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第15話 萌芽

「見てください、楓さん!」


 沓名綾乃くつなあやの天野楓あまのかえでと共に地元の紅葉スポットを訪れていた。




 約束の期日になったあの日。

 綾乃は夜を待って少し早めに公園のベンチに座って楓の登場を待っていた。

 秋の夜風が心地よく、茂みの方では鈴虫が鳴いている。

 綾乃は涼やかな鈴虫の音色に聞き入りながら、じっと待っていた。


 楓が来たら何を話そうか。

 自分がいることに、楓は驚くだろうか。


 そんなことを考えていると、鈴虫の音色に交ざってゆっくりとこちらに近づく足音が聞こえてきた。綾乃がその足音の方へと目を向けると、そこには待っていた人影が暗闇から姿を現す。


「沓名さん……!」


 楓は驚いている様子で、綾乃の姿を認めると駆け足で近寄ってくる。


「良かった、来てくれたんですね……」


 少し息の上がった声で言う楓に、綾乃は恥ずかしく思いながらも頷いた。


「僕と、同じ想いだったって思っても、いいんですね?」

「はい……」


 楓の問いかけに綾乃は小さく答える。

 綾乃に小さな変化をもたらした気持ちに名前を付けるならば、きっとそれは『恋』なのではないだろうか。

 綾乃はそんなことを考える。


「良かった……」


 楓は心底ほっとしている様子だ。そんな楓に、綾乃は1つの提案をする。


「あの、天野さん。良かったら、私のことを、その……」


 一旦言葉を区切る綾乃に対して、楓はじっと次の言葉を待っている。


「名前で呼んではくれませんか?」


 綾乃の提案に楓は少し驚いたように目を見開いている。綾乃はそんな楓の様子に恥ずかしくなって、楓の顔を真っ直ぐ見られない。もじもじとしていると、


「いいですよ、綾乃さん」


 柔らかな声音が降ってきた。綾乃が見上げると、楓は柔らかく微笑んでいるのだった。


「じゃあ、僕のことも名前で呼んでください」


 柔らかな表情のまま、楓はそう言う。

 綾乃はこくりと頷くと、


「楓、さん……」


 たどたどしく楓の名前を口にした。




 こうして、2人は正式に付き合うことになった。

 楓は流れかけていた紅葉のデートに改めて綾乃を誘った。


 そして今日はその紅葉デートの日だ。

 綾乃は以前用意した服装に身を包みはしゃいでいた。楓と付き合うことになってからは実質の初デートとなるのだ。

 そんな綾乃の様子を、楓は優しく見守っていた。


「綾乃さん、あまりはしゃぐと転んでしまいますよ?」

「大丈夫です。私、今日はスニーカーですから」


 綾乃は笑顔で応えていた。

 もう見頃も終わりかけの紅葉だったが、それでもたくさんの人がこの紅葉スポットを訪れている。

 楓はゆっくりと綾乃の傍に歩いて行くと、自然とその手を取る。


「楓、さん?」

「はぐれたりしたら、大変ですから」


 楓は柔らかく微笑んで言う。




 2人はそのまま、もみじにいろどられた道を歩いて行くのだった。

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