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愚かな魔女の跡地
大魔女は遂に『崩壊の秘薬』を完成させた。強力な魔法で保護された大瓶に満たされたそれはあらゆるものを分解する。人間も金属も水や大気や大地でさえも。緩やかに最後まで。
大魔女は古い木の大机に大陸の模型を乗せた。模型は実存する彼女の世界と結び付けた魔法の道具だ。小さな山を削れば実際の山が音を立てて崩れ去る。
後は小瓶を傾けるだけで良かった。それなのに、彼女はあろうことかそれを指で掬って、模型をなぞるように、何かの形を描いていった。
大陸が崩壊を始める。姿の見えない特大な蛇がうねるように、奇妙な形に大穴が空いてそこに流れ込むように崩れ去っていく。その崩壊に何が巻き込まれたのか、少なくとも一括りの景観を持った世界がどんな人間たち、生き物たちを抱えていたのかは、大魔女が完全に秘匿した。
大魔女は笑いながら、指先から溶けていった。手を切り落とすことさえせずに、笑いながら。
別の、神霊を語る存在が後にその世界を再構築する。だが順調に形作られる大陸にどうしても奇妙な傷跡が現れる。
それは愚かな魔女の指先が残した跡であり、神霊を語るその存在には解読し得ない、短い言葉であるという。




