3…嫉妬
翌日
隣で動く気配を感じ、朧げに目を覚ます
「…栞?」
「あ、ゴメン。起こしちゃったね」
栞は身支度を整えてる
「こんな早くからどうした?」
「仕事に行ってくる」
「!」
仕事というフレーズで、一気に頭が覚醒する
ガバッ!と起き上がり、栞の手を握る
「? どうしたの?」
「仕事って、何だ?」
止めろって言われたのに
昨日の今日で思わず聞いちまった
申し訳ないって表情で俯く栞をそっと抱き寄せ、背中を優しく叩く
「悪ぃ」
「ううん」
「気を付けて」
「うん、行ってきます」
栞はフードを被って、部屋を出て行った
もう一眠りしようとしたが、眠れない
水を飲もうと廊下に出ると、少し先に酒向が
「酒向」
声を掛けながら歩み寄る
酒向が振り向き
「蓮様、おはようございます」
「おう ってかお前、何でここに居るんだ」
「? はい?」
「栞はとっくに仕事に行ってる。昨日も一緒だったろ…」
「ああ、自分はここで情報収集をします
昨日は確かに一緒でしたが送り迎えのみです、栞さんが知らない場所でしたので
今日からは栞さんのみです」
「送り迎えだけ、ねぇ…」
「? 蓮様?」
「酒向」
「はい」
「お前と栞には、強い信頼関係があるのは分かってる
…けどな?」
酒向に目を合わせる
「度を過ぎる行動には気を付けろ」
「…え?」
「栞は俺の女だ。例えテメェでも許さねぇ」
酒向は目を瞬かせる
「れ、蓮様?一体、何の話を…」
「とぼけんな、俺は昨日見たんだよ
今後、また同じ事をしたら、ただじゃおかねぇ
いいな?」
「………、はい…」
俺は踵を返し、部屋に戻る
酒向side
早朝、廊下を歩いてると
「酒向」
後ろから声を掛けられ、振り向けば蓮様が
「蓮様、おはようございます」
「おう ってかお前、何でここに居るんだ」
「? はい?」
「栞はとっくに仕事に行ってるだろ、昨日も一緒だったろ…」
「ああ、自分はここで情報収集をします
昨日は確かに一緒でしたが送り迎えのみです、栞さんが知らない場所でしたので
今日からは栞さんのみ、単独です」
「送り迎えだけ、ねぇ…」
「? 蓮様?」
何か、蓮様の様子が違う?
「酒向」
「はい」
「お前と栞には、強い信頼関係があるのは分かってる
…けどな?」
蓮様が目を合わせる
「度を過ぎる行動には気を付けろ」
「…え?」
どういう…
「栞は俺の女だ。例えテメェでも許さねぇ」
…はい?
「れ、蓮様?一体、何の話を…」
「とぼけんな、俺は昨日見たんだよ」
蓮様の目には、嫉妬と怒りが
「今後、また同じ事をしたら、ただじゃおかねぇ
いいな?」
「………、はい…」
蓮様が部屋に戻っていくのを茫然と見ながら立ち竦む
一体、何が起きた…
何故俺に、あんな目を向けたんだ
俺と栞さんに信頼関係があるのは確かだ
蓮様が嫉妬をされるのは不思議ではないかもしれない
だが、度を過ぎる行動?
俺が栞さんに何かして怒っている?
昨日は、車の運転をした位だが
車内でも俺は運転に集中していた
帰ってきても車から降りずに車庫に行ったし…
「?」
いくら考えても、蓮様の怒りを買う事をした覚えが無い
まあでも、送迎は昨日だけの事
今後同じ事をしないのは確かだから、…大丈夫か?
そう考えて仕事に向かった
蓮side
部屋に戻り乱暴に襖を閉め、ドカッ!と座る
モヤモヤが全然消えねぇ
「…っ、くそっ…」
脳裏に、2つの人影が重なる光景が
頭をブンッブンッと横に振って掻き消す
酒向にはクギを刺した
後は…
「自分が誰の女なのか…、分からせてやらねぇとな」
不意打ちだったとしても、相手が酒向でも
抵抗せずに…されるがままなんて
「んなの、許さねぇぞ」
早朝に仕事へ向かい、終えたのは23時になる頃
家の玄関に《テレポート》して、靴を脱ぐ
襖を開けると、蓮はこっちに背を向けて座ってる
「?」
おかしい
いつもだったらすぐに立ち上がって、おかえりって言ってくれるのに
「…ただいま」
不思議に思いながら蓮に近寄る
「蓮?」
肩を触ろうとした瞬間
その手を掴まれ、グラッと視界が揺れる
「!?」
ドンッと背中に衝撃が走り、反射的に目を瞑る
目を開けば、蓮の顔が目の前に
「れ、…蓮?」
「…」
蓮は無表情のまま
両手首をグッと抑え込まれ、覆い被さられてる
「蓮、どうしたの…」
「昨日帰ってきた時、酒向と…何してた?」
「? 春と?」
春は、仕事先と家まで車を運転してもらっただけ
帰ってきた時?
「春とは何も「無かった?」…うん」
グッ!と蓮の手の力が強くなる
「どうして嘘つく」
「え?」
「俺は見たんだぞ」
「…何を」
「お前が酒向に抱き寄せられて、抵抗しなかったのを」
「!?」
春と!?
一体何の話…っ!?
「栞、お前は…俺の女だ」
突然のキス
でも、いつもの優しいモノじゃなく
抵抗を許さない、乱暴なキス
「ん、あ…、ちょっ…、待…れ…っ!」
顔を逸らしてもグッと顎を掴まれ、怒りの表情を向けられて
思わずビクッと固まる
「逸らすな、俺だけ見てろ」
蓮が首元に顔を埋めると
ズキッ!
「!…っ」
鋭い痛みが走る
「これで酒向だろうと…他の奴なんか寄って来ねぇだろ」
蓮と目が合う
「栞、お前は誰の女だ」
「…」
「答えろよ」
「…蓮」
「そうだ、俺だよな?だったら…」
蓮の目がキッと鋭くなる
「俺以外の男に触られてんじゃねぇよ。例え、酒向でもな」
必死に蓮の今までの言葉を思い返す
蓮は、私が春に抱き寄せられて抵抗しなかった事に怒ってる
でも、春とそんな事をした覚えが無い
春は運転をしてくれただけ
抱き寄せられる、思い当たるのは…
「!」
蓮side
俺は帰ってきた栞を押し倒して、キスした
栞が顔を逸らして逃げようとするが、んな事は許さねぇ
「逸らすな、俺だけ見てろ」
今お前が見てんのは、お前にキスしてんのは…俺だ
首にもコイツは俺のだと、印を付ける
俺以外の奴が、栞に手を出さねぇ様に
例え、酒向でも…
すると
栞は何かを思い出した様で
「蓮」
「んだよ…」
「昨日、確かに私は抱き寄せられてた。でもそれは、春じゃない」
「あ?」
「アレはただの挨拶だから、気にしてなかったんだけど…」
「おい、どういう事だ」
「彼は、今回の依頼人」
「…、依頼人?」
「うん。彼、普段海外にいるから。アレは、謂わば…挨拶だから」
「…」
「ただの挨拶だから、抵抗しなかった」
「普段海外にいる奴が、何で日本にいんだよ」
それに、ただの挨拶でも
栞が震えずに抵抗しないっつう事は
それだけ、栞に近い人物って事になる
「それは…」
栞が口籠る
ここから先は、話せねぇってか
…なら
「分かった」
栞の上から退き
「先に寝てろ」
部屋を出る
私はゆっくりと起き上がり
そっと…、付けられた首の傷に触る
『俺以外の男に触られてんじゃねぇよ』
あんな目を向けられたのは初めてだ
春との誤解は解けたけど、別の問題が蓮の中で起きてるみたい
…とりあえず
「…お風呂、入らなきゃ」