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追憶7

1-016

 

――追憶7――

 

 リリト達の学校の有る場所は壁に囲まれた都市部の外れの方である。

 

 塀の上にまで飛び上がってみると一面の畑と牧草地が見えた、その中に住居らしきものが点在している。

 しかしこの頃まで竜たちの外出は制限されており都市外への移動すらあまり認められてはいなかった。

 それはニンゲンの子供達も同じで都市部の外を知る者は少なかった。

 

 しかしリリト達も中学生である、嫁に行くまでそれ程長い期間が残っている訳では無い。

 

 この頃になると都市部の生活区域から離れて周辺の農耕地帯への遠征を行うようになる。

 要するに課外授業である。10人づつのグループに分かれ獣人の学校で一緒に勉強をするのである。

 

 それまでは獣人とは言っても数人の教師以外との接触を持っていなかった。

 しかし竜の嫁として旅立てばそこにニンゲンはいない、外壁の外に住んでいるのは全員が獣人である。

 獣人には獣人の社会が有り、しかも外壁から出ればそこにニンゲンの規範は通用しない。


 そこで人間達は積極的に外壁の周辺部に住んでいる獣人との交流を促し彼らに慣れさせる為の長期のホームスティを行う事にしていた。

 

「うわああ、クルルちゃんこんなに高い所を飛ぶんだね~」

「ははは、君たちは訓練中だからあまり高くまで飛ばせないけど大人の竜はもっとずっと高い所まで上がれるそうだよ。」

 これから獣人のアサド・グラン教師と共に人類を守っている外壁に近い村までソーサー・ヘリで送ってもらっている所である。

 

「外はこんなに広くて……みて、あそこにも大きな町が見える。」

 少し高い目のビルがたくさん建っているエリアが畑の真ん中に忽然と存在していた。

 

「あれは中央の都市部とはまた別に獣人世界の行政と商業の街だよ、あそこも中央都市同様に塀で囲まれているんだ。」

「獣人さんは入れないの?」

「いや、入れないのは中央都市だけであそこは誰でも入れるんだよ。」

 

 リリト達はこのニンゲンの住む塀に囲まれた国の構造は大きく三つの輪で描かれていると勉強で習っていた。

 

 最内周はニンゲンの住む都市部。

 2番目の層には農耕を行う地域。

 そしてが最外周には畜産等を行う地域で有る。

 

 そしてこの塀に囲まれた世界の事を外部に住む獣人は「エルドランゴ」(塀の世界)と呼ばれている事も聞いていた。

 

 中央の都市部には獣人の立ち入りが許されておらず、ごく一部の獣人だけが政府の監視のもとにそこに入ってきていた。

 リリトの先生達がそれである。

 

 竜の通う学校はその都市部の最も外縁部に作られていたことをこの時初めて知る事になった。

 その区域分けを象徴するように道路は都市部外縁を囲む大きな環状線と各地へ向かう放射状戦が繋がっていた。

 都市部を囲む環状線にはゲートが有り出入りするニンゲンを自動的にチェックしており獣人は入る事が出来なかった。

 

 環状線から出ていく放射状道路は最外周の塀の近くにある環状線までつながっている。

 都市部から出た地域ではニンゲンと獣人が入り混じって生活している。

 ただし住居圏ははっきりと区画されている様で獣人の住む住居区域とニンゲンの住む住居区域は分けられていた。

 

「今回我々が向かうのはその獣人専用の居住区だ、そこには獣人しかいない。」

「なんで獣人さんは都市に入れないの?」

「まあ……な。ニンゲンと言うやつは君ら竜の様に全く形の違う者は意外と平気なんだが、一部がニンゲンと違っている場合、そうだな例えば皮膚の色とかが違っていると異質なので嫌悪感を感じるらしいんだ。」

 そういえば繁華街で有ったニンゲンの女の人たちはリリトの事を可愛いと言っていた。

 

「ニンゲンの形をしているのに犬の耳が付いているとか、そういった場合はすごく反発をするみたいだな。」

「獅子族の人も?」

「いや、あれは単純に顔が怖いだけだろう。」

「「「先生、ひど~い」」」

 

 ソーサー・ヘリは獣人の村に近い場所の牧場に降りる。

 馬に乗った牧童が走り回っていて実にのどかな風景ではあった。

 

 畑を耕している場所もあり周囲には林がたくさんあった。

 案内の人が来てくれてそれぞれのホームステイの家に案内してくれた。

 

 リリトはクルルと一緒に住むことになったが、大体は里親の姉妹で割り振られている様である。

 10人が5家族の家に別れて1ヶ月間過ごす予定である。

 他のクラスメイト達はそれぞれ別の場所で過ごしている筈である。

 

 リリト達の行った場所は塀の近くで牧畜を主体とした生活をしている地域で有った。

 そこには家畜もいたが近くの森の中には多くの野生動物もいた。

 各家の周りには放牧用の土地が有りそこで牛やヤギなどがくつろいだ様子で草を食べている。

 

「よろしくお願いします」

 家の人たちにぺこりと挨拶をするリリト達である。

 そこには16~7歳のエルラと言う少し大きな娘がいた。

 

「わああ~っ、可愛いわ~っ!」

 その娘にして見ればリリト達は小学校低学年に見えたであろう。

 抱き付こうとする娘にズズッと後ずさる二人である。

 

 竜の子はホームステイをしながらその家の手伝いをして獣人の生活の実態に慣れていくのである。

 そこでは畜産と農業を中心にした生活が送られている。

 食事は穀物が多かったが肉も出た、それも驚く事に魔獣の肉である。

「ここでの畜産は殆どが都市部に送られるけど魔獣の肉は壁の外との交易で入ってくるのよ」

 エルラが様々な事を教えてくれる、もちろん農家の仕事もだ。

 

 朝早く起きて動物に餌をやりそれから学校に行く。

 昼の間親たちは畜舎の掃除や餌の用意などを行う。

 夕方学校から帰ってくると動物の世話をして餌をやる。

 そんな畜産農家の普通の生活を現地の子供達と一緒に行うのだ。

 

 初めての経験ではあったが獣人達がやっている仕事に実際に触れるのはとても楽しかった。

 家畜の世話をしながら牛に舐められて悲鳴を上げるクララである。

 自分の何倍も大きい動物の世話は最初は怖いと感じるのが普通である。

 

 ここでは獣人たちが生き生きと生活をしていてみんな明るかった。

 獣人や竜人を見下す傾向のあるニンゲンの社会よりは暮らしやすかったのかも知れない。

 かつて差別意識の有るニンゲンに刺された経験のあるリリトにはそれが何となく感じられた。

 

「ねえ、エルラこの世界は何でこんな風な形にしているのかしら?」

「エルドランゴの生活圏が別れている事かしら?」

 リリトは塀の中の世界の構造について彼女に聞いてみたのだ。

 エルラは獣人は魔獣に対するニンゲンの盾としてそこに住んでいると言う事を教えてくれた。

 

 魔獣はニンゲンの姿を見ると襲って来るが獣人を襲う事は無い、遺伝子に刻み付けられた記憶がそれを行なわせるのである。

 したがって魔獣の侵入を確認したら獣人はすぐに魔獣を殺さなくてはならない。

 その為に外壁に近い場所にニンゲンは住んでおらず、内側に行くにつれ徐々にニンゲンとの混在している地域へと変化していくのである。

 

 獣人たちの区域で撃ち漏らした魔獣はニンゲンとの混在地域にくればニンゲンを襲うので場所が特定しやすいのである。

 そこで魔獣を殲滅させ都市部への侵入は絶対に許されない事とされていた。

 したがって外周部に住む獣人には全員本業とは別に狩人としての訓練がされており早い段階での魔獣の狩り取りが行われる体制が出来ていた。

 

 そういった事情からそこに住む獣人達は様々な優遇処置を受けていた。

 こうした背景から都市部に住むニンゲンは獣人を一段低い人間として見ていたのだ。

 同時にそれは通常のニンゲンよりも遥かに高い肉体的能力を持つ獣人に対する恐れでもあった。

 それでもエルドランゴから外に流出していく獣人は後を絶たなかった。

 

 もっとも同じ地域に住むニンゲンと獣人は思いのほか仲が良く偏見や差別は無い。

 彼らと喧嘩しても勝てるわけでも無く逆に魔獣から自分たちを守ってくれる存在だからでもある。

 ここに住むニンゲンには生活費の補助があり、引退した年寄りとか差別に反対するニンゲンなどが集まってきているせいもある。

 いずれも都市部での生活に疲れたニンゲンらしい事は感じられた。

 

 この期間獣人の子供達の通う学校でひと月間ずっと一緒に過ごす事になる。

 習う学科はもちろん狩猟学科である。

 ここでは主として座学としての魔獣の性質などを習う。

 ニンゲンと一緒の学校で習う事のない学科である。

 

 学校では獣人の先生が待っている。

 獣人は都市部に入るのは禁止されているので課外授業は全て現地の契約教師である。

 普段は獣人たちの学校の先生をしておりちゃんとした教師である。

 

 最初は物珍しそうにしていた獣人の子供達もすぐに打ち解けて仲良くなる。

 獣人との生活に慣れるための第一歩である。

 主とした目的はこの後に行われる塀の外にある獣人族の町に滞在する為の練習に有った。

 

 竜達は今後嫁に行ったらニンゲンとはほとんど関わる事は無く獣人たちと暮らす事になる。

 彼らの価値観や生活観に関して多少とも知識が無ければ孤立する事も考えられるからだ。

 

 ステイしたのは犬族の家であったが驚いたことに食事には魔獣の肉が出された。

 壁の内側では魔獣の飼育を認められてはいない、しかし外部との交易は盛んな様で魔獣の肉はかなり輸入されている。

 なんでも外部では魔獣を飼育しているらしい、確かに大戦前はニンゲンも魔獣を飼育していた。

 魔獣がニンゲンを襲うようになったので飼育できなくなったのだが獣人達には関係が無いとの事だった。

 

 中学ともなれば獣人ならずとも大きくなる。

 中でも獅子族と熊族は中学生でも大人並みの大きさが有る。

 一方で竜族はまだ小学生並みの大きさしかないので子供扱いである。

 熊族の女の子に抱き付かれてスリスリされたりするのには流石に閉口した。

 

 それでもそこに住む獣人たちは一様にリリト達に普通に接してくれた。

 都市部と違いここには獣人しかおらず姿かたちで差別を行うような者は一人もいない。

 熊と獅子の顔をした人間に頭から獣の耳を生やした人間の共同体である、竜の形をした人間がいてもさほどに違和感は無かった。

 

「なんで魔獣はエルドランゴに入ってくるのかしら?」

「知らねえのか?リリトだってまずい飯よりおいしい飯の方がいいだろう?」

「うん??」

「魔獣も同じだよ木や草よりも柔らかくて汁気の多い野菜の方がうまいからさ。それを狙って中に入ってくるんだ。」

 クラスメイトの男の子が教えてくれる。

 

 外にいる魔獣もおいしい餌を求めて中に入ってくるらしい。

 それで時々畑を荒らす魔獣が出るのでそれを狩っているのである。

 なんでも畑の食べ物の味を知ると仲間を連れて帰ってくるので森に返してはいけないと言っていた。

 

 滞在中にそう言った魔獣が出たので近所で狩る事になった。

 リリト達の泊まっていた家の子供もそれに同行することになったようだ。

 竜の子供達は上空から見る様に言われて空にぷかぷか浮きながらその様子を見ていた。

 

 するとイノシシが畑の野菜を食っているのが見える。

 既に獣人達は包囲を完成さえておりその獣の周りを囲んでいた。

 大人達は手に槍を持ち子供達は網を持っていた。

 

 しかしイノシシにしては少し大きすぎるのではないかと思えた。人が近づいていくと確かに相当大きいのがわかる。

「クララちゃん、あれ魔獣じゃないのかしら?」

「そうみたい、ふつうのイノシシとは毛皮の色が違うわよ。」

 

 接近して来る人たちの気配に気づいた魔獣はだっと逃げ始める。

「気が付いたぞ!」

「右に回り込めすぐそっちに行くぞ!」

 みんなの声が聞こえる。

 

 獣は畑の中をジグザグに進む、子供が網を持って立っていたところに突然正面に現れる。

 しかし子供も油断はしていなかった。

 広げた網を獣に投げつけるとパーンと跳ねあがって獣の突進を躱す。

 

「すごいっあんな子供が2メートル以上も飛び上がっているわ」

 網を投げつけられた獣は暴れて網を外そうとする、その間に獣人達は包囲を狭めていく。

 

 突然獣は一直線に走り始める、周囲にいた者は網を投げかける。

 槍を持った大人が獣を追いかけて走り始める。

 驚いた事に獣よりも足がはやい。

 

 追いつかれた獣は突然向きを変えようとするがその一瞬を見逃すことは無かった。

 向きを変える為に止まった一瞬に槍が打ち込まれる。

 槍を打ち込まれた獣が倒れると間髪入れず次の獣人が槍を突き立てる。

 

 そこに雪崩を打って他の人間も槍を撃ち込んだ。

 後で聞いた所によるとこれだけ槍を撃ち込まないと魔獣はなかなか死なないらしい。

 獣を殺す瞬間を目撃した二人は震えが出ていた、生きる物を殺す事への嫌悪感である。

 

 しとめた獲物は村にある木に片足をロープに結ばれて吊るされた。

 喉を一刀のもとに切り裂かれ血が流れだす。

 それを大きなボールで受ける、粉とくず肉を混ぜて腸詰めにするそうである。

 

 初めて獣の解体を間近で見た二人は抱き合っておびえた目をしていた。

 しかしそれこそがこの課外授業の目的であった。

 この次は彼女たちもまた外に出て自分たちがやらなくてはならない事だからだ。

 

 その夜は食卓に出た新鮮な魔獣の肉をおいしくいただく竜の子供達であった。

 中学校の間何度かこの様な授業が行われ竜の子供達は外に出る準備を続けていく。

 

 そして中学生活の終わりも近づいてくる、それはニンゲンとの別れの時間でもあった。


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