表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/65

竜の嫁5

1-005

 

――竜の嫁5――

 

 二人して店の入り口をくぐると周囲から囁き声が聞こえる。

 店の主人がふたりを見て寄って来る。

「すまんが魔獣の連れて入って来るのは止めてくれ、他の人の迷惑だ」

 再びリリトの額にピキッと♯のマークが出来る。

 

「私は魔獣ではない!」

「こりゃ驚いた、新種の獣人だったのか」

 リリトの声を聴いて周囲がざわめく。

 

 外見がかなり獣の様な獣人もいる為に、言葉を話すことが獣人と獣の違いであると言うのが普通の人々の認識である。

 実際の所ニンゲンが新種の獣人を作ったと言われてもあまり驚かないのが獣人の世界といった所なのだろう。

 

 何しろライオンの顔をした人間がステーキを食う時代である。

 

「まあ、そう言う訳じゃからな、大きなステーキを頼むよ」

 ガウルは店の空いているテーブルに座る。

 リリトも反対の椅子に座るが椅子が低いのでしっぽを丸めてその上に座る。

 

「しかし何だと言うのだ?ここの連中は私が竜だとは全く信じていないみたいだな」

「なに竜だとわかった途端にこの程度では済まないトラブルに巻き込まれる、すぐにわかるさ」

 二人はステーキを注文しガウルは酒を頼んだ。

 店員が酒瓶を一本とグラスを2つ持ってくる、ラベルは付いていない地元で作られた強い酒なのだろう。

 

「飲むか?」

 瓶を開けたガウルがリリトのグラスに注ぐかどうか聞いてくる。

 

「やめておこう、どうせ私には水と同じだ」

 竜の不死性はあらゆる毒の効力を無効にしてしまうと言うのが有る。

 したがって病気になっても薬が効かないのだが病気になる竜もまた存在はしない。

 

「おお、それは豪気だな、それでは遠慮なく飲ませてもらう」

 ガウルはじぶんのグラスに酒を注ぐと一気に飲み干す。

 

「お前にとっても酒は水と同じか?」

「いや、多少は酔うぞ、多少はな」

 獅子の顔がニヤリと笑うと牙が見える、あまり良い顔ではないなとリリトは思う。

 

 その時リリトの後ろから声を掛ける者がいた。

 

「へへへ、旦那すげえお供を連れていやすね。そのお方竜のお嫁様でござんすね」

 卑しそうな顔をした猫族の男である、先程店の奥で酒を飲んでいた男であった。

 リリトは下卑た喋り方をする男にひどく嫌悪感を感じた。

 

「ほう、貴様もなかなか耳が早いようだな」

「いえいえあっしらの家業は情報が命でやすからねえ」

「ワシが供を連れているのではないぞ、この娘の供をしているのがワシだからな」

 

「へっ、へっ、へっご冗談を、それで、こんなかわいいお嬢さんをこれからどうなさるおつもりで?」

 かわいいお嬢さん?コイツも目がおかしいのか?竜の子供が可愛い訳がなかろう。

 

「さてどうするかな?それはこのお嬢さんの気分次第だな」

 再び酒を飲み干すガウルのコップにすかさず男が酒を注ぐ。

 

「けへへへへ、旦那もやはりご存知でヤスか?」

 その時注文したステーキが届いて話が中断される。

 おおきい、5キロ位は有りそうな魔獣の肉のステーキである、上にはたっぷりとソースがかかっていた。

 

「おほっ、久しぶりのソースだな、早速いただくとするか」

 分厚いステーキにナイフを入れると次々に口に放り込む。

 

「ん?どうした、食わないのか?」

 ナイフとフォークを持とうとしないリリトを見てガルアが不思議そうな顔をする。

 

「この場所で私にこの肉を手づかみで食えと言うのか?」

 その言葉にはたと気が付くガルアである。

 店に有るようなナイフをリリトが使えば簡単に折ってしまうだろう。

 竜とはそう言う者だと言う事をガウルは理解していたからだ。

 

「おお、すまんすまん」

 ガウルはリリトのナイフとフォークを取り上げると肉を切ってやる。

 この様子をガルアの後ろから見ていた男が下卑た笑いを浮かべる。

 リリトはまともにナイフとフォークも使えない幼児に見えたのだろう。

 

「さあ、これでいいだろうゆっくり食べるといい」

 再びガウルは自分の前の肉を片付け始める。

 

「世話をかける」

 リリトの身長は120センチ位しかないが頭は普通の大人よりおおきい。

 それが竜特有の大きな口を開けて爪に引っかけた肉を放り込んでいく。

 10切れ程に分けられた肉を次々と放り込むともしゃもしゃと口を動かして飲み込む。

 結局ガウルより先に肉を片付けてしまった。


「ほおおお~~っ、こりゃあすげえ流石に竜族のお嬢様だ!」

 ガウルも肉をほうばりながら酒を飲む、すかさず男がガウルのコップに酒を注ぐ。

 こちらもたちまちのうちに片付けられる。


「あああ~っ、食った食った。久し振りに料理と呼べるものを食ったぞ。」

 そう言って最後の酒を飲み干した。


「旦那、満足されやしたか?」

「おお、久しぶりの酒が五臓六腑にしみわたるわ」

「それは結構な事で、それで先程の話でヤスが」

 

「なんだ?何か言っていたな」

「へい、実はですね……」

 男はガウルに顔を近づけると低い声でささやく。


「各地の領主がこの娘に賞金を掛けてやしてね、どうです旦那あっしが交渉して一番高い所に売りつけヤスが?」

「いや一応ワシはやしろの調査員でな、最初に社に報告せにゃならん」

やしろ?あんなとこはだめでさ。権威だけを傘に着やがって金なんか出しゃあしやせんぜ。第一奴らは領主と結託してヤスから金だけかすめ取られヤスぜ」

 

「そうか?それは面白い話を聞かせてもらったな」

 ガウルは銅貨を数枚机のうえに置くと男はそれをポケットに入れる。

 

「旦那はこれからどうしやすんで?」

 猫耳族の男はいやらしそうな笑みを作って尋ねる。

 

「今日は宿に泊まってあす社に行ってみるさ」

「へいへい、お気をつけて」

 ガルドは少しよろけながら勘定を済ます。


「これからどうするのだ?」

「まずは馬を預ける、それから宿を探す。ワシとふたりはいやか?」

「かまわん、だがあまり大きないびきはかくなよ」

「わかったわかった自重するさ」

 

 ガウルは酒瓶を一本空けている、先程の大言壮語の割には結構回っているように見える。

 馬を預けるとおぼつかない足取りで宿を探す。

 

「こっちだこっち、この先に馴染みの宿が有るんだ」

 そう言いながら路地の様な場所に入っていく。

 

「だいじょうぶか?飲みすぎたのではないのか?」

 リリトがそう言った途端、目の前が真っ暗になった。

 

「ん?どうしたリリト」

 振り返ったガルドに向かってふたりの男が体当たりを食らわす。

 

「うおっ?」

 ガウルが驚いた様な顔で目を見開く。

 

「ぐぐっ!」

 次いで苦しそうに声が聞こえた。

 

「へへへっ、ダンナ先程のあっしの言うことを聞いてりゃこんな事にならなかったんでヤスがねえ」

 先程の下品な話し方をする猫耳族の男だった。

 男は大きな袋リリトの上からかぶせてロープでぐるぐる巻きにしている最中だった。

 

「き、貴様!さっきの猫耳だな」

 ガウルのくぐもった声が聞こえる、痛みに耐えているのだろうか?

 

「安心しなよ乱暴はしねえさ。ちゃんとあんたの目的地には連れて行ってやるからさ。ただチイっとお礼をもらいたいと思っているだけさな」

 

「そういうことだ。リリトよわかったか?」

 ガウルと襲ってきた二人は動こうとしない。

 

「ああ、自分の立場がよくわかった」袋の中からも声がする。

 

「そうともおとなしくしてりゃ優しくしてやるからな、へっへっへっ。ダンナも飲んだ酒が全部腹からこぼれてヤスぜ」

「何を嬉しそうにしているんだ?」

 ガウルの話し方が落ち着いた物へと変わる。

 

「な、なに粋がってやがるさっさと往生しろい」

 猫耳族の男がいら立った声でガウルに取り付いている男たちを叱咤する。

 

「残念だったな、ナイフはワシに届いちゃいない」

 体を開くとふたりの男が持っていたナイフを腕ごと捕まえているガウルの大きな手が顕になる。

 

 「あがあああ~~~っ!」

 男たちが苦しそうな悲鳴を上げた。


「て、てめえ酔っ払っていたんじゃねえのか?」

「ワシを酔わせたければ酒をケースごと持って来い!」

 タンカを切った途端に思いっきり握力を強めたらしい、ふたりの腕からボキッと言う音が聞こえる。


「ぎゃああ~~~っ!」

「う、腕がああ~~っ!」

 ふたりは折れた腕を抱えてのたうち回った。

 

「て、てめえおとなしくしろ。さもないと!」

 男がナイフを取り出して袋の中のリリトに押し付ける。

 

「バカか?お前は誰を捕まえていると思っているのだ?」

 袋の中から声が聞こえいきなり袋を引き裂いて竜の子供が頭から姿を現す。

 

「ひ、ひええ~~っ、このヤロウおとなしくしてろ!」

 男がナイフを構えてリリトを威嚇するが思いっきり腰が引けている。

 

「しなかったらどうする?」

 ズイとリリトが前に出る。

 

 男は目をつぶってナイフを突き出して来た、見かけ通り中身はかなりチキンな輩である。

 リリトが片手で軽くナイフを払うとナイフの先が折れて飛んでいく。

 

「ひええええ~~~っ」

 男が悲鳴を上げて腰を抜かす。

 

「なるほど竜の爪が鉄より硬いと言う噂は子供でも一緒の様だな」

 ガルドは男の胸ぐらを掴むと片手で目よりも高く持ち上げる。

 猫耳族は空中で手足をじたばたと動かすがガウルは全く動じる様子は無い。

 

「どうする竜神殿、その爪で首をはねるか?それとも内臓を引きずり出して食うか?」

 なにやら恐ろしい事をあっさりと問う。

 

「ひぎゃあああ~~っお助けええ~~っ」

 なんとも情けない声を出してじたばたと暴れる、小物感が半端ではない。

 私は人食いでは無いぞと思いながらリリトは続けた。

 

「私にそんな臭いものを食えというのか?だいぶ腐っておるではないか」

「それじゃあ四肢でも切り落として放置しておきますかな?なに10分もすれば出血多量で死にますからご心配無く」

 何を心配しなくてはならんのかと思うリリトである、いささか頭が痛くなってきた。

 

「いやああああ~~っ!やめてやめてなんでも言うことを聞きやすから命ばかりはお助けえ~~っ!」

 ガウル手を振り払って地面に落ちると男は土下座をして米つきバッタの様に頭を床に擦り付ける。

 

「すいません、すいません、ほんの出来心でして決して貴方様を傷付けよううなどとはこれっぽっちも考えてはおりませんでして」

 

「お前に私が傷つけられる訳も無いだろうが、そっちの男はガウルを殺そうとしていた様だしな」

「いえいえいえ、ほんの少し脅かして逃げていただければそれで良いと思ってました」

 思ってもいないことが良くこうも簡単に口に出来ると感心するリリトである。


「やっぱり頭から丸かじりにでもするか?」

「まあ旨くは無いでしょうな」

 ふたりが顔を見合わせると男はそれを隙と思ったのだろう、いきなりリリトの横をすり抜けようと飛び出した。

 流石に腐っても猫族の男である、非常に素早い動きであった。

 

 しかし竜の子の動きはそれを遥かに上回っておりすれ違いざまに男の足を尻尾でなぎ払う。

 

「うぎゃっ!」

 足を払われて倒れた男の頭の上に空中で一回転したリリトの尻尾が叩きつけられる。

 

「ふぎゃん!」

 情けない声を出して男は白目を向いてしまった。

 

「ほほう、なかなかに容赦ありませんな」

「お前ほどでは無いと思うがなあ」

 ガウルは先程手を砕かれて悶絶している男たちを蹴飛ばして立たせている。

 

「とりあえずこいつらは市内の警備隊に引き渡しておきますか」

 ガウルは倒れている男を軽々と片手で担ぐとふたりを追い立てて警備隊に連行した。

 警備部も流石にリリトが竜の子供であることに気付いた様であるが何も言えずそのまま3人を引き取った。


 何の罪に問われたのかは知らん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ