裏の方々はまず1人黙らせることで話し合いが出来ます。
前ページの2話目です。
さて、さて。
唐突なのですが、私の日常というものはいたってシンプルなものです。朝起きたら冒険者のギルドへ向かう。ソコで報酬の良さそうな依頼をランク別で複数ずつ手元に置いておく。そしてランク毎に伸び悩んでいる後輩パーティーに、そのパーティーの実力の少し上ぐらいの依頼を渡す。そうやって行って、最後に残った依頼を私が受ける。
受けた依頼は日数の掛かるもの以外であれば早々に終わらせ、ギルドで報酬を受け取ってから、ギルドの受付フロアの隅に設けられたカウンターで肴を注文しつつお酒を呷る。
夕方になり帰ってきた冒険者の内最初のパーティーにお酒と肴を奢り、彼等の今日の活躍を聞く。そうやって気分が良くなってる彼等の話を聞きながら、徐々に周りで飲み始める方々の会話から情報収集。良いところで勘定を済ませて宿へと帰る。
休日は依頼で外に出る部分が街の散策に変わるぐらいで、あとは変わらない。
私の1日とは、そんな詰まらない日常です。
さて、何故唐突に私の日常を吐露したかと言いますと、当然理由がございます。
私にとっては裏も表も無く真っ当に生きているつもりなのですが、やはりどうしても私は裏の人間というものに目を付けられています。
例えばギルドからの帰りです。私は素直に帰って翌日に備えたいのですが、たまに私の歩みを妨げる者が現れます。それも複数人。
まぁ、所謂裏稼業なんてものに手を出してる連中ですね。
何故私に声を掛けるのかは本当に謎なのですが、決まって彼等が答えるのは3パターンです。
1つ、仲間に入れてくれ。1つ、仲間になれ。1つ、仲間にならないのなら死ね。
理不尽の極みとはまさにこの事ですね。
仲間に入れてくれ。これはまぁ、最初は冒険者のことだと思ったので私は大変喜びました。何せ私は、最初の頃こそ同期と組んでいましたが、それも半年もすればみんな死んだか冒険者を辞めたか恐いと怯えられて独りになる始末。そんな中言われた仲間に入れてくれという言葉。喜ばない訳がありませんでした。
まぁ蓋を開けてみれば、裏の人間だと勘違いした方々が私の庇護下に入ってやりたい放題しようと目論んでたみたいですが。
当然牢屋の中に入ってもらいました。後から聞きましたが、その方々は軽犯罪の余罪が一杯有ったそうです。これを教えてくれた兵士さんに、お前も一杯悪いことやってそうだななんて言われたのは心外でしたが。
仲間になれ。これはまぁ、はい。完全に裏の方々からの勧誘ですね。私はどうやら裏の方々の間ではかなり有名らしく、フリーまたはとても大きな犯罪組織の一員だと思われているらしく、故にそんな私を取り込もうと考える方々が後を絶たないのです。その結果が強引な勧誘です。
まぁ、勧誘してきた方々に着いて行き、その本拠地を荒らすだけ荒らしてあとは兵士の方々に事後処理を丸投げするのですが。
1つの街当たり月1ぐらいで有ることなので、その度にお前も仲間なんじゃないのか?と兵士さんに睨まれるのです。
私、そんなに怪しいですかね?
仲間にならないのなら死ね。これはもう論外ですよね。私に拠点の1つを潰された方々のお礼参り、というヤツなのでしょう。勧誘されるのもそうですが、迷惑なことこの上ない。
当然同じように返り討ちにしますよそんな輩共は。そして当然兵士さんに突き出します。その度に兵士さんに睨まれますが、だから私は何も悪いことなんてしてないんですよね。
さて、何故こんな話を唐突にしたか。言葉を繰り返しますが、これには理由がございます。それは今の状況と関係しています。
今現在、ギルドからの帰り、お世話になっている宿へ向かっているその道中で私を取り囲む男性がザッと見た感じ的に7人ほど居ます。
彼等には見覚えが有り、つい先日彼等を牢屋に入れたばかりだからです。
確かこの街では1度牢屋に入れば一月は出てこれない筈なのですが……、裏の方々の手が回ったか脱獄したかといったところでしょう。
まぁ、彼等の拠点を調べた感じではそれほどのコネも資金もありませんでしたから、恐らく後者の脱獄でしょう。
大きな手斧を持った屈強な男が言います。
「よぉ兄ちゃん、殺しに来たぜ」
なんて物騒なんでしょう。言われた瞬間、思わず手斧の彼の人体の急所3ヶ所を手に持つ杖で突いてしまいました。即ち額・首・胸。東洋や昔の迷い人の言葉で言えばセイチューセンとかいう場所ですね。
そうして突いた相手が反応する前にその手斧を杖で叩いて手から離し、彼の股間を振り下ろした杖を翻して下から強打。前屈みになろうとしたところを顔面へ膝蹴りを入れることで征し、浮き上がった上体の鳩尾へと掌底を放ちます。
1対1であれば大抵これで相手は黙ります。黙ったところへ落とした相手の得物を顔面の横へと突き立て言ってあげます。
「喧嘩売る相手ぐらい選びましょうよ。私だから貴方生きてますが、私でなければ殺されてても文句は言えませんよ?」
まぁ、私の声が聞こえているかは定かではありません。大抵ここまで一方的にやれば相手は気絶してることが多いですからね。
たまに起きてる方も居ますので、その時のことを考えてこんな注意をしていますが。
そうやって1人が黙ったら、黙った人を仰向けに寝かせて首に杖を添えながら言います。
「さて、彼のようになりたくなければ、大人しく牢屋に帰ってください。大怪我とかしたくないでしょう?」
大抵の方はこれで怖じ気付いて黙った方を連れて兵士の詰所へ移動してくれます。
今回は……、移動してくれるようです。良かった。
沈んだ彼の首から杖を離し、宿へ向け歩きます。それだけで最初の威勢は何処へやら、彼等は道を開けてくれて私はなんの障害も無く宿へと向かえます。
さて、彼等にはしっかり更正してもらいたいものですね。
翌朝、いつものようにギルドへ向かおうとすると兵士さんが宿の前で待っていました。
何かと思い事情を聞くと、どうやら私を待っていたそうです。
更に詳しく聞くと、昨夜の件だそう。
やれやれ、どうやら今日は仕事を受けられそうにないですね。
私は黙って彼等に着いて行き、昨夜の説明をしました。
…………やはり最後の最後には色々疑われてしまいましたが。
本当何故私は疑われるのでしょうか?不思議なものです。