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第7話 交錯②

「お、お願いします……」


 楓は今にも消え入りそうな声で、レジの向こうで作業をしている綾乃へと声をかけた。しかしその声はしっかりと綾乃へと届いており、こちらに気付いた綾乃はにっこりと破顔する。その表情を見た楓の心臓はバクバクと高鳴り、今まで頭の中で築いていた声かけのタイミングや台詞が一気に吹き飛んでしまった。真っ白になってしまった頭の中は、まさにパニック寸前だ。


「いらっしゃいませ。カバーはお付けしますか?」

「はい。あの……」

「昨日の本はもう読み終わったんですね。どうでしたか? お好みに合っていたら良いのですが……」


 会話の主導権を先に取られてしまった楓は、最早自分の意見がまともに言えない状況になっていた。ふとレジを見ると、綾乃はとても不安げな顔をしている。楓は慌てて声を上げた。


「とても面白く、拝読させて頂きました!」


 自分でも思った以上の大声に、楓はパニックに陥りそうになる。そこですっと息を吸い込むと、楓は自身を落ち着かせ、綾乃の方を見た。


「それで、あの。今から少しお時間戴けませんか?」


 恐る恐る出た言葉に綾乃が大きな目を更に丸くしている。楓は自分の唐突過ぎた言葉に慌てた。


「あの、忙しかったら、またの機会にでも……」

「少々お待ちください!」


 楓の言葉を最後まで聞くことなく、綾乃がレジから姿を消した。そしてしばらく後、


「お待たせしました」


 綾乃は急いで出てきたのか、顔を真っ赤にして楓の前に立っていた。楓はそんな綾乃の様子にこれから言う言葉を意識して鼓動が早くなるのを感じる。


(落ち着け……、落ち着け……)


 楓は深呼吸をすると、綾乃を連れて店の外へと出た。頬を夏の終わりの生ぬるい風が撫でる。

 駐車場の端まで来た楓はゆっくりと綾乃の方を振り返った。綾乃は何を言われるのか少し不安そうな顔をしている。

 そんな綾乃に楓はなるべく自然に聞こえるように自身を落ち着かせて口を開いた。


「急にすみません。昨日の本、とても感動しました。沓名さんがこういう本が好きなんだなって分かって。それで、あの……」


 鼓動が激しさを増していく。しかしここまで来てもう後には引けない。


「あの、昨日の本の映画、一緒に観にいきませんか?」


 今まででいちばんの勇気を振り絞ったかもしれない。綾乃は昨日、こんな思いをしてまで自分に声をかけてくれたのだろうか。

 様々な思いが交錯する中、永遠とも取れる綾乃からの返答を待っていると、


「是非、一緒に行きたい、です……」


 消え入りそうになりながらも、はっきりと楓には聞き取れた綾乃の声がした。その瞬間、楓はばっと顔を上げる。その時初めて、自分が目をつむって俯いていたことに気付いたのだった。しかし今度は綾乃が俯いている。


「じゃ、じゃあ……」


 楓は俯いている綾乃を怖がらせないように、ゆっくりと声を上げた。その声に、綾乃はこくりと頷いている。


「では、また来ます! その時にでも、待ち合わせの日付や時間を決めましょう!」


 楓の声は明るい。綾乃は再びこくりと頷くと、すごすごと店内へと戻っていってしまう。しかし、楓はその後ろ姿を心が躍りだすような感覚で見守っていた。自分でも現金な奴だと感じつつも、その日の帰路につく楓の足取りはとても軽いものになっていたのだった。

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