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PHASE.4

「近所から通報あったから来たが、お前らか…」

 駆けつけたダド・フレンジーは本っ当に呆れた顔をしていた。今回色々あったが、スペシャル版だと思って許してほしい。

「ヤマタはどうした?」

「逃げた」

 真上に、気球が浮かんでいる。この高度じゃ、追うのは無理だ。ヤマタは怪盗の定番、アドバルーンでまんまと逃げていったのだ。

「バッハハーイ、スクワーロウ、スーナコちゃん!あーとは頼んだぜー!来年の夏にはまーた、呼んでくれよなあー」

「うるさい!さっさと行け!」

「まんまとやられましたな」

「ほぼあんたのせいでな」

 装甲車から救出されたゼニカタがいつの間にか、割って入って来る。こいつまた何か、くだらないことを言うつもりだな。

「スクワーロウさん、スナコさん、奴はあなたたちの大切なものを盗んでいきました。それはあなたたちの心…って、あれえ!?」

 ゼニカタの手にばっちりはまっている。ダド・フレンジーが手錠をかけていた。

「本官は、皆さんと同じ公務員ですぞっ!?」

「公務員でも、犯罪は犯罪だ。車両盗難に公務執行妨害及び道路交通法違反、建造物侵入の容疑で逮捕だ」

「待ってえっ、せめて上司に報告を!ほ、本官には弁護士を呼ぶ権利があるうっ」

「うるさいっ、とっととこいつを連れてけ!」

 ゼニカタはやっぱり逮捕された。まあ、当たり前だあれだけやれば。

「これで一件落着だな。ヤマタたちは後で非常警戒を張っとくが…他に何かあるか?」

「あ、そうだ。アーゲル氏の店を家宅捜索してくれ。秘密資金の行方が」

 私はさっき、ヤマタと話していた一件を話した。現金輸送車の件も含めて、これは放置しておくわけにはいかない。だがダドはすでに焦っていなかった。

「匿名の通報があったんだ。郵送でアーゲル氏が、ヴォルペ・ロッソの犯罪で得た資金をロンダリングしていた証拠が、フラッシュメモリにたっぷりとな」

 ヤマタの仕業だ。あいつ、ハードボイルドを分かってやがる。だが、今回は感謝すべきかも知れない。はた迷惑なやつだったが、リス・ベガスの巨悪は紛れもなく、このヤマタ三世とスナコさんたちのお陰で、撲滅することが出来たのだ。


「また、世話になったなスクワーロウ。協力に感謝する。お陰でレシピを取り戻すことが出来た」

 私たちは、さっきの地中海レストランのお店へ戻ってきた。ここで食事をするのかと思ったが、この時間、この店ではこの船の模型を動かして、汽笛を鳴らすらしい。帰るのは普通に、空港から帰るんだよな。

「ところで別れる前に興味で聞くんだがミズ・スナコ、レシピにはどんな秘伝が書いてあったんだい?」

 ばっ、とスナコさんは、惜しげもなく巻物を披歴する。なんと中身はたった一筆、金釘流の筆で『料理は愛情』の堂々たる()である。

「呆れるほど基本ですね…」

「だが基本であり、それが最上のこと」

 と、言ったのはスナ彦だ。

「金でそれを手に入れようとした時点で、アーゲル氏は職人として間違っていた。出所したらぜひ日本に来て職人魂に触れてくれとの、玉藻氏の伝言だ」

「夢は自ら掴むもの。そしてさらに高めるもの。そうだろう、スクワーロウ、クレアさん」

 兄君とスナコさんと、私は再び硬い握手をかわした。色あせぬ友情の証は、リス・ベガスの陽の中で、きらきら輝いてみえた。

「あの、そろそろ空港行きのタクシーが…」

「船は無いのか」

「リス・ベガスに海は無いんだ」

 西海岸だけど、内陸なのである。汽笛が終わると、私は用意してきたケースから、トランペットを取り出した。

「スクワーロウさん、吹けたんですか?」

「警官時代にちょっとね。…せめて、別れのファンファーレを」

 頬袋を膨らませて、私は吹いた。くるくると音階が滑っていき、ベガスの乾いた風に消えていく。帰るべきものが、帰るべき場所に。物語はいつもこうして終わっていくのだ。それでもリス・ベガスはいつでも、あなたたちを歓迎する。別れはまた次の始まり。私たちの間に産まれた友情とともに、物語はこれからも紡がれていくのだ。


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