物語の始まり
…
……
ん、ん…
いい朝だ
窓から差し込む朝日が目元をくすぐる。
普段他人の家やホテルのベッドではよく眠れないのだが、
コーヒーの匂いがするこのベッドでは安眠出来たようだった。
昨日負った傷もだいぶ癒えている
コンコンとノックする音が聞こえた。
「おはよう、君。よく眠れたかい?」
渋い声で優しく声をかけられる。
部屋に入ってきた男は、背が高く、暗い赤色の髪と髭がよく整えられていた
「はい!おかげさまで、き、昨日はありがとうございました」
「いいんだよ、ただのおじさんのお節介だからさ」
そう言いながら、右手に持っていたコーヒーを手渡す。
とても深く濃縮された香りだ。
「飲んで落ち着くといい、目も覚めるし、落ち着いたら朝食にしよう」
「好みが分からなかったからミルクと砂糖は入れなかったが飲めたかね?」
「はい!美味しかったです!」
「それでは、朝食にしようか。ユノ!いつまでも寝てるな、朝食だぞ」
ユノ??
誰だ、俺の名前ではない。
するとリビングのソファの影から、心底だるそうに手が伸びた。
続いて足が伸びる。
「もう、そんな時間なの…?もう少し寝ていたいんだけど…ふぁあ...」
眠そうではあるがよく通る女性の声だ。
「すまないね、君。彼女はどうも朝が苦手らしい」
男の言葉に女性は飛び上がる。
「まって、誰かお客さんいたの!?言ってよヴィルおじ様!!あぁぁぁ…死にたい…」
明るい金色の髪をわしゃわしゃして悶えている。
「あ、あの!お邪魔してます!すみません、女性の方がいるとは知らず...み、見てません!!」
慌ててまくし立てるように放った言葉に、間が開く。
やらかしたか…恥ずかしい…
「んんっ、あー、いいのいいの!気にしないで、…ていうか忘れて?」
「ユノ、まずは名乗りなさい。いや、その前に顔を洗って髪を整えて服を着替えてきなさい。この子が可哀想だから」
ユノ、と呼ばれた女性は
乱れてはいるが綺麗な色の髪と目。
誰がどう見ても美人だと思う容姿をしている。
その顔に見とれ、彼女の服装に気づくのには時間がかかった。
「あ、ああ、あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
耳まで真っ赤にして、
すぐに毛布で下着を隠し、走り去って行った。
「な、あ、あぁぁ...バタッ...」
「おっと、大丈夫かい!?しっかりしなさい!あ、頭から煙が!」
あまりの衝撃的光景に頭がパンクしてしまった。
あまりにも無防備な格好の攻撃力は高く、
スタイルの良さを兼ね備えたそれは、まさしく鬼に金棒で、
免疫がない俺には効果抜群だった...
「…ごめんね、落ち着きを無くしてた、予想外のことが起きすぎて…」
まだほんのり顔を赤くしながら、女性が続ける。
「私はユノ、ユノノ=ヘルハット。ここに住み込みで働いて、ます」
「ユノにしては上出来だ、でもこれから敬語の練習はしようか」
「なぁっ?!」
「私の名乗りがまだだったね、私はヴィルケン。気軽にヴィルとでも呼んでくれ」
「私はヴィルおじ様ってよんで、ます!...うへぇ、やっぱり敬語って苦手」
「俺は、長月蘭丸っていいます!信じてもらえるかわからないけど、俺、別の世界から来たっぽいんです」
2人が目を輝かせて俺を見てきた
「もちろんその話詳しく聞かせてくれるよね」
「は、はい!」