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第1話 絵描き、追放される

「ここら辺が限界だと思うんだよな……追放だ、もう」


 宿屋の食堂で。


 王都にある『竜座のダンジョン』、地下6階到達記念の打ち上げで盛り上がっている中、パーティのリーダーであり【勇者】のハーレイが唐突に切り出した。


「限界?限界ってなんだ、俺たちはあのダンジョンを全て攻略するのが目標だったじゃないか」


 俺は何を言い出すんだ、とハーレイに向かって言った。



 俺たち孤児院で兄弟のように育った4人は、いつか冒険者になって竜座のダンジョンを皆で攻略するんだ、ダンジョンの最下層の秘密を解き明かすんだと子供のころに誓い合った。


 そして成人した今、皆揃って冒険者としてまさにそのダンジョンに挑んでいる最中だ。


 竜座のダンジョンは最高難易度を誇る地下迷宮。

 そしてその地下6階にまで到達したパーティはこの国の歴史上、俺たちが初という快挙を成し遂げた。



 そんな時、ハーレイの言った言葉……限界?そしてあと何て言った?


 地下6階が限界なんて、まだまだ俺たちは行けるじゃないか、という意味で俺はハーレイのさっきの言葉に言い返したのだが……それを聞くなりハーレイは怒りを込めて言い放った。


「お前が!限界だって言ってるんだよ!!ダリン!!」

「……え?俺?」

「モンスター一匹も倒せないような外れジョブでいつまで寄生するつもりなんだよっ!我慢の!限界ってことだ!」


 確かに俺のジョブは【絵描き】。


 戦闘には参加できないが、それでも絵描きの技能を使ってダンジョンマップの作製、ダンジョンでの重要拠点のスケッチ、モンスター図鑑の作成、果てには雑用全般をこなしてきた。


「た、確かに戦闘には直接は貢献してないけど、」

「それじゃもう駄目なんだよ!これ以上深い階層に挑むなら、もっと戦力になる人間が必要だって事、まだ分からねえのかよ!ゴミ!」


 テーブルに拳を叩きつけながらハーレイは言葉を荒らげる。


「まったく……いつまで【勇者】【戦士】【僧侶】【絵描き】なんて意味不明なパーティでいられると思ってるのか。脳が壊滅的だな」


 【戦士】のレジナルドもハーレイに同意のようだ。


「そうよ、普通最後に【魔法使い】が居るのがバランスの取れたパーティってもんでしょ?ん?」


 【僧侶】のリズもか……

 ああ、つまりは、そういうことなのか。


「俺を、パーティから外したいって、こと、か……」

「やっと分かったかゴミダリン!!」


 ハーレイは酒を飲んでるわけでもないのに顔を真っ赤にして叫ぶ。


「俺らが幼馴染ってことで今まで我慢していたことに気づいてなかったんだな……破滅的に察しの悪い奴」

「誰でもできるレベルの事をやって、勇者パーティの一員をきどるとか。恥って概念がないのかしら?ん?」


 そんなふうに思われていたなんて。嘘だ。昔はあんなに仲が良かったのに。

 ……やっぱり、適性審査の儀、あの時からすれ違い始めたのか。



 この国では成人になった国民は全て、首都教会でジョブ適性審査の儀を受けなければならない。


 人それぞれの適性ジョブが何かを水晶のお告げにより、知ることができる儀式だ。

 もちろん適性なだけで必ずそのジョブになる必要がある、というわけではない。

 適性が【戦士】であるなら、そのジョブ適正で得られる『体力増強』『筋力増強』などのスキルが生かせる別のジョブにつくのも自由。


 俺たち4人は同じ日に適性審査の儀を受けに行った。

 冒険者に向いているジョブを告げられることを期待し、そして3人は望み通りの冒険者適性ジョブを告げられ……


 ……俺は、『冒険者としては外れ』のジョブを告げられたのだった。それが【絵描き】。


 それでも、あの時は皆は俺を励ましてくれたし、冒険者パーティを結成した時は誘ってくれたのだ。だから、俺は俺なりにパーティの事を考えて最大限、出来ることをやってきたつもりだったが……



 いつからか、完全に足手まとい扱いされるようになったみたいだ。


「これからは大人しく普通に絵描きとしてやってけってんだよ!カスめ!」

「まあ、それで食っていけるかどうかは絶望的、だがな」

「あはは!今まで強いものにおんぶで抱っこだったわけだし、それくらいの試練は与えられてしかるべきよね?ん?」


 皆の心無い言葉に呆然とする。

 完全に心が離れてしまったことを実感し、うなだれたまま、言った。


「……わかった。このパーティから、抜ければいいんだな」

「そうだよ!お疲れ!今まで疲れるような事なんてしてないだろうけど!美味い汁吸ってるだけだったもんな!」


 ハーレイの言葉に皆がどっと沸く。

 とぼとぼと自分の部屋に戻ろうとすると、


「あ!待て!」


 ハーレイが引き留めた。

 今までの言葉は全部冗談だ、本気にするな。なんて言われるのかとほんのわずかでも思ってしまった、俺がバカだった。


「あのパーティは誰かを追放した、なんて話が広がると俺らの印象が悪くなるからな!お前の自己都合でパーティを抜ける、とギルドには申請しておけよ!分かったな、ゴミダリン!!」



  ▽



 部屋に戻ってきた。


 はあ……何もかもがむなしい。


「あいつらはいつからあんな人間になっちまったのかな……」


 部屋に置かれたキャンバスを見ながらまたため息をつく。


 キャンバスには、ハーレイ率いる勇者パーティがドラゴンと戦っている絵が勇壮に描かれている。

 隅っこには自分もいる。この絵自体はまだ完成していない。


 ハーレイたちには内緒だが、俺は一週間に一枚くらいのペースで自分たちパーティの絵を描いてきていた。


 テーマは常に『最強勇者パーティ』。


 今回の相手はドラゴンだが、今までの相手は地底世界の魔人だったり

 魔界の魔王だったり。果ては人類滅亡のために降臨した異界の神と戦っていたり……


 完全に妄想の世界ではあるけど、自分的にはこのパーティはいずれそれくらいやる、くらいの気持ちでいた。キャンバスの中では皆が勇壮に、そして力強く戦い、相手を圧倒していた。


 戦闘では何の貢献も出来ない自分だが、こんな絵を描くことで気分的に鼓舞できれば……と思ってのことだった。


「恥ずかしいので結局見せることはなかったけどな……そして最後までパーティの誰の目にも触れずじまいか」


 涙が出そうになるのをこらえ、ベッドに体を横たえる。

 明日は冒険者ギルドへ行かないと……自己都合でパーティを抜ける申請とか……くそっ。

この作品は、とあるアニメの

「魔女の血、絵描きの血、パン職人の血。神様か誰かがくれた力なんだよね」

というセリフから着想を得ております。

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