第6話
昼休み。
「天川さん、お弁当一緒に食べよ~!」
「うん、いいよ♪」
天川は女子達に誘われ、輪の中に入っていった。とりあえず、昼休みは平和な時間を送れそうだ。
ほっと安堵の息を吐きながら弁当を鞄から取り出すと、双葉がトコトコとこちらにやってきた。
「日野君、ちょっといい?」
「ん?双葉かどうした?弁当のおかずならやらんぞ」
「ち、違うよ!いつももらってるみたいな言い方しないでよ!もう……」
「悪い悪い。じゃあ何だ?」
「え?た、たまには一緒にお昼食べよっかなって思って……」
「……あ、ああ」
ど、どうした?何があった?い、い、いきなり一緒にお昼とか……いや、待て落ち着け。まだお昼に誘われただけじゃないか。ここで落ち着きを失っては幸福の青い鳥もどっかへ飛んで行ってしまう。
ここは普段通りに……
「別にいいですよ」
「何で敬語?」
「おう、俺も一緒にいいか?」
雪平が弁当箱を片手に俺の隣に座る。SHIT!いやいや、そんな心の狭い反応をしてはいけないな。心を広く持つんだ。
「座りな。マイベストフレンド」
「ど、どうした?新学期になったから、キャラ変更でもするのか?」
「いや、前からこんなだったよ?」
「そ、そうか……」
苦笑いしながら着席する雪平に爽やかな笑みを向け、前の席を借り、机をくっつけてくる双葉を見ていると、不意に視線を感じた。
慌てて辺りを見回すと、女子の集団に混じった天川が、こちらをじぃっと見ていた。やけにニヤニヤしながら。
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食事中、天川が話しかけてくることはなかった。
しかし、昼休み終了のチャイムと共に、席に戻ってきて、ニヤァッと妖艶な笑みを向けてきた。
「な、何だよ……」
「そっかぁ……あの子と仲がいいんだね。もしかして、実は付き合ってるとか?」
「バ、バカ!違うっての!そんなんじゃ……うおっ!」
天川はいきなり距離を詰め、俺の瞳を覗き込んできた。
その何かを読み取ろうとする深い瞳に俺は何も言えなくなり、鼻先にかかる甘い吐息に脳が痺れた。
そして、奴は一人で何かに納得したように頷いた。
「ふむふむ。まあ、好みといえば好みだけど、積極的に追いかけるほど好きというわけじゃなく、まあ向こうからアプローチしてきたら応えようっていうぐらいか」
「なっ!?」
心を読まれた!?じゃなくて、何言ってんだコイツ!!いや、本当にそんなこと考えてないからね?本当だよ?
俺は心の中で必死に言い訳しながら……する必要はないんだけれど……天川の頭に強めのチョップをかます。
「いたっ!痛いよぅ、日野くぅん……」
「いやいや、可愛こぶってんじゃねえよ……お前、男だろ……」
「ふんっ、日野君のバーカ。童貞。ムッツリ」
「てめっ、言ってはならんことを!!」
立ち上がり、無理矢理黙らせようとしたら、天川はそれまでの無邪気な表情から、狩りをする肉食獣のような鋭い表情になった。
そして、瞬時に俺の襟を掴み、脚を払い…………仰向けに倒れた。
「きゃっ」
「っ!!」
わざとらしく可愛い悲鳴を上げて倒れた天川は、強引に俺の体を自分の上に被せた。不思議と痛みはなかった。
しかし、ガタンッと大きな音が響き、教室内がしんと静まり返る。
そして、誰かが駆け寄ってくるのが聞こえた。
「二人共、大丈夫!?……あ」
「お、おい、日野……」
「え?…………え?」
「日野……君」
周りの声に反応し、現状を確認すると、俺は天川を押し倒しているようにしか見えず、俺の手は天川の薄い胸の上に置かれていた。