第12話 魔女シンシア
なにか分からないが、このままでは二重の意味でどうにかなってしまいそうなので、とりあえずゆっくりと女の人の肩に手をかけて身を離すように軽く押してうながす。
なんとか女の人は離れてくれた。
無表情のアメルがすり足でずりずりと近寄ってきた。なんかこわい。
「うん、もっとしていたかったのになぁ。ん~ともかく、ありがとうね。ほんと助かっちゃった」
長い金髪を両手で後ろに流しながら、空から落ちてきた女の人は笑顔で感謝を述べた。
エルフのようだ。ちょっと困った感じなハの字眉の、ふんわりとした雰囲気。
「どうしたんですか?空から落ちてくるなんて。月の住人さん?」
アメルがやや警戒を解いて聞く。
月の住人もドラゴンとならんで、叙事詩や絵本にしか出てこない幻想の存在だけど……
確かに屋根の上から落ちてきたって感じじゃなかった。
「それがねえ、聞いてよぉ。空を飛んでたら、すごい事が起きちゃって……」
なんだって?この世界では飛翔系を使える人間は限られている、というか歴史上3人くらいしか
居ないんじゃなかったっけ?英雄譚に語られる【勇者】と【魔法使い】、あと一人は、何のジョブだったかな……
いやいや、そんな事が出来る人が遭遇した、すごい事って一体……?
「魔力が切れちゃってぇ。もう大変なのお」
なんかすごい脱力した。
しかし飛んでる最中に魔力切れって、下手したらマジで地面に激突してあの世行きじゃないか。
危なっかしい人だなあ。
「でも空を飛べるなんて、素敵ですね!
何のジョブなんですか?あ、ごめんなさい。わたしは、【パン職人】のアメルです」
「わたし、シンシアと申しますわ」
うーんこの、アメルの踏み込み力。落ち込んでる状況でも初対面の俺に助言をするほどのことはある。
「ジョブはそのぉ。よく言う『外れ』に属するもの、なの」
「奇遇ですね!実はわたしたちもその『冒険者としては外れ』と言われるものなんですよ!」
「ああ、俺は【絵描き】。絵描きのダリンだ」
やや遅れてだが俺も自己紹介をする。
「【パン職人】さんに【絵描き】さん……冒険者?あなたたちも?」
「でしたら、奇遇ついでに『外れ』ジョブ持ちだけでパーティを組みませんか?」
「おう、急な提案だな。シンシアをパーティに入れるのか?」
そうです!とアメルは笑顔を見せる。
「……お申し出はうれしいけど、わたしのジョブを聞けば考えも変わると思うの。それくらいの『外れ』なのよ」
なんだろう。パン職人や絵描きみたいな一般ジョブ系なのかな。しかし俺たちの他にも冒険者になりたい一心で『外れ』にも関わらず諦めない人間がここにもいたなんてな。
「冒険者になるために、パーティを組んでダンジョンに挑むためにここまで来たんだけど……
100組に申し入れて100組に断られちゃったのぉ。ジョブは何かと聞かれて答えたら……それでいつも終わり」
「……わかります。わたしも断られまくりでしたし、なんとかお試しで使ってくれないかと言っていったん加入させてもらっても、結局雑用しか出来ないし、ダンジョンに潜る前からもう抜けてくれと言われるだけ……」
アメルがしんみりしている。
「そう……世間はやっぱり『外れ』には冷たいですわねぇ。どこにも行く道がありませんわぁ」
扱いの酷さのわりに、口調のせいで深刻さがないような気がしてしまうが、シンシアの目を見れば、そんなことは無い事がわかる。
「でしたら!やっぱりわたしたちのパーティに」
「わたしのジョブは【魔女】なの」
シンシアが呪いの言葉を告げるように告白した。
【魔女】。
【魔王】と並んで、【勇者】に敵対する位置にある、人類の敵とみなされる超レアジョブの一つだ。
しかし今すぐ人間の脅威になるわけではない。
勇者が今現在で王をしのぐような権力を持ってはいないように、魔女も魔王も『いつか敵になるかもしれない?』という時点では即排除されるようなことはない。ジョブで差別されることはないように、というのが国是である。
……が、現実的にはなかなかそう理想通りいくものではない。
結局【魔女】にも【魔王】にも、いざとなれば即起動できる爆破魔法が仕込まれた首輪をつけさせられるし、当然それを知っている人間には避けられる、くらいのことはされているのだ。たとえ本人に悪意が全くなくても……
何かの拍子に人類の敵になる可能性あり、とみなされたらそこで終わる人生、シンシアはどんな気分で日々を送っているのだろう。
「魔女……」
「これが証なの」
アメルのつぶやきに、シンシアは首元を指した。
確かにそれっぽい銀の首輪をつけている……何かしらのオシャレアイテムではなく、かなりやばいシロモノだったか。
「一緒にいると……この爆破にも巻き込まれるわ。人類の敵になるつもりは全くありませんけどぉ。
わたしが魔女なのは冒険者にはほとんど知られてると思うし、パーティに入れて良い事なんて何も」
「じゃあ、首輪は取ってしまおうか」
「ですね!」
「はい!?」
俺は例によって羊皮紙を取り出し、シンシアの全身像を一呼吸で描き上げる。
そしてその絵の首輪に、ヒビやら汚れやらを加えてボロボロの状態に加工。
そして蒸し焼きビーフサンド(×3)を食べたアメルが、現実のシンシアの首輪(既にオンボロだ)に両手を伸ばし、「えい!」と引きちぎって公園のゴミ箱に捨てた。
「これで大丈夫だな。じゃ、よろしく、シンシア」
「え?」
「よろしくお願いします!魔女のシンシアさん!」
「ええ?」
「えーーーーーーーーーーーーー!?」
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