「蹴球 その2」
さて、どうやら。
郷達も版画美術館のある芹ヶ谷公園に来ていたようなのですが。
彼らはそこでとある人物と出会い――
状況はあの時と似ていた。
俺がいつもの蛇怪人を倒そうとしたところに、突然、俺の知らない戦士が現れ怪人を一掃。
更に、その戦士が俺に武器を向けてくる。
そこまでは実に似ていた。
しかし、違いはいくつかある。
まず、今は俺と一緒に水槌様がいるという事。
今回はたまたま、一緒に版画美術館のある芹ヶ谷公園に来ていた際に怪人の気配を察知したから二人で怪人の元に駆けつけたのだが。
まあ、それは違いではあるが大した問題ではなく。
大きな問題は、目の前の戦士だった。
何故なら、その戦士からは、俺……いや、俺の持つ武神の力と同じ力を感じるからだ。
戦士の見た目としては、俺の姿と色は似ているものの雰囲気がだいぶ違い、何というか甲冑の騎士を思わせるようなゴツゴツした装甲を纏っているし。
武器も両手剣のような大剣で、盾は持っていないのだが。
対峙してみて感覚的に、この戦士は俺と同じ力を持っているのだと分かった。
「おい、お前一体……」
前回、あの剣客男には襲われた際に相手に何者か尋ねるのかと問われたが、流石に自分と同じ力を持っている相手に問わない訳にもいかない。
なので、俺は尋ねたが。
この戦士はその事には応じず、
「貴様、その女の仲間か?」
と逆に聞き返してきた。
その声は何か変声機でも使っているみたいな、年齢や性別がわかりにくいものなのだが、俺達に正体を知られたくないのだろうか?
そして、そんな奴が俺に対して水槌様の仲間かどうかと質問している。
――怪しい。
とりあえず、ここは。
「だったらどうした!?」
と返しておこう。
いや、勿論一緒にいるのだから仲間だと相手は思っているだろうし、実際そうだけど。
わざわざそれを教える必要はないだろう。
俺はそう考えながらヤツと向かい合う。
そして、何とか一撃入れて怯ませて、その間に水槌様を逃がそうと隙を窺う。
水槌様はここに敵が出ると知ったうえで着いて来ている事もあり、怪人……と言っていいのかわからないけど、とにかく人間ではない方の姿になっているから多少は戦えるだろうけど。
ここはやっぱり、戦士である俺が彼女を護らないとならないだろう。
なのでここは、相手には悪いが一撃喰らってもらい、相手が怯んだタイミングで少なくとも水槌様には逃げてもらおう。
一応、こっちの武器のモードは相手にショックを与えるだけで致命傷は与えないような状態にして……。
などと気遣いをしてみるも。
実際に相手と向かい合って武器を構えてみて、そんな気遣いしている余裕はないかもと思った。
何せ相手は普通に剣を向けているだけなのに。
こちらからは全く、踏み込める感じがしないのだ。
これは何処に隙があるとか無いとがわからないとか、そういう次元の話じゃあなく。
無言で大剣を構えるヤツの圧、それが既に壁になっているとでも言おうか。
相手の周りに存在する、目に見えないが確かにある一線から先、そこに入れるイメージが浮かばない。
……まずい。
これでは、相手に怪我をさせないとか、水槌様を逃すとかどころか、俺がやられ……
「ちょっと、そこどいて!!」
「!! え? な、何!?」
俺が振り返ると、そこにはいつの間にか俺のすぐ後ろまで接近していた水槌様――などと、思っている間もなく、俺は彼女に突き飛ばされる。
そして俺を突き飛ばした水槌様は、そのまま手にしたギター……いや、ギターみたいな剣を相手に向かって振るった。
これには流石の相手も驚いたのか、咄嗟に大剣でギター剣を受けたものの、それが限界だったらしい。
ふらついた戦士は、水槌様と距離をとって構え直し……
「ちょっと、早く逃げて!!」
逃げ……って、え? 俺?
俺の方が、水槌様に護られて逃げるの?
いや、ヒーローとしてそれは……とは思ったが。
ここで水槌様に逆らったら後が怖そうなので、とりあえず言われたままに一旦引いてだな……うん。
☆ ☆ ☆
「ほう、やはり武神の力を目覚めさせたのは貴様らだったか」
私は、とりあえず目の前のこの女に問う。
無論、こいつが本当に力を目覚めさせたのかはまだ確定はしていないが、あの戦士と一緒にいて、しかも戦士を助けた事と。
そしてこの女が、私の追うあいつの仲間である事を考えたらそうなのだろう。
「ちょっと、邪魔しないで欲しいなあ」
答える代わりに相手が返したこの言葉を、肯定という意味だと受け取って構わないだろう。
しかし、
「邪魔だと? 貴様、お前とともにいる相手がなんなのかわかっているのか!?」
というところだ。
あいつは、自分の為ならば何も知らない他人を犠牲にする事など気にしない、邪悪の化身みたいな存在。
もしかしたら、この女も騙されて……
「まあ、大体ね。でも、利用できるんなら利用しようっていうか?」
なるほど。
知った上で、こいつはこいつで他人を利用するって事か。
ならば……やはり、ここで。
「でも君、いつまでもここにいていいのかな?」
「何!?」
「あたしが単なる善意で、彼を逃したと思う?」
……そういう事か。
このまま、こいつの相手をしていたら援軍が来るのだろう。
例えば、さっき私が倒した、戦闘員的な蛇怪人より強いタイプの怪人や怪物を呼び出される可能性もある。
この女だけ、あるいは怪物だけならともかく、両方相手となると……
「姑息な手を」
「まあね。こっちからすればあんたを倒す必要はないから、その場しのぎでいいってわけ」
確かに、この女の言う通り。
私はあいつ、少なくともこの女と手を組んでいるヤツを倒さないとならないが。
相手は計画さえ実行できれば構わないのだから、ここでわざわざ私を倒す必要性はなく。
なので私をまともに相手をする必要性もないという事だ。
全く、相手の言う通りなのが腹立たしい。
だがしかし、援軍が来る可能性を考えたら相手の企てのままに動く事に苛立って、いつまでもこの場にいるべきでない。
仕方がない。
「いずれ貴様は後悔する事になる。覚えておけ」
それだけ言って、ここは一旦引くとしよう。
何か、この捨て台詞だけだと私の方が悪人みたいだが。
相手が悪だからと言って、私は正義であるなんて思うほど私は己惚れてはいないから、何、構わないだろう。
(続く)
こうして、謎の戦士は郷……いや、水槌の前から撤退したのですが。
しかし一方、自分が助けるはずだった相手に助けられた郷はというと――次回に続く。




