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天才先輩ちゃんは、後輩くんを女体化させる

 私の名前は、神埼(かんざき) 理里(りり)

 性別は女。

 チャームポイントはなんだと聞かれれば眼鏡とポニーテール、あとは八重歯くらいか。

 基洲(もとしま)学園の高等部二年生、科学部の部長。

 今は放課後で、部室である理科実習室だ。


「どうだ助手くん、今日の実験だ……じゃなくて、研究の手伝いをしてくれる気にはなったか?」

「勘弁してくださいよ先輩。先輩がそうやって自分から手伝いを頼むときは大体ろくでもないんですから。と言うか、もうしっかり実験台って言ってるじゃないですか」


 この生意気なのは私の一学年下の後輩である、須藤(すどう) 朝陽(あさひ)くん。

 私の科学部の副部長だ。

 彼との付き合いは中等部の頃からになる。


「なんだつれないな。私のことが好きなんじゃなかったのか?ん?」

「う……。それを断ったのは先輩じゃ無いですかっ!」

「私はそのときにこうも言ったはずだろう。君のことは私も好きだがもう少しお互い大人になってからとな」


 まあ、我ながら天の邪鬼な返事だとは思うが、間違いなく彼には恋愛感情は持っているのだ。

 ただ当時の、中等部三年生の頃の私は、研究に手がつかなくなるのが嫌で恋人になることを拒んだ。

 そのせいで、私と朝陽くんはお互いに意識し合っているのに付き合っていないと言う、変な関係になってしまった。


「まあ、また君から告白されるのを待っているとするよ」

「嫌です。次は先輩からお願いします。ボクが二回も告白するのは不公平なので」

「そう言う問題なのか?」

「そう言う問題です」


 これが最早テンプレートとなった、私と朝陽くんでのいつもの会話だ。


「それはともかく、この冷蔵庫のお茶貰ってもいいですか?喋ってたら喉が乾きました」

「ん、ああいいぞ」


 作業をしながらなので特に確認もせず生返事でそう答えた。


「ありがとうございます。んっ……」


 うん?

 そう言えばお茶なんか買ってあったか?


「ぷはっ。なんか変な味ですね、このお茶。何かの紅茶ですか」


 いや、私お茶なんか買っていたか?

 最近はあの研究で放課後は何処にも買い出しなんてしていない気がするが。


「……ちょっと待て朝陽くん!それは!」

「あ、あれ?なんか体が、おかし――」

「朝陽くん!?」


 お茶のような何かを飲んだ朝陽くんは、みるみるうちに体が変わっていく。

 まず変化したのは胸部、いわゆるバストだ。

 そして次に髪形、普段は短髪な朝陽くんの髪が女子で言うショートくらいまで伸びた。

 次に身長や骨格、筋肉などの細かい内部の部位。

 あら不思議、朝陽ちゃんの完成である。


「はー、なるほど。先輩の失敗作の何かですか、これ」

「いや君えらく落ち着いてるが、一大事だぞ!」

「大丈夫です。ボクの脳の情報処理が追い付いていないだけです」


 それは大丈夫とは言わないと思うが?


「それよりすまない。私のせいだ、それは」


 主に性同一性障害の人に向けた治療薬の研究の末の試験品、それが朝陽くんが先程口にした液体、性転換薬だ。

 なぜそれが私の元にあるのかと言うと、その研究を私が一部私が任されているから。

 つまり、あの薬品は私が作成したものになる。

 もちろん、バレたら捕まるような怪しい研究ではなく、国と研究所から特別な許可を書状と一緒にもらっている。


「いえ、ボクは別に問題はないです。こう言うのって漫画とかだと何日かすれば戻るんですよ」

「……あー」


 しかし、まさかこの段階でここまで効果があるとは。

 薬効を強める事も考えていたが、必要なさそうだ。


「非常に言いづらいが、その薬品は用途が用途だから戻ることは想定してない。つまり、戻すことは出来ないんだよ」

「えっ」

「少量なら勝手に戻るが、それだけ飲んだら流石に無理だろうな」


 研究所での調査では副作用もなかったので、体に害があるわけではない。


「戻れないって、どうするんですかこれ!」

「取り敢えず、学園と朝陽くんの家族には連絡をしなければいけない。あとは私の親にも色々とお願いしておくよ」


 私の両親は海外の研究所に所属している研究員だ。

 この事を話せば目を輝かせて帰ってきそうなものだが、それならそれで協力してもらえるだろうし、話しておいて損にはならないだろう。


「いえ、先輩が原因なんですからそれは当たり前でしょう?ボクが心配してるのは先輩との関係です。今のボクのことはそういう対象として含められているのでしょうか」

「うーん、君は本当に馬鹿なのかと言いたくなるような台詞だな。対象も何も、そもそも私が異性として見ていたのはこの人生で朝陽くんだけだ。今更性別が変わったくらいで長年の気持ちが薄れる訳もないだろう?」


 なかなか、自分で言っていて恥ずかしくなる事を言っている気がするが気にしない。


「はい、まあそう答えるのは分かっていましたけど。それほぼ告白ですよねー」

「分かっていたなら下らないことを聞くな!それに告白じゃなく、君の質問に答えただけだ」


 流石に私でも、こんなタイミングで告白なんてするわけがないし、するにしてももっと言葉を選ぶ。


「しかし、君のどうなっても変わらない冷静さと生意気さには恐れ入るよ、本当に」


 たまに怖くなるくらい、彼は落ち着きすぎているところがある。


「まずは学長のところに行くか。よし、朝陽くん、一緒に行こうか」

「あ、はい。でも、ちょっといいですか?」

「ん、なんだ?」

「いえ、なんといいますか。む、胸が……」


 なぜか胸を押さえている朝陽くん。


「その、シャツがキツくて……」

「……なに?」


 白衣の中のシャツからでも私のより大きいのにアレでキツいのか?

 確かに私のものは平均よりかなり小さいが朝陽くんは元男だぞ?

 おかしい、絶対におかしい。


「私は女子になった君でも見上げないといけないのか」

「それはむしろ先輩が小さすぎるんですよ」

「誰が小さいだと!?」


 人が気にしていることをよくこれだけはっきりと言ってくるな。

 小学生のころはずっと家に籠っていたせいかあまり身長が延びず、その結果今になっても身長が150センチも無い。


「そんなに気にしてたんですか。てっきり気にしてないものと思ってましたが?」

「当たり前だ!身長のせいでクラスでは白衣のマスコット扱いだぞ。嬉しいわけがないだろう」

「ボク的には、かわいいと思いますけどねー」

「かわいいとか言うな!」


 なんだ、今日はえらく私の事をいじってくるな!?


「……うん、先輩をいじってたらちょっと落ち着いて来ました」

「私を精神安定剤みたいに言うな……。で、なんだ、シャツだったか?」

「あ、そうです。さっきから苦しいし擦れて痛いしで」

「ちょっと待っていてくれ。えーっと、確かここに……よし、あったぞ」


 朝陽くんに学園指定のジャージを渡す。


「このジャージは?」

「私がここに泊まり込んで作業しているときのパジャマ替わりに置いてあるんだよ。もちろん洗ってあるから気にせず着てくれ」

「これ、サイズとか大丈夫なんですか?」

「私は寝るときは少し大きめのサイズのものを着るから、それに合わせて買っている。見たところ君にちょうどいいサイズだろうから、今日はそれを着ていてくれ」

「なるほど、分かりました」


 そう言って朝陽くんは、目の前で服を脱ぎ始めた。


「ま、待て待て!ここで着替えるのか!?」

「他にどこがあるんですか?」

「トイレとか……」

「この体で男子トイレには入れないですし、女子トイレは流石にハードル高いです」

「準備室とか……」

「今日は先生が準備室の鍵持って行ってたからなんの実験もしなかったのでは?」

「いや、しかし……ええい、仕方無い!ここで着替えろ!」

「そうさせてもらいます」


 朝陽くんが着替えを再開する。


「擦れにはこれでも巻いてくれ流石に下着は置いてないからな」


 長めの包帯を渡した。

 サラシよりは細いが擦れの防止にはなるだろう。

 まあ仮にブラを置いててもバストサイズが合わないだろうしな。


「ありがとうございます。……あの、先輩」

「な、なんだっ」

「そんなにチラチラ見るくらいなら、しっかり見て貰ってもいいんですよ?」

「なっ!?み、見てない、見てないぞ!」


 バレてる!


「えー、ほらほらどうですか」

「君なんか余裕だな!?」

「まあ、自分の体ですし。おおーって思うくらいには感じてますが」

「私が同じことになっても、そこまで冷静になれないと思うがな。それより、早く着替えて学長のところに行くぞ!」


 着替えながらちょっかいを出してくる朝陽くんを急かしながら、朝陽くんの着替えが終わるのを待った。

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