第11話 パン食べ歩きツアー、そしてシンシアとの出会い
「じゃあ、今日はどうしましょうか」
「そうだなあ。資金も潤沢にあるし、今日は王都のパン屋を巡ろうか」
「そ、それはデデッデデデートデでですか!?お誘いですか!?二人のウェディングロードですか!?」
顔を妙に赤らめてしっぽをぱたぱたさせて謎のワードを紡ぎだすアメル。
「デデッ……?良く分からんが、アメルのパン屋のスキルで出すパンがハサウェイ以外のパンでも出せるのか、効果はどうなのかを確かめたいと思って」
「あ……なんだ……」
朝の調査で、パンによるバフ効果は4つまで確かめた。
さらにバリエーションが加われば、ダンジョンの浅い階くらいなら2人でもう巡れるくらいには戦力として確立できると思うのだ。
現状<奇跡の炎>が最も深い6階に到達、次にもう一組の勇者パーティ<彼方の海>が5階につけている。その他のパーティは良くて4階程度だ。
すぐに追いつけるとは思ってないが、いつかその日のためにもこの2人で一度潜って手ごたえをつかんでおく必要はある。
そのためにまず足固め。自分たちの能力を十分に発揮できるよう、念入りに準備しなければならない。
……そういや、ハーレイ達は結局あれからどこまで行けたのだろう。
まあ多分だがそうそう8階9階に行けるとも思えないし、ほっといて大丈夫だろう。
(盛大な誤解のせいで)肩を落としたアメルを見て、
「ん、気が進まないか?」
「いやそんなことはないですけどー……」
なんとなく不機嫌そうなアメルに俺はどう対処したものか迷ってると、
「おうおう。食べ歩きなら自分もご一緒したいぜー?」
受付嬢のマリタがやってきた。
「仕事中だろ?」
「休暇届け出しちゃうかァ」
「大丈夫です!二人で行けますから!」
急にアメルが俺の腕を取って引きずり出す。またかい。
「おやおや(察し)」
「……えーと?じゃあ、行って来る」
王都にはハサウェイのほかにもいくつかパン屋がある。
基本的に、この国の民衆の胃袋を日常的に支えるのはパンであった。
その割に【パン職人】のジョブ適正を持つものはほとんど居ない不思議な現状。
パン屋の適性が無いとパン屋は経営してはいけない、などというルールはないが……
「もぐもぐ」
そろそろ夕方の時間帯という頃。
ハサウェイを含むいくつかのパン屋を巡って数種類のパンをアメルに食べてもらい、今は中央公園の噴水わきのベンチに座って休んでいる。
「どうだ?さっき寄った店のオニオンパン、生成できるか?」
「うーん?……なんか、ダメみたいですね」
首をかしげるアメル。ハサウェイじゃないとダメなのか?
「じゃあその前にハサウェイで食べた、鯖ピクルスブルーベリーサンドはどうだ」
「それめっちゃ外れだったんですけど……うーん、うーん?」
生成できないみたいだ。
「もしかして、わたしが心底おいしい!って思ったパンじゃないと出てこないのかも……」
「なるほど……確かにスキル名は『おいしい』パン生成、だもんな」
その後新たに生成することのできたのは、チーズパン(耐久力150アップ)、レーズンパン(スキル威力アップ)、卵とベーコンのサンド(スタミナ150アップ)、というものだった。
「半分しか出せなくてごめんなさい……」
「いやいや!全然!十分すぎるよ、効果を考えれば大金星だ。もうダンジョンに潜ることを考えてもいいくらい」
「ほんとですか?やったあ」
アメルが頭を擦り付けてくる。撫でてやると目を細めて気持ちよさそうにした。
アメルのパンを食べれば、現状のステータス(の一部)を大幅増強してダンジョンに挑めるわけだ。実際パン食べ歩きツアーは大収穫と言っていい。
……そこで俺のお腹が鳴った。
「しまったアメルばっかりに食べてもらって、俺は何も食べてなかったんだった」
「くすくす。じゃあガッツリいけるパンを出しますね。蒸し焼きビーフサンド!」
それはアメルが好物なだけじゃ……?
「しかしありがたく頂くよ。……うん、やっぱりめっちゃ美味いなこれ」
「良かった。わたしも食べよっと」
まだ食うのー!?
蒸し焼きビーフサンドは力にプラス200の補正がかかるパンだ。確かにこれを食べると全身の筋肉が喜んでる気がする。
見かけは別に筋肉増量してるようにはなってないけど……
そのとき。
「ちょっとどいてもらえないしょうかぁ!?」
突然の女の子の叫び声。
「ダリンさん!空から女の人が!」
見上げると、確かに女の人が降ってきている……俺めがけて!?
しかし実際どくわけにはいかない。地面に落ちたら大けがじゃすまなさそうだ。
「うおっ……とお!!」
なんとか女の人を抱き留めることに成功。
力に上昇補正がかかってるおかげで二人ともけがをせずにすんだ。
「蒸し焼きビーフサンドすごい……」
「何のこと?あらあら……あたし、こんな抱っこされたの初めて」
完全にお姫様抱っこの形だ。慌てて下ろしてあげる。
「ふう、ありがとうねぇ、きみ。お姉さん、助かっちゃった」
と、落ちてきた女の人がゆったり近づいてきたと思うと、ぎゅーっとハグをしてきた。
「!?」
柔らかくて大きい暖かなものに包まれる。
思わずその気持ちよさにやられかけ……なんだこの殺気は!?
アメルがジト目でこちらを睨んでいた。
光彩が目から完全に消えている……!
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