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風鳴りの町


 ノゼカの家から一歩出ると、また風が私を包むように弄んでから流れて行った。強風とだけ呼び捨てるにはとても足りない、生きた風。彼女はこれを何と呼んだっけ、100を超える風の名前はきっとどれも美しい響きをしているのだろう。


= = = = =


「ノゼカ、ハルカちゃんを案内してあげな」


「うん! ハルカちゃん行こう」


 眩しい笑顔でノゼカは私の手を取る。背中のあたりに布を蓄えたような仕掛けとフードが付いた衣装、この町のほとんどの人が身に着けていたものだ。ノゼカは一旦被ったフードを元に戻すと私の方をじっと見つめている。


「んー……」


 なんだろう?


「ハルカちゃん、結んでるけどあんまり髪長くないねー」


 髪? 確かにロングヘアーではないけれど、ほどけば肩に届くくらいだろうか。


「これ付けて?」


 ノゼカは不思議な模様が彫り込まれた棚から髪飾りのようなものを取り出して私に差し出した。手のひらに収まる小さなそれは凧に似た形をしている。そっと手に取った。


「ここに付けられるようになってるよ」


 身体を捻って自分の首の後ろの辺りを指すノゼカだったが、すぐに「やっぱり付けてあげる」と凧飾りを私の手から取り返した。


「この町の女の人はね、風向きが分かるからって髪を伸ばす人が多いの。こんな感じの代わりになる道具もあるんだけど、それが要らなくて楽だって。男の人でも髪は伸ばせるんだけどね、女の人は少し特別な感じなんだよねー」


= = = = =


 町の建物の形を見てにすぐに目を奪われた。植物の姿形さえ風に適応していることに間もなく気付いた私は一度思い付いた『適応』という言葉を訂正したくなった。常に風が止まない町。風に対する接し方は私の知るものとは少し、いや大きく異なってる。風は当たり前のようにそこにあり、風とは当たり前のようにともにあった。

 不規則に流線湾曲した建物が風を導き、要所に設けられた機構に動力を吹き込む。細い道や階段にさえ小さな『呼び子』が設けられ風に挨拶をしている。名前を付けて初めて認識がなされるという話をここでするなら、彼らは風に様々な名を付けて認識している。……名前を付けて? そうではないのかもしれない。


 町の端には一層強い風が巣食っていた。こちらの言葉でそれらしく言い表すなら、竜巻と木枯らしの中間の風が絶妙な力を保っていくつも休んでいるといったところ。風が休んでいるという部分は他に言いようがない。空を前にして、じっとしている。


 町は浮いているようだった。まだ見られていない町の反対側は陸続きに見えるから、そう錯覚しているだけでここの一帯がせり出しているだけなのかもしれない。けれど目下には地表が見えないのだ。それどころか超暴風域と言わんばかりに圧倒的な風が低く鈍い音を纏って流れ続けている。命綱の役割を持った道具をしっかり確かめ、恐る恐る町の終端に近づき、超暴風域を眺める。言われた通り先に風に一言告げた後、小石を一つ拾ってそこへ落とした。小石は計り知れない大きさの風に優しく包まれ、高度を保ったまま真横に飛んで行きあっという間に見えなくなった。


 ノゼカに付けてもらった凧飾りが風を読めない私の代わりに風の声を聴いたようだ。私を振り向かせた。

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