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エロ魔導師は我が道を往く  作者: しょー
第一章『その名は──』
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1ー4『決意と熱意』


 エーロッツォとパルフェ、それとリスティの三人は、捕縛した盗賊達をサレンの街まで連れていき、そこに在中する衛兵へと引き渡す事とした。

 とはいえ時刻は既に深夜、歩き詰めで戦闘までこなしているリスティの体力面や、まだ肉体的には成長しきっていないパルフェに配慮が必要だろうと判断。

 森の中で野宿をして、日が昇ってから改めて街へ向かうという話になった。


「……それは良いんだけど、これなに?」


野外宿泊(ビバーク)用の折り畳み式(フォールディング)愛の巣コテージです」


「ふぉ、ふぉーるでぃ……? えと、なにそれ」


 リスティが指差す場所には、サレンから向かって来た時には見当たらなかった筈の長方形の立方体の何かが鎮座していた。

 何か、というか家だった。ちょっとした農村の一家庭ぐらいなら余裕で住めそうな大きさの材質不明な箱がそこにあったのだ。


「簡単に言えば寝る場所です、中にはベッドとかも用意しているので地面の上で寝るよりは大分マシですよ」


「マシっていうか暫く住むのにも困らなさそうだけど……って、そうじゃなくてこんなのいつの間に建てたの!?」


「建ててはないです、取り出して組み立てて置いただけなので」


「もっと意味が分からなくなった!」


「まあまあ、細かい事は気にせずに」


「細かくなくない!? 意味分からな過ぎて怖いんだけど!」


 いくら魔法という存在が世界にあれど、何も無かった場所にいきなり家とも呼べる物体を出現させるのは非常識で理解の範疇を越えるものである。

 リスティからすれば、エーロッツォがする行動は魔法かどうかすら疑わしい、未知の存在なので余計に混乱を誘うのだ。


「にいさまは魔導師。でも普通じゃないのは見ての通り」


 エーロッツォとリスティが妙な押し問答をしている所を黙って見ていたパルフェがリスティの疑問に対して端的に答える。

 ただ、かなりぶっきらぼうな言い方な上に何の説明にもなっていないが。


「……普通じゃないのは分かるわ、やることなすこと全部見たことも聞いた事も無いしさ、一体なんなのこの人は」


「エロ魔導師です」


「それは聞いたわよ! その……ぇ、エロ魔導師って存在が何なのか聞いてるんでしょ!?」


 確かに助けられた身分ではあるものの、得体の知れない奴とそのまま居るというのは、やはり警戒心を掻き立てる。


「……悪いけど、訳分かんない奴と一晩一緒っていうのはあたしとしては遠慮したいの、多少でも良いから信用出来そうな事って無いわけ?」


 リスティは失礼を承知で、ある程度は理解と納得が出来る情報が欲しかった。

 寝床まで用意して貰えるのは確かにありがたいのだが、リスティからすればそこまでされる理由も無いし、はっきり言って実力面で自分の方が不利だと確信出来る未知の技を使う奴というだけで不振に思っても仕方がない筈だ。


「えーと、初めて会った時にも言ったと思いますけど、僕の扱う魔法というのは少々特殊でして」


「……それは見たら分かるけど」


異端魔法アブノーマル・スペルという特殊な分類に属する系統の魔法なのですけど、まあ、恐らく使い手は僕ひとり。つまり世界で唯一の固有属性ユニーク・マジックと言えば良いでしょうか?」


「あぶのーまる……ゆにーく……? ええと、なにそれ?」


「リスティさんは剣士ですし、専門的な知識は恐らく知らないと思うので簡単に言いますと、男女の営みのあれやこれ、つまり睦事に特化した、エロい事を専門とした魔法ですかね」


「何度聞いても淫魔術との違いがわからない説明……」


「失礼なっ!! あんな女の子に酷い事をする事に特化した魔法と一緒にしないで欲しいんだけどなパルフェ! まあ、ちょっといや大分かなりノウハウは参考にしているのが!!」


「……は、はあ、そ、そうなの……」


 簡単な魔法の説明、それについてのパルフェの呟きに憤慨しつつもエーロッツォはリスティの疑問を取り払う為に言葉を放つ。

 が、説明した結果、得られた成果は数歩分後ずさり余計に警戒心を高めるリスティの態度だった。


「困ったな、可能な限り真摯に対応したと思ったけど警戒されてしまった……」


 そんなリスティの様子に、エーロッツォは困ったような表情で両手を上げて危害を加えるつもりは無い事をアピールするも、リスティからすれば、淫魔が扱うとされる術の類似する魔法ですとか説明されれば、距離をとって当たり前だった。


「にいさま、いつもの事、諦めて」


「それはそうなんだけどね、僕としてはあくまでも女性の味方て在ることが使命な訳で」


「……というか、その女の味方? その言い種がまず胡散臭い!」


「ええ、そんなー」


 ビシッと人差し指を突き付けつつリスティがエーロッツォに言うと、言われたエーロッツォは困った表情をさらに曇らせてショックを受けていた。


「助けて貰った身分でこんな事言ってるのはダメって重々承知で言ってるんだけどさ、あたしを助けてアンタ達に何か利益になることでもあるわけ? 言っとくけど、あたしはお金なんか持ってないからね!」


 世の中そんなに甘く無い。魔物に盗賊がうようよと徘徊し、力もお金も無い奴はあっさり死んでしまうのがこの世界だ。

 リスティだって、先程エーロッツォ達に助けられなければ盗賊共に殺されていたか、慰み者にされてから奴隷として売られたりしていたかもしれない。

 自分の判断が間違っていた。今ここに居るのは、ただ運良く目の前の妙ちきりんな二人組が自分の後をつけていたからに過ぎない。


 そこに自分を助けた場合に得られるだろう何かがある。そう思うのが自然だろう。

 それが、単純にお金なのか、それとも他の何かなのかは知らないが。

 ただ、リスティはここまでの流れで要求されそうな事は容易に想像出来ているのだが、それを自分の口から言うつもりは毛頭無い。


 正直、それを要求されるのが一番納得行くし、実際に求められたら断る術がないのが実情なのだが。

 そこまで拘りがあるわけでも無いし、盗賊共よりかは幾分マシではあるが、こんな情緒もへったくれも無い場所と展開で経験するのは出来れば勘弁して欲しい。

 と、リスティは内心来ると確信している予想をビビりながらも必死に考えないようにしつつ、エーロッツォの返答を待っていた。

 彼女はわりと乙女思考だった。


「助けた理由ですか?」


「そ、そそうよ、何が目的で、あたしみたいな駆け出し冒険者をつけてたのか、まさか、女の味方だからとかさっきから言ってる馬鹿みたいな理由でそんな事したわけ? そんな訳ないでしょ!」


 助けて貰って感謝はしているし、自分の浅はかさを後悔できる事も幸運だと思う。

 だが、リスティはそれがよく分からない善意から助けられたと思うほど呆けたつもりはない。全力で確信している予想にシカト決めているが。


 そうは言っても、無理難題でも無ければ代価は払うべきだとも思っているが。

 その辺り、そのまま逃げようとしない分リスティもお人好しの部類に入るし損な性格をしているとも言える。

 ぶっちゃけ逃げたい気分だが良心が邪魔をして逃げられないとも言える。まあ、逃げた所であっさり捕まるんじゃないかとも思っていたが。


「……助けた理由に嘘偽りは無いのですけど、納得はしてくれませんか、やっぱり」


「す、するわけないでしょ! な、何かしたいならはっきり要求しなさいよ!!」


 話を続けるにつれてリスティの言動がヤケクソ気味になっていってる。

 あれ専門に特化したという魔法であーだこーだとされるならせめてひと思いにさっと済ませろ! とかそんな心境なのかも知れない。


「本当なんですけどね、ううん、どうしたものか……」


 一方、述べた理由を全否定されたエーロッツォもこれ以上説明のしようが無いと、頭を抱えて悩み始める始末だった。


 唸りながら長考するエーロッツォ。返答をおっかなびっくり待っているリスティ。


 お互いに無言のまま暫く時間が過ぎて、痺れを切らしたらしいリスティが、恐る恐るエーロッツォへの問いを再開し始めた。


「…………ホントに只のお人好しなわけ? これだけあたしが問い詰めてるのになんで何にも言わないのアンタ、何かしら要求されるって身構えてたんだけど」


「要求ですか……うーん、まあ、その……」


「な、なによ、やっぱり何かあるの?」


「いや、まあ……」


 何も無いのか、そう当たり障りのない聞き方で問えば、エーロッツォは歯切れの悪そうな表情で、何かを言おうか、言わないか悩んで、葛藤の末に両手と両膝を地面に付け、リスティに跪くような体勢をとった。


「リスティさん」


「へっ、な、なに?」


 エーロッツォの突然の行動に、目を白黒させるリスティだったが、その内心は穏やかじゃなかった。

 遂に要求されるのか、どんな事されるのかやっぱり痛いのかとかそんな事をぐるぐる考えている内に、エーロッツォは更に額まで地面にくっ付け、リスティへの要求を口にする。



「恋人としてお付き合いして貰えませんか、なんでもしますから」


 それは、ビシッと決まった完璧な土下座だった。

 そして、決意と熱意に満ちた言葉だった。


 それを目の当たりにしたリスティは。



「えっむり……」


「…………」


 ものすごくナチュラルにその決意と熱意を拒絶した。


「……ふぐぅ……」


「……いや、泣くほどショックなの!?」


 拒否られたエーロッツォは、そのまま暫く、土下座の体勢のまま小刻みに震えていた。


「気にしない、にいさまはこれが日常茶飯事」


「……えぇ」


 困惑するリスティだったが、二人から離れて焚き火をしつつ傍観していたパルフェにそう言われてリスティは、この土下泣きする変な男をなんとも言えない微妙な顔で見下ろした。



※設定解説


折り畳み式フォールティング愛の巣コテージ


 エロ謹製の分割折り畳み式の宿泊設備。軽量で非力な女性にも組み立て可能。

 形状は現代社会におけるコンテナハウスに類似した形と居住性を持っており、ある程度の期間拠点として用いるのにも適している。

 エロ曰く「外はイヤ、恥ずかしい。って言われた時にも即応出来てこそ男の甲斐性、そうは思いませんか?」との事である。

 尚、このアイテム事態はエロの魔法によって製作した物では無く、パズル感覚で自身で設計、製作した物で特殊な素材等は不使用である。ただし、防御力向上の為に設置毎に特殊な結界を発動させる為、寝ている時に襲撃されてもある程度は防げる。

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