高潔で純血な吸血鬼
店の片付けも終わり、俺はカウンターでコーヒーを飲みながら、ヴィルさんとユノ先輩による授業を受けていた
「つまり、スキルっていうのは誰にでも現れるんだよ。でも、普通の人は〈体力増強〉とか〈料理上手〉みたいに当たり障りのないスキルを持つんだよ」
「その中で一部の人に、私とかヴィルおじ様みたいなスキルが現れるの!もちろんランマルもね」
「なるほどなるほど…」
やっぱり早く王都に行って俺のスキルを知りたい
勇者の候補とかって話もうやむやだし、モヤモヤする
その時階段の方から、ひたひたと足音が聞こえきた
「うぃーす、おはよう…ふぁぁあ…ねむ」
大きなあくびをしながら気の抜けた挨拶をする小さい女の子が階段を降りてくる
「あ!りーちゃん起きてきたよ!おはよ!」
ユノ先輩が依然として眠そうな女の子を撫で回す
よほど眠いのか、なされるがままになっている
「彼女がもう一人の店員、リルヘルム=ローゼンクロイツ。ほら、挨拶して」
ヴィルさんに促され、小さい女の子は俺の前に来る
まだ完全に目が覚めてはいないのか、寝ぼけ眼で、ユノ先輩にやられた髪はぐしゃぐしゃだ
必然的に朝のユノ先輩を思い出す
「リルヘルム=ローゼンクロイツ…お前のことはヴィルから聞いておる、…と思う、まあ、よろしくたのむ…すまぬな、寝起きは苦手なんじゃ」
見た目とあまりにミスマッチな口調がすごく気になる…
こういうのをロリババアと言うんだろうか
「魔族の中でも吸血鬼、それもローゼンクロイツ家みたいな高潔で純血の吸血鬼は寿命がとても長いんだ。リルヘルムはこんな容姿だがここにいる誰よりも年上なんだよ」
「こんな容姿とはなんじゃ、こんな容姿とは!」
腕を組み不服そうな顔をしているのだろうが、
怖さがこれっぽっちもない
「まあ、私の見た目が女児なのはわかっておる。女児に敬語を使うのは難しいだろう、お前の接しやすいように接してくれてかまわない」
「わかったよ、これからよろしくね!リルヘルム」
「…よろしくな」
少し時間が経ち、リルヘルムは身なりを整え、夜の開店のために、料理の下準備などを始めていた
「リルヘルムは血を吸うの?」
「あまり人を襲いたくないから、血は保管してそれを飲んでいるよ。生命維持のためにどうしても必要だからな」
その血はどこで手に入れているのだろうか
気になるが聞いてはいけない気がする
準備を終えたヴィルさんとユノ先輩が、リルヘルムを撫でている
「じゃあ、私達は王都に行ってくるよ。今夜中には帰ってくるから」
「ああ、任せるがよい。…頭を撫でるな!女児の見た目を認めてるだけで、子ども扱いして欲しい訳ではないからな!?」
ヴィルさんの手を素早く払いほっぺたを真っ赤にして怒る
なんか、パパと娘…いや、優しい祖父とわがままな孫みたいに見えてくる
「りーちゃんお土産買ってくるから許して」
「そんなもので釣られるほど甘くない、わかったら大人しく撫でる手を止めい!」
「けちー、減るもんじゃないし少しくらい…」
「嫌なものは嫌じゃ!!!」
すっかりそっぽを向いて怒っている
すると、手を止めたユノ先輩がわざとらしく取引にでた
「そっかーせっかくりーちゃんの大好きな高級トマトジュース買ってきてあげようと思ったのになー、なでなでさせてくれないならやめようかなー」
「くっ……卑怯じゃぞ!ぅぅぅ…」
高級トマトジュースのために、頭を差し出すリルヘルム
年上の威厳が感じられないのは俺だけだろうか…?
「ランマルとやら、今度ゆっくり話そう。酒でも飲みながらな。お前はなでなでしてこないから好きじゃ」
これから働くというのに、すでにぐったりしてしまっている
俺もリルヘルムに聞きたいことが山ほどあるが、今から王都に行かねばならないので、酒を飲み交わすのはまたの機会になりそうだ
「それじゃあ王都に向かってしゅっぱーつ!」
ユノ先輩が馬車に飛び乗ってはしゃいでいる
いつの間にか立派な馬車が用意されていたが、
こんな馬車どこから出てきたのだろうか