魔獣の森の人気店
「あぅぅぅ…おいしかった…」
ユノ先輩は落ちそうになっているほっぺたを持ち上げながら
幸せそうにしている
ヴィルさんのハニートーストはそれほどまでにおいしかった
「さて、二人とも食べ終わったところでそろそろお昼時だ、忙しくなるよ。ランマル君、頑張ってね」
その言葉通り、正午を少し過ぎた頃には店のカウンターや、テーブルはお客さんで埋まっていた
見ると、兵隊のような格好の人や、冒険者らしき人達がほとんどな気がする
「この森の奥にはダンジョンがあるし、王都の兵隊さん達はお昼休みだから、お昼ご飯を食べに来る人が多いの!ヴィルおじ様の料理は美味しいし、お昼は値段も安いからね」
「ユノちゃーん!」
「はーい!今行くからちょっと待ってて!」
さっきからユノ先輩を呼ぶ声も多く、
きっとユノ先輩が看板娘になってるのも理由の一つだと思う
ユノ先輩綺麗だし、フレンドリーだからなー
「おお!新しい店員さん?」
「はい!蘭丸といいます、よろしくお願いします!」
「マスターああ見えて怖いとこあるから気をつけなよー!」
ええ、もうそれは十分承知してます…ハハ…
「ほら、これお祝いに分けてやるよ!ガッハッハッ!」
「いいんですか!?ありがとうございます!」
豪快そうな冒険者の男はそう言うと、
袋からおもむろにキノコや果物、見たことの無い小動物をとりだした
「俺からもやろう、ほら」
「ありがとうございま…!?!?」
「なんだその反応、ああ…もしかしてリザードマンを見るのは初めてか?まさかとは思うが転生者か?」
「はい!この世界には来たばかりで…!」
リザードマンと言うだけあってトカゲのような目に、鱗のある肌、爪も尖り、口は大きい。
リザードマンの冒険者は顎を触って思案する素振りを見せるとニヤリと笑った
「なるほど、訳ありなようだな。どうだ、触ってみるか?ヒヒヒ…」
「い、いえ…」
どうやら冒険者は個性的な人(?)が多いらしい
冒険者も兵隊もいい意味で野蛮で騒がしい感じがして、
この空気すごく好きだ
1時頃には客足が1度落ち着き、
また3時のおやつの時間に、今度はマダム達が集まってきた
モンスターがいる森に店を構えているこの喫茶店に来るために、護衛までつけているようだ
そんなマダム達が優雅にお喋りをしている今は、
昼の雰囲気とは打って変わって、素敵な喫茶店の空気だ
そして2時間後…
「1日お疲れ様、明日からもこの調子でよろしくね」
「お疲れ様です!はい!よろしくお願いします!」
長いようで短い初日が終わった
「お店はだいたい5時までに一旦閉めるけど、夜は朝まで酒場になるんだよ!」
ユノ先輩が先輩らしく教えてくれるが
「え、それじゃ休みは実質ないってことじゃ…」
俺の声が聞こえていたのか、ヴィルさんが食器を拭きながら笑って答える
「大丈夫だよ、安心して、夜は別の子が店を切り盛りするから。そうか、また伝え忘れていたことがあったね、ハハハ」
もう一人店員がいるのか
俺はまだ1度もお目にかかっていないが、その子はどこにいるんだ…?
「店員さんもう一人いるんだけど、その子昼夜逆転生活をおくってるんだよね…吸血鬼だから当たり前だけどね!」
あー!なるほど!…って吸血鬼!?
「吸血鬼って…襲ってきませんか???」
「ハハハ、襲ってこないよ!まあ、普通の吸血鬼なら問答無用で襲ってくるだろうけどね」
さらっと安心できないことを付け足してくる
「多分そろそろ起きてくる時間かな、ほんとに襲ってこないから安心して」
「じゃあランマル、降りてくるまでボードゲームでもしましょ!」
「店の掃除が先だよ」
ヴィルさんにボードゲームを取り上げられたユノ先輩は
しょぼんと項垂れている