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狩猟軍3

1-038

 

――狩猟軍3――

 

 ガングから帰ってきたリリト達は町の外周部に有る狩猟軍の訓練基地の話を聞いた。

 

 街からは少し距離があるが見学をしに行くことにしたらクリーネが一緒に行くと言う。

 薬の開発はどうしたと聞くとサビーヌが見ているから大丈夫だと言う。

 お前の方が大人だろうと言ったが要は退屈していると言うのが本音らしい。

 

 なんなのこの残念兎秘書は?

 

 それでも今後ドゥングで同様の組織を作る事になるから彼女にも参考になるだろうと考えて同行させることにした。

 サビーヌは残って彼らの実験を見ているように頼んだ。

「お心のままに。」そう言って頭を下げる。

 

 うんサビーヌはとても良い娘だ。

 

 先日の事もありヴィエルニは再教育を受けているとの事であった、向こうに行けば会えるだろう。

 施設は新人の訓練とベテランの再教育の場としても使用しているらしい。

 

 これまでの狩人チームというのは先輩が後輩を指導していくという徒弟制度であった為教育にむらがあり効率が悪かったと聞いた。

 全くの素人がチームを組み右も左もわからぬ中で失敗をするという事も多々あったようだ。

 それが獲物を逃がすだけならまだしも大型魔獣グリックとの遭遇などはチーム全体を危険にさらす。

 

 その点ではヴィエルニも耳の痛いところだろう。

 

 ここで教育を受けても一人前になれる訳ではないが少なくとも自分の身を守れる程度には動ける人間にはしたいらしい。

 かなり広い敷地をとってグラウンドにしてありその外側には森も広がっている。

 ヴィエルニも数年前にここを卒業したそうだ。

 当時の仲間と共にチームを作って狩猟経験を積んできたと言っていた。

 

「なんじゃ?誰か上の人間がついてくれて狩りに出ていた訳では無かったのか?」

 通常はベテランの狩人がリーダーとなって若い者に経験を積ませるものなのだ。

 これはあらゆる仕事においても同様でそれが無ければ自己流に走ってロクなことにはならないのだ。

 

 リリトもそのことに関してはいささか疑問に思っていた。

 彼女がリーダーのチームらしいが通常は全員が同じくらいの年齢で大型魔獣グリックを狙うと言うのはあまり考えられない構成なのだとガウルが言っていた。

 ましてやここは軍隊なのだ、組織が人材育成をないがしろにしてはその意味がない。

 

 ただこの狩猟軍も作られてから急激に組織を大きくしたらしくベテランはまだ少ないと聞く。

 結局町の周囲の小型の魔獣を狩るだけであればさしたる経験も必要が無いし失敗しても命に関わることはない。

 そこでは新人だけチームでも経験を積むことができる場所だからである。

 

 しかしここは個人の狩人ではない軍隊である。必ず報告書の提出を求められる筈で新米連中が大型魔獣グリックの討伐に出られる訳がないのである。

 こうしてみるとヴィエルニ達は功を焦って無謀な大型魔獣グリック討伐を目指したらしい。

 どんな理由が有ったのかは知らないしそれで命を落とそうがそれはリリトの知るところではない。

 

 ガウルは彼らの力量を見抜き大型魔獣グリック討伐は無理であると判断し、自らの必殺の魔法を使い彼らを助けたのだ。

 しかし同時に無謀な討伐は周囲の人間を危険にさらす行為であったのであれ程怒ったのである。

 

「なんだ?その恰好は?」

 着替えをして現れたクリーネを見てリリトは絶句する。

 普段見慣れている秘書課の制服ではなく武器こそ持ってはいないがまんま狩人の格好をしてやってきたのだ。

 

 リリトは領主服のままだというのに、この残念兎秘書め。

 

「はい、郷に入っては郷に従えとの例えの通り狩人の訓練を見るのですから狩人の服装をしてまいりました」

 ドキュンと胸を張りだした格好で森の中を走り回るつもりか?

 

 グラウンドに来ると幾組ものグループが教官について訓練を受けていた。

 各種族が入り混じっての訓練状況はかなり体力差が有り教官は困っているだろう事が良く見える。

 

 熊族と獅子族は瞬発力は大きいが持久力にかける、猫族は俊敏性が高く持久力もあるが力が強くない。

 犬族は耳と鼻が特に良く攻防のバランスの良い中心的狩人である。

 兎族は全く戦闘能力が無いがジャンプ力だけは抜群に有り逃げ足だけは早い。

 耳が良いので索敵要員として重用されるが戦闘力には数えられない。

 

 訓練所は街から少し離れた場所に有り、来てみると確かに広大な敷地を有しておりその外側には柵のようなものもなく森と繋がっていた。

 訓練と実技の為らしい、訓練所からそのまま狩りの実技に出られるという思想の様である。

 それ同時に街の外側に広い空地を取り魔獣の侵入を防いでいるらしい。

 

 森の開墾は結構な重労働なのでなかなか進展しないのが実情らしい。

 結局木を切って材木にした後は切り株を放置したまま牧草地になっていた、慌てて走るとコケそうだ。。

 それでもここは訓練のために切り株は撤去されグラウンドの様になっていた。

 

 広場のあちこちで集団になって訓練が行われている。

 遠くの方には何やら石積みの大きな建物も見える、倉庫か何かなのだろう。

 新人らしい一団が隊列を組んで走っている。

 

 各種族が入り混じっているようだ、なんでも契約は2年だそうでその後は契約を更新して行くらしい。

 成績によって昇進をしていくそうだが契約終了時点で独立する人間も多いようである。

 

 農地には限りがあり親から受け継げないものは狩人になるか商売を始めるか自分で土地を開墾するかである。

 とりあえずの生活費を稼ぎ次の仕事の貯えを作る為には非常に良いシステムなのだろう。

 狩人とて別に悪い商売ではないちゃんと生活をし家族を養うくらいには稼げるのだ。

 ベテランになればそれなりに稼ぐし大型魔獣の討伐部隊はかなりの危険手当も出るという。

 

 訓練をしている一団が魔獣に見立てた手押し車をやりで突く練習をしている。

 魔獣は簡単には死なないので槍で突く場合はできるだけ多くの槍を突き込む方が良いのである。

 一団の数人が大きな手押し車に向って同時に槍を突き込んでいる、大型魔獣に対する訓練なのだろう。

 あるいはロープにぶら下げた木の枝に布を巻き付けた物を揺らしてそれに対してナイフで斬りかかる訓練もしている。

 おそらく獣の腱を切る訓練であろう。

 

 彼らの装備は革の上着や胸当て等で長めのブーツと腕あて付きの手袋なども装備している。

 毒を持った生き物や野山を歩くので必要な物なのである、全員が同じデザインの物を使用している所を見ると官給品なのだろう。

 そういえばクリーネの服装も同じだ、どうやらここで調達したらしい。

 

 面白かったのが兎耳族の訓練であった。一人の兎耳族を残りの全員で追いかけ回す鬼ごっこである。

 兎耳族の男はピョンピョン跳ねながら追跡を交わしていく。

 それを疲れて動けなくなるまで続けていた。

 

 魔獣に追われても生き延びる訓練だそうである。

 兎耳族は攻撃力は皆無なので魔獣に追われたらひたすら逃げるらしい。

 索敵が終われば放置されるそうで、考えて見ればひどい待遇だ。

 

 しかしそこでリリトとガウルは気になる訓練を見つけた。

 少し離れた場所で長槍を使う一段と剣を使う一団が乱取りを行っている。

 そこにはヴィエルニも参加していた。

 

「なんだガウル?狩人は人間同士で狩り合う事もするのか?」

「武器を持った人間同士は狩るとは言わん、武器を持たない者を追うのが狩りだ」

 

「物騒な事を言うなそれは人間狩りの事では無いか」

「うむ、相手が武器を持って戦う集団戦の事は別名戦争とも言うな」

 どうもコイツの頭の中は少し違っている様な気がする。

 

「別名でなくとも戦争だろう、ヴィエルニは何でこんな所で戦争の訓練をしているのだ」

「さあ、わかりませんな。街で言い寄ってきた男を返り討ちにする為でしょうか?」

 

「言い寄ってきた男をいちいち槍で突き刺していたら男がいなくなるぞ、それは獅子族の習慣か?」

「いやいや流石に槍では突きませんが軟弱な男は思いっきりパンチを食らわせますな」

 パンチに耐えれば男として認めるとでもいうのか?2メートル近い女もいるんだぞ。

 

 いかんなコイツと話をしていると少し思考が傾きそうだ。

 

 訓練所の一角で互いに向き合って木製の槍を使って組み手をしている一団がいた。

 槍の先端には布を丸めた球を付けており皮鎧と皮の手袋をしていた。

 

「そうだ!突きこんできた槍は柄で跳ね上げろ!」

「サーイエッサー!」

 

「直線の動きには円の動きだ。槍を回せ!」

「サーイエッサー!」

 

「槍は鞆も武器になる、相手の喉元に突き込め!」

「サーイエッサー!」

 

 何やら剣呑な声が聞こえる。

 それと共に槍を突き込まれた相手がうずくまって倒れる。

 

「屑どもが、気合が足らん戦場で倒れたら死ぬ時だぞ!お前らは死人か?」

「サーノーサー」

 教官が何か言うたびに全員が声をそろえて返答をする。

 

「ガウル、なんだあれは?」

「軍隊式教練方とでも言いますかな?対人戦闘訓練の様ですな」

「軍隊式?ここは狩人の訓練所では無いのか?」

「さあ……それはワシにはわかりかねますが……」

 

 ガウルが指導している人間を見ていた。

 後ろを向いているので顔は見えなかったがたてがみから獅子族の男のであることはわかる。

 

「あいつ、どこかで見たような気がするが……グレイか?」

「毛並みが違いますな、あ奴は……」

 ガウルはずかずかと男の方に歩いて行く。

 

 男が気配に気づいて後ろを振り向く、その刹那ガウルが腰の剣を抜き放ち男の頭目がけて振り下ろした。

 男は素早く刀を抜きふり下ろされた剣を受ける。

 剣同士が当たった所から激しく火花が飛び散った。

 

「レランド!やはり貴様か!よく今まで生き延びて来られたな?」

「これはこれはガウル殿いきなりなご挨拶ですな、私が受けなければそのまま切り殺すおつもりでしたかな?」

「フン、それでも良いが貴様など切り殺す価値も無いがのう」

 ガウルがニカッと笑う獅子の唇がめくれ上がり大きな牙が覗く。

 

「いえいえ、ガウル殿も老いたご様子、以前ほど剣の動きに切れが御座いませんな」

 同じように牙を見せてニカッと笑うレランド、コイツはドゥングでグレイを使ってガウルに喧嘩を売った男だ。

 ええかげんにせんかとリリトは思う。

 

「これ以上暴れるとまた尻尾で引っ叩くぞ。二人とも嬉しそうな顔をしてないで剣を収めろ。」

 リリトに言われて二人とも刀を引いた、元々殺し合いをするつもりではなかった様だ。

 

「意外とお前ら仲が良くないか?」

「「勘違いです」」

 ふたり口を揃えての発言である、やはり仲が良いようだ。

 

「そうそう、リリト様に置かれましては先日我が国の兵士を無事お返しくださったことを感謝いたします」

 慇懃に頭を下げるレランド先日のグレイの事を言っているのであろう。

 

「その部下を見捨ててとっとと帰ったお前に言われても説得力がないな」

「これはまた手厳しい。おまけに何やら新技術をまでご教授頂いたそうで感謝の念に絶えません」

 嫌味な発言に対して全く恥じる素振りも見せず言ってのけるこの面の皮の厚さは竜族並みだな。

 いやいや、たしかに竜族の面の皮は厚いがあくまでも肉体的なもので決して精神的なものでは無いぞ。

 

 いかんな、どうも自分で自分をドツボに落としてしまったような気がする。

 

「早速実験を行って量産体制でも整えているのか?」

「私はその方の専門では有りませんのであまり良くはわかりません。」

 ふん、脳筋な顔をしているがかなりしたたかな奴にみえるがな。

 まあしたたかと言えばこのガウルもいささか掴みどころのない所が有る、腹にイチモツどころかどの位抱え込んでいるのか底が見えん。

 

「それで貴様はここで何をしておるのだ?」

「おお、知れたこと私は武官ですからな、この狩猟部隊の人間に訓練を付けておるのですよ」

 

 エルドレッドの兵士がマリエンタールの狩人の教官だと?なんの冗談だ。


申し訳ありません、前回は間違えて、狩猟軍1、狩猟軍2を同時に更新してしまいました。

閲覧にご注意ください。

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