お姉様
「まず、この国の成り立ちですが、この国を創ったのは崇高なる聖人18人の内の一人、ラリアン様と言われております。
そして、この国は魔術師が大変優れており、魔術師の最高国家と言っても差し支えないでしょう。」
今私は朝食を食べた後の講義を受けている。
先生はもちろんサンシャだ。
サンシャも講義ようの紺のワンピースに着替えている。
「はーい、サンシャ先生。」
「何ですか?」
「聖人って何ですか?」
「聖人とは、悪しき聖女を崇高する者共を静めたとされるものたちです。」
「悪しき聖女って?」
「................悪しき聖女は、聖女は、聖女は、その、あの、」
珍しくサンシャが口ごもる。
悪しき聖女と言うのは、口に出すのも戸惑われるような忌み嫌われる存在なのだろうか。
だとしたら、余り聞かない方が良かったのかもしれない。
「あっ、ねぇ、そんな事より私魔法使ってみたい!」
必死に話題を変えてみた。
上手く話題を逸らせただろうか。
これでさっきのがチャラになったらいいけど。
「.....お嬢様は、魔法は使えません。
その代わり、変身の術でしたら使えますが。」
「変身? 猫とかに変われるの?」
「はい、変身はその名の通り、動物でしたらどんな動物にもなれます。」
それって中々に凄い力なのではないだろうか。
まあ、ゾウとか蛇とかに変身するつもりはないけど。
「やってみたい!」
「....ふぅ、まあ勉強ばかりでは流石に息抜きも必要ですものね。
分かりました、今日は変身を学びましょう。」
「やった!」
「まず、猫になるように骨が変化していくのを想像してください、その後、自分の体に纏わりつくオーラのようなものがその猫に変身した体の中に満たされます。」
「猫になる、猫に、猫に、猫に........」
『ニャニャニャ、ニャニャニャ.........ニャ!!??』
目を開けると、サンシャさんのパンツが見えた。
って、私がサンシャさんのスカートの下にいるんだ!!
サンシャさんがしゃがんで私を見る。
なんだろ、凄くサンシャから威圧感を感じる。
........そして蘇る、手のワキワキ。
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『ニャニャーーーーー!!!!!』
「どうしたんですか!? リリアーナ様、サンシャ先輩!!」
バタンとドアが凄い勢いで開く。
フラウは大急ぎできたのか、肩で息をしていた。
しかも、服もよれよれだ。
「って、サンシャ.....先.....輩....。」
フラウは思わず絶句したようだ。
目をこれでもかという位に開いている。
それもこの光景をみたらしょうがないだろう。
サンシャは私を抱っこして、頬をスリスリしながら猫の私の肉球をプニプニしているのだ。
しかも床に座って。
普段マナーに厳しいサンシャが、あろうことか床に座っているのだ。
しかも本人はものすごい笑顔。
「ネコにゃん、かわいいでちゅね~♪
おてても、にゃんともいえにゃい~♪」
ど、どうしよう。
すっかりサンシャが我を失ってる。
フラウも目が点になってるし。
も.....もう......ヤバい、スッゴくスリスリしてくる。
これ本当にサンシャな、の?
「サンシャ....先輩!!
しっかりしてください! 脳に何の攻撃を受けたかは分かりませんが、傷は浅いはずです!!」
フラウはサンシャが異常をきたしていると判断したのだろう。
素早くサンシャに近すき、肩を揺らし呼び掛けている。
「.........にゃん、にゃ、ここは、って、ワタクシ!?」
やっと正気に戻ったようだ。
腕の中にいる私にきずいて、顔をサーッと青くして、次にサーッと耳まで赤くして、次に土下座した。
「.........................................お嬢様、どうかお咎めはワタクシだけに、いえ、ワタクシの命で全ての咎が果たせない場合は、ワタクシの全財産でどうにか....。」
「ええっ!! もしかしてこのネコちゃんリリアーナ様なんですか!?」
サンシャが私に向かって土下座したので、フラウも私がただのネコではなく、リリアーナであるのだと気ずいたようだ。
『ニャニャニャ、ニャニャ!!』
因みに今私は、『どう、凄いでしょ!!』と言ったのだ。
フラウは当然わからないので、コテンと顔を傾げている。
うん、やっぱり癒やされる笑顔だ。
「それにしても、リリアーナ様とっても可愛いですね。」
フラウも床に座って私を抱っこする。
ムゥ...フラウは中々撫でるのが上手だ。
眠たくなってくるし、スッゴく気持ち良い。
するとその時──、
ゴーン ゴーン ゴーン
部屋の中の大きな古時計がなった。
どうやら、もう12時になっていたようだ。
どうりでお腹も減ってきたはず....って、サンシャったら、11時からずっと私の事をモフモフしてたんだ。
サンシャのモフリスト力高すぎだよ~。
「変化を解く風よ。」
サンシャが私に手を翳し、呪文を唱えると、だんだん目線が元の位置まで戻っていく。
恐らくこれで人間に戻れたのだろう。
「本当に......、本当に........、ほんとーーに、申し訳ありませんでした。」
「大丈夫だから、本当にビックリしたけど、大丈夫。もう、落ち着いた。」
サシャが平謝りするのを何とか止めさせる。
サンシャは、動物好きなんだね~。
「そうだ、サンシャ先輩、もうそろそろ昼食の準備しなきゃですよ?」
「........そ、そうですね、それではお嬢様、その、失礼いたしま.....す。」
サンシャは頬を赤らめ、恥ずかしいそうに、手を一つに纏め、どこかモジモジしながら部屋を出て行った。
「「「.....................。」」」
何時もの食事が今日はどこか重たかった。
やっぱりサンシャは、引きずっていた。
それはもう、どこまでも果てしなく引きずっていた。
「サンシャ....、そんなに気にすることないんだよ?」
「申し訳ありませんでした。」
何を言ってもこれだ。
お陰でスープの味が全く伝わってこなかった。
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という訳で午後でーす。
皆さんついに午後でーす。
初めてお姉様とのご対面でーす。
スッゴくドキドキの緊張デス。
ソファーに腰掛けてお姉様が来るのを待つ。
今ちょうどサンシャが呼びに行っているのだ。
フラウは拒否して行かなかった。
「お嬢様、フィランカ様がいらっしゃいました。」
サンシャの後から出てきたのは、16歳くらいの美少女だった。
茶色い髪のショートヘヤーと水色の瞳の美少女だ。
でも、目が猫のような形をしているので、どうしてもキツい性格に見える。
だがそこも美しさの一部に見えるのは身内の欲目だろうか。
「簡素と貧相は、似て非なるものじゃないかしら?
と妾は思うの。
ねぇ、そう思うでしょう?サンシャ。」
「....................そぅ、で、ございますね。」
おっと、お姉様からのいきなりの卑下発言。
うん、性格は、キツそうじゃなくて、キツかった。
まあ、そうですよね、そんなもんですよね、現実なをて、本当は、ちょっぴり、お姉様!妹よ!的な展開になったら嬉しいなって、思ってたけど。
「ふん、私の妹だと言うのに、なんて地味なのかしら。」
まだ私、喋ってすらいないのに、ジロジロと眺められて、ディスられた。
かなり『地味』は傷ついたよ。
「まあいいわ、ねぇアナタ、明日アナタと共に王城に行くから、用意しておきなさい。
あと、妾は今日泊まっていくから、その準備もしておいて。」
そう言うとお姉様はさっさとどこかへ行ってしまった。
どうしよう......、控え目に行って自己中人間。
いくらお姉様だからってあの言い方はないんじゃない!
はっきり言って、あんなの美人と性格でプラマイ0!
出来るだけ関わらないようにしよう!
「な、な、何なんですか!! あの自己中な態度!!
許せません! リリアーナ様の方が絶対にお嬢様です!!
品位の欠片すら感じとることが出来ません!!」
私が思っていたことを全て私の後ろに控えていたフラウが言い切った。
フラウが嫌っていたのは、こういう所なのだろう。
まあ私も、会ってはじめましてしったけど。
フラウとは完全に馬が合わない。
そして私は今日、お姉様と喋ってすらいない。
「はぁ、申し訳ありません、ワタクシは基本、この公爵家に仕えておりますので、お嬢様を庇うこと叶いませんでした。」
「ううん、サンシャのせいじゃないから、気にしないで。」
でも、今日は想像以上に疲れた。