話題で持ちきりになるだろう。
地下6階から撤退して以来、ハーレイ一行に向けられる目も少し冷たくなりつつあった時に、この展開だ。以前は街を歩けばいろんな人に声を掛けられ、店に行けば勇者御用達にしてくれとばかりに色々なサービスを受けるなどちやほやされてきたハーレイ一行。
しかし今ではその地位は<彼方の海>に入れ替わった。
もはやハーレイ一行などは、その辺の平凡な冒険者と同じ扱いしかされなくなっていくだろう。
「畜生!なんだ、どうしてこうなった!<彼方の海>なんて明らかに格下だったろうが!」
「なんだかダリンを追い出してから、どうも気分的に下り調子なような」
「バカ言うな!関係あるかそんな事!寝ぼけた事を言ってるとテメエも追い出すぞ!」
「す、すまん」
再び、ギルドの隅のテーブルで酒を飲みながらイラ立ちを募らせるハーレイ。
「噂では、<彼方の海>は地下6階で、勇者専用の強力な剣を手に入れたみたいよ」
「それか!そういうのさえあれば……俺たちだって……」
「しかし竜座のダンジョンでドロップする勇者の武器は相当希少だ。10年に1本見つかるかどうかの」
「<彼方の海>がそれを拾った以上、続けて拾うのはほぼ不可能ね……」
リズがため息をつく。
だが、ハーレイはにやりと笑って言った。
「……いや。ある。手に入れる方法は、あるぜ……」
「い、いったいどうやってよ」
「交渉さ。話し合いだよ。譲ってくれ、頼む!!ってな。じゃあ、行って来るぜ……」
「お、おい……!?」
▽
超希少な勇者専用の剣、『天意』を手に入れた<彼方の海>一行。
意気揚々と再び竜座のダンジョンに向かっていた。
「……?」
「どうした?」
急に振り返った【忍者】ブレイドに、【勇者】ハーウッドが声をかけた。
「いや、妙な視線を感じたんだが……気のせいでござるか」
「今やここのダンジョンにおける最深層到達パーティですから。誰かからいつも見られてるじゃないですか」
【賢者】ディーンが落ち着いて言う。
「確かにな。最近はほんとにいろんな人間から声をかけられたり支援の品が届いたりする。
だが浮かれるなよ。気を引き締めろ」
「了解。今日中に地下10階の秘密を解いてやる気持ちでいくでござる」
「そうなったら我々は国の英雄だ。たんまり報酬も出る。病気の妹にも、一流の治療師をつけてやれる」
「国のおふくろも喜んでくれるでござる」
「わたしは秘密を解明できる事だけで至福の喜びというものです」
そこへ突然、声をかけてきた人物がいた。
「あのう」
「!?」
ハーウッドが目の前に現れたローブ姿の男に対して身構える。何の前触れも気配も無く、気づいたらそこにいた。他の2人も戦闘態勢に入った。
「ああ、驚かせてすいません。<彼方の海>一行ですよね。パーティメンバーの募集はしてないでしょうか?」
「ウチに入りたいってのか?あいにく、募集はかけてない。それに我々が地下7階に到達してからというものそういう輩が後を絶たなくてな。勝ち馬に乗っかろうって、あんたもそのクチか?」
あまりそうは見えないがな、とローブの男を油断なく見つめるハーウッド。
「いえいえ。自分はただ強い方々に興味がありまして。しかし残念、一行に加われないのであれば諦めるしかないですね」
「ああ。現状、この3人ですべてがうまく回ってるんでな」
「お気が変わりましたら、その時は声をかけてほしいところですね。わたしは魔法使いのジェレミー。お見知りおきを」
(……しかし近くでよく見たら、あなた方には良くない相が出てますねえ……ああ、なるほど。そういうことでしたか)
そう言って魔法使いは去っていった。
最後の方の言葉はハーウッドたちには聞こえないくらい小声でつぶやかれたものだった。
「なんか怪しいやつだったな」
「妙な視線はあいつでござったか?」
「そうなのかもしれませんね。気を取り直して行きましょう」
3人はダンジョンの入り口に入り、階段を下りて地下1階へ。
……その3人の背後に、ついてくる影が1つあった。しかし影の本体はない。地面を影だけがすうっと動いている。
その正体はハーレイであった。
【勇者】ハーレイだけが持っている特殊スキル……『非実体化』である。
パーティの誰にも明かしてない、秘密にしているスキルだ。
大量に魔力を消費する代わりに、本体を完全に消すことが出来る。気配や、立てる音すらも。ただし影だけは残る。
常に魔力ポーションをがぶ飲みしながらでないと維持できないという、あまりにも高コストなスキルだが、必要とあらばハーレイは時々使うことがあった。
そして今、そのスキルを使ってハーレイは目的を達しようとしている……
▽
「ハーレイのやつ、ほんとに交渉しに行ったのかね?」
「あいつの性格からして、それはないと思うわ……いえ、何か悪い予感がする」
日が沈み、ギルドから出てきた2人。
赤い月を見上げ、リズが良く分からない感覚に身を震わせた。
それからのち。
<彼方の海>一行が竜座のダンジョンから帰還することはなかった……
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