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鬼退治 ONITAIZI  作者: 望月 もちお
3/4

第二角 怒りと拳とその相殺

 

 霞んだ景色の中に一人の男性が見える。

 「起きろ。黒。」

 その男は、坂田忍だった。

 「おれは・・・なんで・・・」

 黒鬼丸は陰陽師の屋敷内で目が覚めた。忍は落ち着いていて、黒鬼丸が寝転んでいる蒲団の横に座っていた。

 「すごいひどかったよ。黒の家。跡形もなくてさ。」

 「おれ、暴れたんだ・・・。兄ちゃんは?」

 「行方をくらました。三人ともね。」

 「まだ気持ちの整理がつかないんだ。でも探しにいかなきゃ。」

 黒鬼丸が上体を起こした。

 「殺しにいくの?」

 忍は落ち着いて黒鬼丸に尋ねた。

 「わからない。会ってなにするかは決めてない。」

 「やめときなよ。今は陰陽師も黒のお兄さんたちを探してる。いままで安全だとされていた酒吞一家が行方をくらましたとなれば、安全かどうかもわからないからね。」

 少し無言の時間が続いた。

 「おれを陰陽師にいれてくれないか?」

 黒鬼丸は真剣な表情で忍に言った。忍は目を丸くした。

 「まじで言ってる?」

 「おれはもう行くところもない。だからここに身をおいて兄ちゃんたちを探す。」

 「僕はいいけどね。真酉がどういうだろうね。まあいいよ。」

 忍は黒鬼丸を陰陽師に入れることを承諾した。その日、忍は他の陰陽師たちに違和感を感じさせないようにすぐに歓迎会を開いた。他の陰陽師たちは黒鬼丸をこころよく歓迎した。黒鬼丸は、人間の名前を付けられ「黒木信二」と呼ばれていた。しかし、歓迎会に集まった陰陽師の中にはその「黒木信二」を人間ではないと勘づく者がちらほらいた。その中でもひときわ疑心の目を光らせていたものが二人いた。

 「おい、忍。あんな者をいれてどうするつもりだ。」

 「卜部のおっちゃん。」

 一人は卜部全吉うらべぜんきち。卜部朱音の父にあたり、次の棟梁となる可能性が高い男である。

 「まあ、忍に何か考えがあるんなら、おれは何も干渉はしない。」

 全吉はそう言って去っていった。しかし、二人目が忍に近づく。

 「おい!忍!あんなもんいれて何を企んでいやがる。」

 そう言ったのは碓井真酉うすいまとり

 「企んでないよ。真酉、理解できないかもしれないが、僕はあの子の本気の目を見たんだよ。」

 「ああ。理解できない。おれは本気の目なんて信じない。それも相手が妖怪であればもっと別だ。」

 「まあ。無理ないよね。僕たちにとって敵なんだから。」

 「棟梁が認めるかな。棟梁が目を覚ましたころに妖怪が陰陽師の仲間になったと聞いたらどうなる。」

 「そんな冗談、僕は言えないよ。源頼明みなもとのよりあき様は癌に体を侵されているのに失礼すぎるね。」

 真酉は、少し口角を上げた後また戻し黒鬼丸の方へ歩いていった。

 「強引だ・・・」

 忍は小さく呟き、頭をかかえた。

 近づいてくる真酉に黒鬼丸は気づいた。ただならぬオーラ、パワーがだんだんと自分に近づいているという危機感が黒鬼丸を硬直させた。

 「こ・・・こんばんは・・・」

 黒鬼丸は震えながら言った。話していた他の陰陽師が黒鬼丸から離れていった。

 「おれは、碓井真酉だ。庭に出ろ。黒木君。」

 「はい・・・」(この人が真酉。強面・・・)

 「安心しろ。話を聞くだけだ。」

 真酉は黒鬼丸と肩を組んで庭に向かった。それを見ていた忍を含む陰陽師たちもこっそりと着いていった。

 「なんだ真酉さん、黒木をどうするつもりだ。」

 「通過儀礼みたいなものだろう。」

 陰陽師たちがざわざわしだした。それに気づき、真酉は話を切り出した。

 「おい、黒木。お前———————」

 (まずい)

 忍はそう思った。周りの空気や黒鬼丸が緊迫した。

 「鬼だろ。」

 緊迫はさらに緊迫を呼んだ。

 「い、いえ—————」

 黒鬼丸が言い切る前に真酉は全身全霊の拳をぶつけた。鈍い音と風圧が庭に響いた。黒鬼丸は後ろに飛んでいき塀を突き破った。

 「いまここでお前を倒す。滅する。お前、酒吞一家のものだろう。」

 真酉が煙が巻き上がる塀の向こうにいる黒鬼丸に向かって叫んだ。

 「ほう・・・」

 真酉や陰陽師たち、忍は驚いた。煙が消え、見えた黒鬼丸は立ち、頬は鎖がまとわりついていた。

 「やるね。あの子。真酉の拳を防ぐなんて。」

 忍の隣で様子を見ていた朱音が感心して、身を乗り出した。

 「鎖を生み出し使えるのか。2000年の事件で滅びた梁塵一家のような能力を使うんだな。」

 「おれは梁塵一家だからな。」

 黒鬼丸はそう叫んで真酉に向かって走り出した。黒鬼丸は自分の拳に鎖を巻き付けた。

 「本気を出せってか。」

 真酉はにやついた。真酉が拳を振り上げた。その瞬間、見ていた陰陽師たちは、(黒木が死ぬ)と確信した。

 「式神、へき塗壁ぬりかべ。」

 黒鬼丸と真酉の間に大きな壁が立ちはだかった。二人の拳はその壁により相殺された。

 「忍の式神・・・」

 忍が塗壁を消し、皆が様子を見ていた縁側から庭に降りてきた。

 「そんなに認めたくないのなら。僕が黒を式神として取り入れるよ。」

 「鬼を式神にだと?いくら式神を55持つ忍でも藤原の家系でなにものがどんな代償が出るか。」

 「それを覚悟で言ってるんだよ。」

 忍は真酉を睨んだ。

 「お前、そんなに本気・・・」

 「黒、その覚悟があるか?」

 「忍の式神になるって?自由がなくなるわけか。」

 「そんなことじゃ無い。失敗して共倒れの可能性もあるって言ってるんだよ。」

 黒鬼丸は庭の地面を見て少し考えた。

 「忍さんが鬼を式神にするのか。」

 陰陽師たちがざわざわしはじめる。

 「だまれ!」

 忍は声を荒げた。忍の前例の無い大声に周辺は緊迫した。

 「坂田忍。黒煙。鎖。まなこ。それらすべてが私の指となれ。梁塵黒鬼丸。式神封しきがみふう。」

 忍は黒鬼丸に角の生えた人型の紙を向けて叫んだ。黒鬼丸の周りに光が円になり囲んだ。光が消えた先には、黒鬼丸はいなかった。

 「封じた・・・」

 「忍が封じた。鬼を・・・」

 真酉を含め、陰陽師一同、驚愕が隠せなかった。

 「忍・・・手・・・」

 朱音が忍に向かって走り寄り添った。忍の右腕は赤く焼け焦げていた。

 

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