何故信用されないのでしょう?こんなに行動で示しているのに!
新作予定だった作品の供養です。
昔々あるところに、何も悪いことをしていないのに怖がられ、至極真っ当に生きているのに裏の人間に勧誘され、普通に躓いて倒れそうになった女性を抱き留めて心配の言葉を掛けたら顔をくしゃくしゃに歪めて「何が目的なんですか?」と涙目で怯えられる。そんな可哀想な男が居ました。
まぁ私なのですが。
本当、何故私はこれほどまでに怯えられるのでしょう?
私たちの住む世界にはギルドというものが存在しています。有り体に言えば何でも屋というヤツですね。
国や民間から表や裏や果てには世界中から、男も女も大人も子供も関係無く、依頼という形で様々な願い事が舞い込んでくる場所。それがギルド。もちろん合法非合法もあり、私が所属しているギルドは国も認知している本当に真っ当なギルドです。
このギルド。ギルドに登録して寄せられた依頼を受ける人たちのことを冒険者と呼ぶのですが、その冒険者のギルドへの貢献具合や腕っ節の実力や依頼に対する姿勢、そういった個人の能力を総合的に見た時のランク付けをしています。そして残念ながら私のランクはBランク。
Bランクというのは上から数えて3つ目でして、まぁ熟練者なんて見方をされるランクなんですよね。
あ、そうそう。詳しいランクについてお話ししていませんでしたね。
ギルドのランクは上から順にSランク・Aランク・Bランク・Cランク・Dランク・Eランク・Fランク・Gランクと全部で8段階あるのですが、Cは一人前でBは上級者や熟練者、Aは一流Sは超一流なんて評価がされているんですよ。
話は戻りますが、私はBランクです。お分かりかと思いますが、一応熟練者や上級者なんて評価を頂けているのですが、先程申し上げた残念という言葉の通り、実はもう5年ほどランクが上がっていません。というのも、依頼の達成率は100%だしその評価も全て最良を示すS評価。果てには無償でギルドに重要な情報や新人の育成なんかもやってる、まさに聖人君子のような、本当に世のため人の為になるようなことしかしていないような存在が私だったりします。行動で全てを証明している筈なのですが、腕っ節の実力もAランクやSランクの依頼すら熟している筈なのですが、なのですが、本当に本当に本当に何故か私はAランクへの昇格が一向に叶いません。他の方々は依頼を失敗しているようなのですが、私だけ一向にランクが上がらないのです。
ですのである時、ギルドに直談判しました。えぇそれはもう下手下手に出て「何故私はランクアップが出来ないのでしょう?これほどギルドや他の同業者に良くしていて行動で色々示している筈なのに。いったい私の何がいけないのでしょう?」そう尋ねたのです。
その時実は、何故か奥の部屋に通されて、尋常じゃないほどの汗を掻かれたギルドの支部を治める長たるギルドマスターやその秘書の方なんかも交えて聞いたのですが、帰って来たのは沈黙だったんですよね。
仕方がないので返答を待つ間の手慰めに、もちろんちゃんと「少し失礼しますね」と一言断ってから愛用のナイフの手入れを始めたのですが、その途端にギルドマスターや秘書さんが短く悲鳴を上げたんですよね。何事かと思い身構えるために立ち上がると、物凄く怯えた様子でこちらを見るお二人の姿がありました。なので私が後ろを振り返りそこに在るであろう何かを確認すると何も在りませんでした。不思議に思い「何をそんなに怯えられてるんですか?」と尋ねれば、再び短く上がる悲鳴。
えぇ、流石にそれまでの経験で彼等が何にそんなに怯えているのか察した私は、内心とても悲しくなりながらも「私はここに、何故私がランクアップ出来ないのか理由を聞きに来ました。その本当の理由さえ聞ければ、例えどんな理由であれ甘んじて受け入れ部屋から出て行きます。ですからお教え願えませんか」と出来るだけ笑顔で言いました。
それから、何やら物凄く葛藤した様子のギルドマスターから聞かされたのは「お前が胡散臭くて信用が全く出来ないからだ」と伝えられました。
えぇ、半ばわかり切っていた理由でした。ですがやはり一縷の望みに賭け、何が悪いのか知りたかったというもの。ですが、えぇわかっていましたとも。
その後私は、当然悲しみ暮れながら部屋を跡にしました。部屋を出て扉を閉めて少ししてから聞こえたのは、盗賊なんかに捕まっていた生存者たちが生を実感した時のものによく似ていました。
私、そんなに怪しいですかね?本当に泣いてしまいそうです。
あぁ神様。もし存在しているのなら神様。どうかお願いです。ほんの少しで構いませんから、私が人から信用されるようにしてください。それはもう切実にお願いします。
ハァー……。本当に信用というものをされたいものです…。あわよくば信頼されたいです……。