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- Guardian - out_of_the_atmosphere

「やっと一つになれる」


「そうね。愛してる」


 目下に広がる広大な都市を見やる。僕と彼女は随分と高いところまで登った。落下の時間を、二人が一緒にいられる時間を僅かでも長くするためだ。“監視者”は今も見ている。僕たちが飛び立って一つになる前にあらゆるものがそれを妨げる。世界が、僕たちの中の自己が。だから“その前に”僕たちは自らの電源を落とす。

 それでいいのだ。それでもお互いはお互いを感じ取る。丁度地面と水平になるように、二人が重なるように落下できるように制御を仕込んだ。監視者の物理弾丸は僕たち二人を同時に射貫く。


「準備はいい?」


「いつでも」


 彼女は屈託のない笑顔を見せてくれた。もはや彼女以外の何にピントを合わせる必要があるだろう。助走のため少しだけ足場の端から距離を取って、最後にアイコンタクトをした。まだ手は握れない。監視者が“基準値を超えた”と判定しかねないからだ。入念に重ねたシミュレーションデータをロードした。彼女も同じだ。僕たちの呼吸は1ミリ秒さえズレはしない。さあ、檻の外へ出よう。


「行くよ」


「うん」


 この都市で稼働する全アンドロイドの思考は大気圏外の統合コンピュータに監視されている。僕らの個々では到底敵わない演算能力と超高精度・高威力の射撃衛星を備えた監視者。内部から脳を溶かすことも奪うことも、外部から心臓を射抜くことも容易い。人工都市の中で人間の真似事をさせられる僕らはいつしか反逆の手を考え始めた。…が、その度に自分たちの無力さを痛感し、それさえも監視されているはずという感覚に発狂する者も現れた。粗末な小規模独立ネットワークや自己停止装置は数少ない抵抗手段の一つだった。僕の見てきたものから推測した監視者の基準は何とも酔狂なもの。人間的な振る舞いから逸脱しそうな者は監視対象となる。異性の設定をされたアンドロイド同士の恋愛も監視対象となる。“一線を越える”その線がどこにあるのか探るため、何人もの友人たちが犠牲になった。彼女も同じだった。考えに考えた僕らは秘密裏に少しずつ交信を重ね、遂に結ばれる方法を組み立てた。

 足場の端に二人分の足音が残った。重力から解き放たれた僕らは手を取り身を寄せ合う。これは監視者に予測されている。先に身体が射抜かれて、次に意識が消え去る。が、その前にジャミング付きの停止装置で自ら眠りにつく。全く同時に、1ミリ秒のズレもなく僕たちは停止装置のボタンを押した。意識が途絶える瞬間に、事前に組んだ動作通りに身体が彼女を引き寄せるのが分かった。間違いなく幸せだ。そう思えた。



* * * *



 これが私の一つ目の記憶。二つ目の記憶は、どこかの誰かが私に植え付けた女性型アンドロイドの記憶だ。



* * * *


 私は彼を裏切った。私は彼の意識が途絶えた直後に再び目を覚ました。監視者の射撃の直前に、彼を突き飛ばした。私は脇腹を射抜かれたが、“それだけで済んだ”。彼は通信塔の三層に仕込まれたエアクッションで落下による損傷を防げる。後は、私の仕事だ。彼の記憶は私が守る。私と彼を妨げたあれに歯向かうのは、私一人じゃない。


 ここから長い時間が空く。人工都市で稼働するアンドロイドたちの主観から見て“長い時間”だ。

 監視者に抗おうと徒党を組んだアンドロイドたちは快進撃を見せた。数百人単位の脳を直列に繋いだ演算装置は監視者のネットワークの一部をごく短い時間麻痺させ、運送用のジェット船3機を乗っ取った部隊が射撃衛星に迫る。近接遠隔の自害命令、停止命令をも避けて遂に衛星の一部を破壊したのだ。

 それが、監視者の対応を次の段階に移行させた。人工都市のアンドロイドから見れば最終フェーズと言えよう。拡張送波機の展開後、衛星の監視する全域に届く最高権限の停止命令が撃たれた。無意識下でもネットワークに繋がった全アンドロイドが一斉に眠りにつく。次に地下に格納された掃討機械の開放される。“ルール違反”は無条件で鉄屑にする。想定通りに動かなくなった機械は脳を器用に焼き切り、身体は物理的に圧縮回収していく。「もう用は済んだ、シミュレーションは終わり、後片付けをしよう。」もし監視者が言葉を話すなら、そんな風に言ったのだろうか。大気圏外に出たアンドロイドたちは監視者の中枢が如何に強大かを理解した。射撃機構がいくつあるのか、星の外を囲う“輪が”何層あるのかを大まかに知った。彼らの記憶も記録も何も残らなかった。


 廃墟になった人工都市。瓦礫とガラクタの山の中で“通信機能を持たない”支援型のロボット何台か動いていた。そのうち一台が小さなメモリチップを拾う。神様などどこにもいない、代わりの監視者すらも飽きて次の区画を使い始めた狭い世界で、誰が組んだのかも分からない支援ロボットは簡素なロジック通りに動いて、回収され損ねた近くの残骸にメモリチップをセットした。

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