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第15話 スキルの影

PCの故障により、長らく更新を止めてしまいました。申し訳ありません。

この話より、更新を再開させていただきます。

 黒装束の二人の刃を、最低限の動きで弾く。

 相手も短刀とはいえ、一撃一撃は俺の攻撃よりも重い。

 だからこそ俺は肉体強化をほどほどに抑えつつ、視力などの感覚強化を中心に施している。

 短刀使いとして、重い一撃を受け流す術には自信があった。

 

「貴様……Cランク冒険者ではなかったのか」


「Cランクだよ、まだね!」


 受け止めた攻撃をいなし、二人の体勢を崩させる。

 重心が前のめりになった瞬間に、俺は体を反転させ拳と蹴りをそれぞれの顔面に叩き込んだ。

 左右に大きく吹き飛んだのを確認し、蹴りを叩き込んだ方の男に素早く近づく。

 その体に組み付き、後ろへと回り込む形で短刀を首に押し当てた。

 

「動かないで。動いたらのどを斬るよ」


「うっ……」


 魔力をまとわせた拳と蹴りは、確かに二人の体にダメージを与えた。

 特に蹴りを浴びせたほうの男は魔力での強化が疎かだったようで、すでに意識が朦朧としている。

 もう一人は俺に飛びかかろうとするが、人質を取られたことでその動きをぴたりと止めた。

 

「誰に頼まれてベロニカを殺しにきた。アイリスさんか?」


「……依頼人の名を言うと思うか」


「だよね。だったらこの人を連れて今すぐこの場を去るなら、命までは取らないよ」


「……」


 これは決して甘さや情けではない。

 はっきり言って、もう魔力強化を保つだけの集中力が切れかけている。

 一人戦闘不能にしたからと言って、目の前の男が俺より場慣れしていることは確かだ。

 純粋な戦闘力でも劣り、さらに魔力も切れたとあっては勝ち目は限りなく薄い。

 このまま帰ってくれれば御の字。

 もしもまだ戦うなら……そのときは俺もただじゃ済まないだろう。


「残念だが――その交渉は成立しない」


「っ!」


 男は懐から無数の投げナイフを取り出し、俺へ向けて放つ。

 一つ一つに魔力が付与されているせいか、速度も切れ味も格段に上がっている。

 何より恐ろしいのは、仲間ごと俺を貫くつもりなところだ。


(くっ、この人は間に合わない!)


 このまま人質ごと避けようとすれば、確実にいくつかをこの身で受けることになる。

 魔力で体を覆って防ぐことも可能ではあるが、今の俺ではあまりに消費が激しすぎた。

 やむを得ず、俺は人質を離して離脱する。

 俺は一撃も受けることはなかったが、案の定人質の全身にナイフが突き刺さった。

 倒れ伏した彼の周囲に血だまりが広がっていき、やがてその魔力が完全に消失したことを確認する。


「仲間じゃ……なかったの?」


「仕事仲間だ。仕事に支障が出れば切り捨てるのは、当然のこと」


「……そうか」


 暗殺者相手に、俺は何をしていたんだろう。

 戦わずに済めばいいなんて甘い話は、とっくに卒業していなければおかしな話なのに。

 身を起こしながら、まっすぐ暗殺者を見据える。

 

「元々俺一人で十分な仕事だ。さあ、おしゃべりはここまでだ!」


 男は俺に向け、先ほどよりも多くのナイフを放ってくる。

 これをかわして男に攻撃を仕掛けるには、もはやスキルを試してみるしかない。

 しかし俺のスキルはまだ使い勝手が悪い。

 今の魔力で発動させれば、おそらく数秒とかからずに魔力切れを起こすだろう。

 ――などとグダグダ言っていても、結局はやるしかないのだ。


「スキル、発動――――。」


 

「なっ……何を……した」


「はぁ……はぁ……何をしたって、ただナイフをかわしてあんたの掻っ切っただけだよ」


「意味が……わから……な」


 そう言い残し、暗殺者の目から光が消え失せた。

 俺は膝をつきながら、目の前で息絶えた男を見下ろす。

 勝負は一瞬でついた。

 俺の魔力は底をつき、もう肉体強化すら解けている。

 ただし、勝利した。

 確かな手ごたえとともに、男の首を斬ったのだ。

 魔力を使った勝負に勝ったことで、ふつふつと達成感がこみ上げてくる。


「スキルを使わされたか」


「ベロニカ……うん、ごめん」


「初めての実戦にしては上出来だろう。ただし、そのスキルのリスクもよく分かったな」


「うん。使いどころを間違えれば、やられてたのは俺だと思う」


「そうだな。使うとすれば、今後はもう少し早く使え。少しでもタイミングを間違えれば、むしろ使用を断念しろ。さもなくば一瞬にして貴様は無防備だ」


「……」


 俺が編み出したスキルは、自分で言うのもなんだけどかなり強力ではあると思う。

 その分、リスクも人一倍。

 諸刃の剣といってもいいくらいだ。


「何度も言うようだが、スキルは強力であれば強力なほどにリスクがつきまとう。私の“華炎”も、魔術を扱うための魔力の数倍のコストを支払うことで、ようやく発動する代物だ。これは私が計り知れない魔力を保有しているから補えているが……主人には現状スキルのコストを補えるだけのものがない」


「何か編み出せればいいんだけど……」


「今は魔力の保有量を伸ばすしかないだろう。貴様のスキルは魔力切れの問題以外にも山積みだからな」


「はぁ……でも後悔はしてないよ。その分強いスキルのつもりだし」


「だからこそ、ルピナスとの戦いでは間違いなくそのスキルが必要になる。極力リスクを抑えることができるよう、残りの短い時間で訓練するぞ」


「うん! お願いします!」


 残り二日。

 この限られた日数で、俺はルピナスを越えなければならないのだ。

 せめて悔いがないよう、最大限鍛え上げよう。

 

 

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