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追憶6

1-015

 

――追憶6――

 

 中学校に入ると性教育が始まるのはニンゲンも竜も一緒である。

 

 男子は女子と別れて能天気にボール遊びに興じている間に女子は女体の神秘について講義を受けている。

 竜の子供は全員がメスなので集まって竜の出産についての講義を受ける事になるのだ。

 

「まず最初に言っておくことが有ります、竜のオスは身長が10メートル以上有り、皆さんがオスとの間に子供を儲ける事が出来るのは身長が9メートルを超えたあたりからだと考えられています」

 それは少なくともこれから400年から500年先だと言う事を意味していると言われた時には全員が驚きの声を上げた。

 

「「「えええ~~~っ?」」」

 

「先生!それじゃそれまでの間私たちは何をすれば良いのですか?」

「はい、オスの竜の元で一緒に暮らしていれば良いのですよ」

 実はこれはゼルギオスの考えで有ったらしいのだが早い話が子育ての訓練である。

 

 竜の嫁が育つまで面倒を見させる事により育児の概念を学ばせるのである。

 大人の竜を送りつければ欲望のままにDVに走るものがいないとも限らないと考えられていた。

 子供を送りつければそういうことも無いだろうというのが今回の目論見である。

 

 もちろん促成成長をさせれば良いのであるが竜のオスとの間に生まれて来る子供は今の子供達の様に成長は遅い。

 結局子育てと言うのは自分自身が育てられた経験が無ければうまくは出来ないと言う事なのである。

 竜のオスは薬で成長させたので子育てではなく単に飼育されただけの物でしかなかった。

 

 むしろ放たれた後に獣人族との関りで人間関係を学んでいったに過ぎないのである。

 結局人間関係をうまく作れず孤立した竜がその長い生涯に耐え切れず自殺をしていったと考えられていた。

 

「もし結婚生活がうまく行かない場合はやしろを頼って別の竜の元に嫁いでください、その様に社には通達を出してあります」

 もっともやしろからの報告によれば獣人と共生関係に有る竜族はおしなべて人が良く穏やかな性格をしているそうである。

 この事からも子供を送ると言う発想が生まれたのであり多くの竜は幼い竜の嫁を大切に育てるだろうと思われていた。

 

 何より重視しなくてはならないのは竜族は決して獣ではなくニンゲン同様の知性と感情を持っている存在であるということである。

 とは言えすべては初めての事なのでどのような結果になるのかはこの時点ではわからなかった。

 

 ただ残念なのは新陳代謝のせいで500年間も昔の記憶を保持し続けるのは非常に難しいと言うことであった。

 その為に既に自分の成長の記憶を失っている個体が多いと予測されたので竜の嫁を竜族と判断できるかどうかはわからないと言う所であった。

 そこで出来る限り社に対しては竜の嫁に対する情報を流しておいたのだが現在の社の状態ではいささか心もとない所ではある。

 そう言った事も有り竜の嫁には生体補助記憶装置を付けて記憶の劣化を防ぐ手立てを設けているのである。

 

 オスの竜とのヤり方についても微に入り細に入り具体的に丁寧にかつ実践的に教育がなされた。

 送り出された竜の嫁には親も姑もいないのである、この学校の授業が全てなのであり500年後までも面倒は見切れない。

 

 オスの誘惑の仕方から拒絶の仕方まで『授業』として教えられた。

 多分に先生の性癖が出る授業ではあるがそれはそれで致し方が無いのである。

 

「はいっ、先生!」

「どうぞ」

 

「あのう……ニンゲンの話だと男はその……アレを我慢できないそうなんですけど~、500年も待たされたオスは一体どんな感情を持っているでしょうか?その~ものすごくヤりたくて仕方ない野獣と言うか……」

「あ~っ、つまり我慢できなくて襲われたらどうしようかと言う事ですか?」

 

 具体的に、まさに具体的にである。

 

「は、はい。あんなに大きさが違っているとその…私達ではどうしようもないのではないかと思うのですが?」

「まあ、これまでの社の報告を見ますとそこまで飢えているオスは少ないようです。逆に女を全く知りませんから獣人を襲ったと言う記録も無いようですね」

「そ、そうなんですか?」

 

 まあ獣人にしても大きさが全然違うので無理だとは思うみんなである。

 当然の事ながら竜神は全員が童貞だと言う事で不死身と言う事も有って耳年増な面はあるとも思われた。

 ただ500年間オスの竜は禁欲を強いられてきた哀れな存在でもある。

 

「ですから皆さんの方が男をコントロールしなくてはなりません。男をヤる気にさせるのも萎えさせるのも皆さんの手腕にかかっています」

 奥さん歴20年のベテランの言葉である。

 

「皆さんがお嫁に行くと言う事を考えればその様な行動に出るオスもいるかもしれません。そこを調教・・するのが皆さんの女子力と言う事です」

 今ちょっと変な言葉が混じったような気がしたが?きっと空耳に違いない。

「で、でも先生大きさが全然違いますからとても女子では太刀打ちが出来ないとおもいますが…」

 

「まあ、その場合に備えた最終手段も存在しますので、そういうことを加味したうえで皆さんにお話いたしましょう」

 あれだけ大きさの違うオスがDVに走った時の手段である、全員がシンと静まり返ってゴクンと唾をのみ込んだ。

 

「切っちゃいなさい」

 

 一瞬先生が何を言っているのか理解できなかった。

「は?な、何をですか?」

「いくら竜が大きくてもアレはそこまでは太くありません。危ないと思ったら爪を立ててチョン切っちゃいなさい」

 

「「「ひええええええ~~~~~っ」」」

 いやいやいや、いくら何でもそれは過激でしょう。

 

「体の他の部分と違ってあの部分に関しては皮が薄いですから皆さんの爪でも十分切る事が出来ると思います」

 いやいやいや皮を被っている個体はどういたしましょう?

 

 全員がかなり混乱している様である。

 

「だだだ…だってそんなことしたら……」

 子供を作れなくなると言おうとして言葉に詰まる、まだ初心うぶな竜の少女達である。

 

「大丈夫ですまた生えてきますから、相手は竜ですよ」

 

「「「いやああああ~~~~っ」」」

 再び全員が悲鳴を上げる、神秘である、生命の神秘である。

 

「皆さんも同様ですが竜の新陳代謝は非常に高くて手足を欠損してもまた生えて来るのです。同様にオスのアレもちゃんと生えてきますからそんな不埒ふらちなオスは遠慮なく切っちゃいなさい」

 

「「「………………………………」」」

 なんか思いっきり竜のオスに同情したくなってしまう。

 

「魔獣の肉を食べている限り手足はもちろん脳を破損してもちゃんと再生します。ただし記憶は再生しませんから脳の破損だけは注意をしてください、竜とはそういう生き物なのです」

 恐るべきは竜の生命力である。不死身と言うのはそういう事らしい。

 

 なおこの授業が有った後体育の授業で各自の爪を使って丸太を切る練習をさせられたのである。

 全員がものすご~~く嫌な顔をしながら切っていたのは言うまでもない。

 何も知らないニンゲンの同級生がそれを見ていて少しビビッたようである。

 小学生の時の様にいじめをする子はいなくなった。

 

「さて竜族に関しては子供を生む機能は当然あります、しかも一生の間排出される卵の数に制限はありません。活発な新陳代謝のせいで卵もまたいつまで立っても新品そのものですからご心配なく。」

 死なない竜族は永遠に子供を生み続けられるらしい。

 

「ただし排卵間隔が十年に一度で着床期間が約半年なので出生率はかなり低いと思えます。これは死なない竜族の特性を考えればその程度に抑えなければ世界中が竜族で溢れてしまいますから。」

 結婚してもすぐに子供が生まれる訳でもなさそうである。

 

 いやオスの竜はいきなり子供を送りつけられるのだからそれはそれで嬉しいのでは無いだろうか?

 

「次に出産なのですが皆さんは体重約10キロで生まれ生まれて2週間で歩くことが出来るようになります。これは自然出産でも同じ程度の成長速度と考えられています。」

 と言うよりそうなる様に生命設計を行ったのである。

 

「問題なのは70トンの体重の有る竜から10キロの子供が生まれるわけですから十分に気を付けないと子供を潰してしまいかねません。」

 ニンゲンが二十日鼠を生むような物なのだからそう考えれば非常に危険であることは理解出来よう。

 

「従いまして出産からしばらくはやしろの助けを借りて育てる事を勧めます。皆さん達は獣ではありませんからなるべく獣人達の社会の規範の中で生きていくことが望ましいと言えるでしょう。」

 

「先生!塀の外には獣人さんしかいないのですか?」

 一人の生徒が手を上げる。

 

「はい、ここのような塀に囲まれた場所があと10箇所ほどありそこにはニンゲンが住んでいますが世界のほぼ全ては魔獣と獣人の住処でありニンゲンは住んでいません。」

 教室中からフウウ~ッと言うため息が聞こえる。

 

「今の獣人さん達はどの様な生活をしているのですか?」

「だいたい産業革命前の農耕国家程度の生活のようです、現在はまだニンゲンとの交易もあり多少機械文明も残ってはいますがそれもいずれは無くなるでしょう。少なくともここの様な生活が出来ないことだけは確かです。」

 だからといってこのまま大きくなるまでニンゲンと共に暮らす事が出来ないのは確かである。

 

「皆さんの乳腺は体の下の方のこの辺りにありますから寝そべってやれば授乳は可能でしょうが、やはり新生児の場合はかなり危険だと思われます。獣人達に乳を絞ってもらって子供に与えるほうが安全でしょう。」

 そもそも竜族の手には強力な爪がありしかも手の形からあまり器用には動かない、新生児を持ち上げるだけでも危険なのである。

 

「それじゃ旦那が子供を抱きたいと言ったら?」

「断固拒否してください、少なくとも5年以上は子供に近づけないようにした方が安全でしょう」

 子供が出来たら別居を強要される哀れなオスである。

 

 もう完全に竜族は獣人なしに出産と子育ては無理だと言われているようなものである。

 考えてみればその点は今のニンゲンも同じようなものである。

 それだけ日頃から獣人との付き合いは大事にするようにしたほうが良いのである。

 実際のところやしろからの報告では竜も一人では寂しいらしく結構獣人とは懇意に付き合いが有るとの報告であった。

 

「あまり心配する必要はありませんよ獣人は竜族にいて欲しいし竜族も一人で生きていくことは出来ませんから相見互いで共存しているのですから。」

 

 なぐさめとも言えそうな発言が先生から出てくるのは全員が暗中模索の状態であることを示していた。

 ただはっきりしているのは竜族は絶対的強者ではなくやはり地球に住む生き物の連鎖の中にあると言う事なのだろう。

 

「はいっ、先生!」

「なんですか?ライラさん」

 

「あ、あのうニンゲンの出産の場合はすごくお腹が痛くなると聞きましたが」

「はい、陣痛と言って激しい痛みを伴います」

「医療水準の低い時代は子供を産むのは命がけだったそうです……」

 

「ああ、皆さんは竜ですから何が有っても問題は有りません。簡単に出てくると思いますよ」

 いやいやいや、ウ〇チじゃないんですから簡単に出られても困りますけど。

 

「で、でもそうしたら気が付かないうちに子供が生まれたりとかそういう事は無いんですか?」

 70トンの竜が10キロの子供を産むのである、考えてみれば一回のウ〇チの方が大きいかもしれない。

 

「実はそのあたりはわからないのですよ、何しろまだ自然出産した竜はおりませんしそもそも受胎した事がわかるかどうかも判明していません。」

「それじゃ知らないうちに妊娠して知らないうちに産んじゃっていたとか?」

「多分大丈夫だと思いますよ、その辺は感覚的にわかるだろうとゼルガイア先生はおっしゃっていましたから。」

 

 便意を感じる様に何かが出て来る感じは有ると考えられているらしい。

 今はそれを信じるしかないのだろう。

 

 こうして中学校の保健体育の授業はは充実した時間を過ごしていく。


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