プロローグ 陰陽師
二〇〇六年、源頼光らに退治されたと伝わる土蜘蛛が京都で発見される。その事態に妖怪退治のスペシャリストである陰陽師が総動員された。その時の総動員の中には、若手陰陽師たちも含まれていた。
夜の森の中を三人の陰陽師が走っていた。
「土蜘蛛が生きてたなんてね。」
一人の陰陽師が震えながら言った。
「今回は取り逃がさず殺すだけだよ。古武威、それは武者震い?」
もう一人の落ち着いた表情の陰陽師が言った。それに対して強面のもう一人の陰陽師が口を開く。
「忍。お前、坂田家だけの手柄にするんじゃないんだろうな。」
「そんなわけないじゃん。そんなことしたらこの作戦の結界担当の卜部家に申し訳ないよ。」
「それもそうだな。」
三人は走り続けた。この時、出動した陰陽師の中で直接土蜘蛛を倒した者は満十六歳の三人。坂田家の忍、碓井家の真酉、渡辺家の古武威である。また、結界班で活躍したのも満16歳の天才、卜部家の朱音であった。この若手陰陽師は、この事件で陰陽師界隈と警察界隈で名を轟かせた。そして、日本の刑事部に捜査第四課として妖怪関係に関する課が増設された。
そして時は過ぎて、十年後に移り変わる。京都の陰陽師の屋敷内でお茶を飲みながら忍と朱音は話していた。
「十六歳の陰陽師が活躍した土蜘蛛退治から十年も経ったんだね。」
「あの時は若かったのに、もう真酉も結婚しちゃったしね。真酉に先越されるなんて意味わかんない。」
数分か二人は黙り込んだ。また、朱音は口を開く。
「忍。最近妖怪退治した?」
「してない。」
「こんなに妖怪が出てこないのおかしくない?」
「警察からもなんの案件もないんだから仕方ないだろう。でも、妖怪案件が激減した理由は知ってる。」
「なに?」
朱音は忍に詰め寄る。
「鬼だよ。」
「鬼も妖怪の仲間だよね。そんなの嘘でしょ。」
「ほんと。」
そう言って忍はお茶を啜った。