表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

第3話

「お、お兄ちゃんに、彼女ができた……」

「ち、違う!」

「アハッ♪」


 天川は遙香に笑顔を向けた。だからアハッ♪じゃねえよ。

 その笑顔を見た遙香は頬を朱に染め、一人で何度も首肯した後、やたら爽やかな笑顔を見せた。


「お兄ちゃん、お幸せに!」


 そう言い残し、バタンッと勢いよくドアを閉める。

 室内には、何だか靄がかかったような気怠い沈黙が訪れ、俺は閉じたドアを見つめたまま固まっていた。


「はむっ」

「ひいっ!?」


 み、耳!!耳噛まれた!!

 全力で飛び退くと、天川は舌をチロリと出して、唇を舐めた。


「ごちそうさま♪」

「なっ……お前、また……」

「さっ、はやく着替えて、朝御飯食べて学校へ行こう!」


 天川はベッドから立ち上がり、スカートを整える。

 そして、俺の傍を通り抜ける際に、ぽそっと呟いた。


「それとも、手伝って欲しい?」

「~~~~!」


 俺が怒りのあまり口をぱくさせ、何か言葉を紡ごうとしていると、天川はするりと部屋を出て行った。

 部屋には、奴の甘ったるい香りだけが残っていた。

 そして、準備を終え、外に出ると、案の定門の前で待っていた。


 *******


 なんかもう追い払うのも面倒くさいので、とりあえず一緒に登校することにした。朝から無駄なことに労力を割きたくはないし、どうせ行き先は一緒だし。

 ふと見上げた空は雲一つない晴天で、俺の沈鬱な心情とは対称的に思える。

 そのことがやりきれなくて、つい独りごちる。


「はあ……何て朝だ」

「あはは!妹ちゃん、完全に誤解してたね~」

「うるせえよ!お前のせいだよ!……あれ?つーか、お前何で俺の家知ってるんだ?」

「だって表札に日野って書いてあったよ?」

「いや、そんなの理由にならないだろ。日野なんて大して珍しい名字でもないし」

「まあまあ、それよか手でも繋ぐ?」

「繋がない」


 かなり強引にはぐらかされた。

 そして、くだらない言い争い、というか俺が一人で怒っていると、後方から誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえた。

 振り向くと、見慣れた笑顔がそこにある。

 彼女は俺達に向け、軽く手を挙げた。 


「二人共、おはよう!」

「おう、双葉」

「おはよ!」


 俺に続き、初対面のはずの天川も親しげに応じた。

 彼女は、去年から引き続きクラスメートの双葉やよいだ。高校に進学する際にこの街に、というか、家の近くに引っ越してきたので、そこそこ親交がある。

 ポニーテールにした長い黒髪と、起伏の大きなボディラインが特徴で、男子からも高い人気を誇る、クラスの中心人物だ。

 双葉はポニーテールを揺らしながら俺と天川を見比べ、数秒間首を傾げて黙考し、また笑顔を見せた。


「へ~、お二人はもうすっかり仲良しさんなんだね~!」


 その言葉に天川は嬉しそうに反応した。


「アハッ♪わかる?」

「いや、全然違う。頼むから止めてくれ」


 俺と天川の真逆のリアクションを見た双葉は、首を傾げた後、そのまま天川に話しかけた。


「あの、天川君、いや、天川さん?なんか昨日はごめんね?あの……何て話しかければいいかわからなくて……」

「いいよいいよ♪あんな自己紹介したら誰だって話しかけづらいに決まってるし!あと、君でもさんでも、好きな方で呼んでいいよ!」


 ペコリと頭を下げる双葉に、天川はひらひら手を振り、本当に気にしてなさそうな笑顔を向ける。

 どうやら心はそれなりに広いようだ。

 ほんの少しだけ関心していると、天川は双葉の正面に立ち、笑みを深め、口を開いた。


「ねえねえ、いきなりなんだけど……二人は付き合ってるの?」

「は!?」

「え?」


 何だ、コイツ……またわけのわからん爆弾を投下しやがって……。

 双葉はキョトンとしていたが、次第に顔が赤くなり、ぶんぶん首を振った。


「ち、違うよ!違う違う!私は日野君とはそんな関係じゃ……!」

「…………」


 当たり前のリアクションではあるが、思春期真っ盛りの男子高校生のハートには、決して小さくないダメージを与えられた。いや、別にいいんだけどね?わかってるから。

 それより天川の奴、今度は何を考えてるんだ……。


「おい、天川……」

「そっかぁ、付き合ってないんだ?よかった♪」

「「?」」


 俺と双葉が首を傾げていると、天川が俺の肩に触れた。

 そして、耳元にその艶やかな唇を寄せてきた。


「これで心おきなくキミにアプローチできるね♪」


 耳朶を撫でてきた言葉は、甘く優しく脳髄を刺激した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ