開店準備
「なんだか嵐が過ぎた後、って気分だよ。基本落ち着いてしっかり者のロイズと嵐みたいなルナはバランスがとれてるのかもしれないね」
ふぅ、と息をついてヴィルさんがそう言った
俺もちょうどそう思っていたところだ
どうやらユノさんも同意見らしい
「あの2人いっつも楽しそうで、見てて飽きないの!...あ!」
ユノさんがなにか思い出したように声を上げ、
急に体を回転させて俺を見た
あまりに目を合わせられるので、仰け反ってしまう
「なんですか?」
「なんですか?じゃないよ!これからどうしようねーって話!ヴィルおじ様、私いい考えがあるんだけど…」
そう言って今度はヴィルさんの方を向く
「うん、多分私と同じ考えだよ。ゴホン、あー、ランマル君。」
「は、はい!」
「ここ、“オウガの胃袋”で働かないかい?住み込みで」
「!?是非お願いします!」
「ヴィルおじ様~!これで若い男手が手に入ったね!ようこそオウガの胃袋へ!」
「ようこそ、って何を言ってるんだユノ、私はまだまだ現役だ」
「でもこの前、重い荷物運んだときに腰がどうのこうのって...」
「…あのね、私も小さい頃、ヴィルおじ様に拾われたんだ」
ユノさんがずっと深く頭を下げてた俺の顔を
のぞき込んできた
「私、暗い話は嫌だから色々省略するけど、きっと今のランマルの立場って、昔の私と少し似てるの!帰る場所が無くて、これからどうすればいいかわからない。ヴィルおじ様はそこに現れた光だったんだ」
まさしくその通りだ
いきなり死んで、転生して、ルナ達が来て忘れていたけど
俺は行き先が見えない暗闇の中だった
「ヴィルおじ様こそ、勇者なの」
「そうですね、まるで勇者みたいです!」
「うーん…」
ユノさんの反応がおかしい、何か変なことを言っただろうか
さっきまでのいい雰囲気がどこかへ消えてしまった
おーい!いい雰囲気もどってこーい!
「あのね、『まるで勇者みたい』じゃなくて、ヴィルおじ様は本当に勇者なの」
「ハハ、もう昔の話だ、勇者は引退したんだよ」
昔はヤンチャしてた、みたいなノリであしらいながら
ヴィルさんは窓を開けてる
「ヴィルさんって勇者だったんですか!?!?あ、でも勇者について何も知らないや」
「響きがカッコイイからね、勇者って。男の子は憧れるよ」
そういうことなんですか…?ヴィルさん…
いや、どういうことだ?
「そうだなぁ…まだ開店まで時間があるし、ちゃちゃっとこの世界の勉強でもするかい?ユノ、裏に黒板があったはずだから持ってきて」
「りょーかい!お礼にあとでクッキー焼いてね!」
「まったく、わかったよ」
「まいどありー!」
ウィンクしながら軽やかなステップで黒板を取りに行った
「メガネと指す棒はいらなかったんだが…」
「あった方が先生っぽいかなって!それじゃあよろしくお願いしまーす!」
「ユノは開店準備をしなさい」
「ぶー…ヴィルおじ様のけち…」
そう言いつつもテーブルや窓を拭き始める
あ、ヴィルさんそれちゃんと付けるんですね
「それでは、授業を始めます。起立!」
何故かノリノリなヴィルさんの授業が今始まる